2005年07月04日
Simple Questions「そもそもユニクロって?」(2) ~「考える人」2005年夏号〜
私たちの広告コピーに、「ニュースのある服」というものがあります。
それは、ユニクロの衣服には、お話ししたいことがいっぱいあるとお伝えするためのもの。
そしてもうひとつ、「ニュース」という言葉には私たちが社会に貢献できる企業でありたい、という思いも少しだけ含まれています。
このことは、あまり声を大にして語るべきことではないのですが……。
Q 障害者の雇用について聞かせてください。
A 障害者の法定雇用率は1.8%。現在ユニクロの雇用率は7.66%です。
障害者雇用とサービス向上の関係。
最初は、法定雇用率を満たすにはどうしたらいいか、という議論から始まりました。企業としては、法定雇用率を満たしていない場合、それに応じた納付金を納める、という選択もあるのです。
しかし、実際に障害のあるスタッフが働くユニクロの店舗で、サービスが向上するケースが見られました。たとえば聴覚障害のある方が働く那覇の店舗では、聴覚障害があるからこそ、そのスタッフは人一倍お客様が何を求めておられるかに敏感に対応していましたし、一緒に働くスタッフも、トイレのある場所を案内することはできても、商品の詳しい説明は難しい聴覚障害のスタッフをカバーしようと、チームワークの意識が高まっていったのです。実際に、店舗全体の雰囲気が向上し、サービスの質も上がっていました。
そのようなケースを見て、これは全店で障害者雇用を進めよう、ということになったのです。
障害者には重度、軽度がありますし、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、内臓障害、知的障害、精神障害、など様々な障害があります。ユニクロでもっとも多いのは知的障害の方です。段ボールで入荷した商品を一点一点ビニール袋から取りだして、商品の種類別、サイズ別、色別に並べ直す作業や、店舗のオープン前の清掃作業など、お客様の目に触れない裏方役として働いているケースが多いので、気づかれないこともあると思います。
採用については、主に、それぞれの地域の障害者職業センターに障害者として登録されている方が、カウンセラーの方のサポートを得ながら応募されるケースがほとんどです。まずは一緒に、二、三ヶ月働いていただいて、障害者の方に店舗で働けるかどうかの判断をしていただきます。私たちもどのようなコミュニケーションをとれば一緒に働けるのかを個々に検討しています。そのようなジョブコーチやトライアル雇用の期間を経てから、本採用になります。
ユニクロの障害者雇用について、店舗サイドと障害のあるスタッフと双方にアンケートをとったことがあります。すると、それぞれ七割以上の割合で肯定的な回答が得られました。店舗が障害者雇用を「やらされている」と感じているケースはほとんどない、といってもいい状況です。障害のあるスタッフも働く意欲と社会参加を実感しているケースが多いようです。
一店舗一名以上の採用が私たちの目標ですが、現実的にはまだ七割から八割程度の店舗での採用に留まっているのが現状です。法定雇用率を上回ってはいますが、まだまだこれからだというのが私たちの実感です。これからも、お客様へのサービス向上につながる障害者雇用に、引き続き積極的に取り組みたいと思っています。
Q ユニクロはリサイクルにどのように取り組んでいますか?
A まずは、フリースのリサイクルから始めています。検討すべき課題もあります。
リサイクルしたのは二五万点弱。継続こそが大事だと考えています。
フリースのリサイクルは二〇〇一年から始めました。九八年以降のフリースのブームがあり、国内最大の衣料品企業としてのユニクロが、社会的な責任をいかにして果たすかという問題が急速にクローズアップされたのです。
フリースのブームが巻き起こった後ぐらいから、リサイクルはしないのか、という声がお客様からも少しずつ届くようになってきました。二〇〇一年の三月には社会・環境活動室を作り、取引先である素材メーカーの方と相談を始め、実験を重ねました。フリースのリサイクルをスタートしたのは同年の九月です。
もちろん私たちは環境NGOではなく、利潤を追求する普通の企業です。リサイクルが経営を圧迫してしまっては本末転倒になってしまいます。ですから、たとえば最大で数百万点のフリースがお客様から戻ってきたと仮定して、実際に処理が可能なのかどうか、処理にはどれぐらいのコストがかかるのか、そして窓口として対応する店舗にどれぐらい負担がかかるか、というシミュレーションを慎重に行いました。「それでもやる覚悟はあるのか」と検討を重ねた上で、スタートしたわけです。
現在は累計で二五万点に迫る数のフリースをリサイクルするまでになりました。リサイクルしたフリースは再加工されて、河川の護岸工事に使う植栽用のベースに使われたり、燃焼させて電気エネルギーとして使われたりしています。
フリース以外のリサイクルについてもお客様からいろいろなお声を頂戴しています。検討しているものもあり、これからの課題はまだまだあります。
私たちは継続してできることから始めたいと考えています。打ち上げ花火ばかり派手にやっても、継続できないのでは意味がありません。社会・環境活動は、無理のない範囲で、しかし始めたらきちんと継続させる、ということにこそ意味があると思っています。
Q 大震災、災害などの際に、国内海外問わず支援物資として商品を無償提供する場合があるようですが、それはどのような判断によるのでしょうか?
A 衣料品の企業としてできることは何かを考え、できることから実行しています。
大きな災害が起こったときに、果たすべき社会的責任がある。
大きな災害があったとき、まず必要なものは水であり食料であり医療です。その次に必要になってくるのが、衣料品です。ユニクロは衣料品の企業としては日本で最も大きな企業ですから、大きな災害が起こったときに、果たすべき社会的責任がある、と考えています。
緊急災害支援の最終判断については経営事項になっていますが、大きな災害が起こったとき、まず社会・環境活動室は現地で何が必要なのかを考え、調べます。
昨年の新潟の大地震の際には、防寒の必要が明らかでしたので、アウトラスト・フリースが一番ふさわしい、と判断しました。しかし、ユニクロにとってはキャンペーンを打って売り出している真っ最中の商品でもありましたから、店舗に欠品が出てしまうのは問題です。そこでマーチャンダイザーと事前に相談をし、提供しても大丈夫だという判断をもらった上で、新潟県の災害対策本部と連絡をとり、災害支援として提供する商品と数量のプランを立てました。そして具体的なプランを大至急詰めて、経営陣に諮り、実際の支援活動へと移ったというわけです。
災害が起こった場所、規模、季節など、様々な要素によってご提供できるものも変わります。ですから、判断はつねにケース・バイ・ケースになります。
日本の支援活動の実際の現場では、「いらなくなったもの」や「余ってしまったもの」を相談もなく一方的に送りつけてしまう場合がまだまだ少なくないようです。私たちは現地で必要とされるものは何かを必ずうかがった上で調達しますので、キャンペーン中の新品のものを送る場合もあれば、在庫に余裕のあるものを選んで送る場合もあります。売れ残ったものだけを送りつけているのでは、と思われているとしたら、それは非常に残念な誤解です。不要なものを送りつけても、それは迷惑以外の何ものでもありませんから。
Q ユニクロはどうして低価格で販売できるのですか?
A 「業界の常識」とか、「会社の都合」のようなものを全部取り外して、つまり無駄を省いて、そこで不要になったコストをお客様に還元しようというのが、企業理念です。その具体的な方法論は、商品を自社で企画し、原料の調達から縫製、販売まですべて一貫して自分たちで行い、流通中間マージンなどを省き、在庫のリスクをコントロールしていること。それでは、何でも自前かと言えば、そうではありません。私たちの特徴は「持たない経営」なのです。店舗も賃貸契約がほとんどですし、中国の工場も契約をしているのであって、自社工場ではありません。なるべく身軽にして、つまり身軽にすれば商品の値段にかぶせる部分が少なくなりますから、その結果として低価格が可能になるのです。ただし、無駄は省いても手間は省きません。「安い」ことのために品質を犠牲にすることはありません。品質が高く、価値のある商品を、いかにリーズナブルな価格で提供できるかが、ユニクロの目指すものです。
Q ユニクロには常に変わらない定番の商品はあるのですか?
A 定番商品かどうかは、お客様に決めていただくことだと考えています。そして「定番はこれだ」とご支持をいただいたとしても、素材やデザインの吟味を毎年続けていますので、「常に変わらない」定番商品はない、とも言えます。
「ドライカノコポロ」は、去年とここが違います。
ユニクロに「定番商品」はあるのかというご質問をいただきました。ポロシャツを具体例にして説明させてください。
今年のポロは、去年のものとじっくりと見比べない限り、新商品だけを見ても違いがわからない方もいらっしゃるかもしれません。毎年同じものを作っていると思われる場合もあるでしょう。しかし、素材も、デザインも、毎年新たに進化しています。去年のポロと今年のポロとでは、実はかなりの違いがあります。
まず素材です。汗を吸い上げてすぐに乾かす機能をもった「ドライカノコポロ」は、ユニクロのそれこそ「定番」といってもいい商品なのですが、今年の「ドライカノコポロ」には、綿素材のなかでも品質の高いエクストラファインコットンを使用することになりました。綿の繊維の長さが非常に長い「超長綿」と呼ばれるもの。「超長綿」ではシーアイランドコットンがよく知られていますが、私たちの綿素材はスーピマコットンと言います。それではスーピマコットンのどこが素材として素晴らしいのでしょうか。
シルクが人気があり高価なのは、他の素材と違い自然な光沢があり、艶やかな発色をし、肌触りがいいからです。それはシルクの繊維が均質で圧倒的に長いため、そのような効果が現れるのです。繊維が短いと生地としての仕上がりが曇ったようになったり、表面にけばが出やすくなります。「超長綿」が素晴らしいのは、このシルクの原理と同じで、繊維が長いため、生地の質感、発色がしっとりとつややかなものになることです。
素材ばかりではありません。デザインも去年と違っています。これまでのポロは比較的たっぷりとした、着る人の許容範囲をやや広めにとったものでした。肩幅もあり、肩から袖にかけての傾斜も直線を描いていて、ハンガーにかけて見るのが一番きれいに見えるデザイン、とでも言えばいいでしょうか。今年のポロは、人間のからだにちょうどフィットするデザインで、着ていただいたときが一番美しく見えるようになっています。つまり着心地もしっくりと馴染み、フィット感が格段に向上したはずです。
今の時代のデザインは、からだにフィットする「リアルクローズ」が好まれるようになっています。ユニクロは時代の流れに沿ったお客様の好みの変化を、きちんとデザインに反映させたいと思っています。棚に陳列されている状態ではわかりにくい変化かもしれません。実際に着ていただければ「なるほど」とからだが納得してくれるはずです。
ユニクロのジャケットにぜひご注目ください。
今お手元にあるジャケットのボタンは三つですか? 二つですか? 三つだとお答えになる方が多いのではないかと思います。そうだとしたら、ぜひユニクロの新しいジャケットをお試しいただきたい。
私たちがこれからお届けするジャケットは二つボタンです。二つボタンのジャケットはどういうデザインかと言えば、ボタンを留めたときの首から胸にかけてできるVゾーンの頂点の位置が低いということなんです。三つボタンは高い位置にあります。着丈もだんだん短くなっています。
ファッションのトレンドは微妙に、しかし確実に変化します。人の目を奪うような激しくインパクトのある流行ではなくて、ジャケットのような衣料品の定番感の強いものに、実はトレンドというものはじわじわと、しかしかなり顕著に現れるものなのです。私たちはその変化に敏感に反応し、デザインを吟味して、その結果をお客様にお届けしたい。ユニクロはカジュアルウエアだから、ファッションのトレンドとは無縁でやっているのではと思われていたとしたら、それはちょっと残念なことですし、実態はそうではありません、と申し上げたいですね。
ユニクロの商品はまずベーシックで着やすいものでありたいというのは今後も変わらない基本です。ただそのベーシックも、川で言えば源流から河口までの広がりがあります。ゆったりした流れの、多くの人が集まることのできる河口もあれば、まだ湧き出てきたばかりで、水もちょっと冷たいような、でも新鮮な驚きのあるベーシックもあると思うのです。
ベルベットのジャケットは、これまではフォーマルなアイテムだったと思います。でも今はジーンズと合わせて着こなしてもいい。遊び心や愉しさを味わっていただけるようなジャケットの提案をしたいのです。お洒落なアイテムということで選ばせていただければ、今年のジャケットは川の上流からもっとも新鮮なデザインを収穫したユニクロデザイン研究室の自信作ということになります。
私たちユニクロは、お客様や社会からの支持があって初めて成り立ちます。今日まで成長できたのも、お客様や社会の支持あってこそ。私たちは、そのお客様や社会に何らかの形でお返しができたら、と考えました。決して大きく構えて取組むというのではなく、まず、できるところから、そして少しずつ。人へ、社会へ、いろいろな形でお返しをしていこうと思います。そのために、社会貢献・環境活動を専門に行う「社会・環境活動室」を2001年3月に設置しました。活動の詳細についてはこちらをご覧ください。
「考える人」2005年夏号
(文/取材:新潮社編集部、撮影:菅野健児、三原久明)
詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。