2006年01月09日
できることから少しずつ始めています。ユニクロのリサイクル活動 ~「考える人」2006年冬号~
~「考える人」2006年冬号(新潮社)より転載~
環境への取り組みはまだ始まったばかり。
フリースリサイクル
もう着なくなったフリースを処分するとき、どのようにすればよいのでしょうか──。現在、ユニクロが取り組んでいるフリース・リサイクルの現状をレポートしながら、その問題について考えたいと思います。
(このレポートは、「考える人」編集部が、関連する人と場所に取材をし、その結果をもとに書いています)
生活の多様化はゴミの多様化
特集で取り上げた一九六二年当時に較べれば、私たちの現在の暮らしは遥かに便利で快適なものになりました。
しかし一九六二年当時、ゴミの量は今ほど多くはありませんでした。道端には蓋付きのコンクリート製ゴミ箱が置かれてありましたが、入っていたのは、ほとんどが可燃物。日々捨てられるものは、町内会で共有していたゴミ箱に充分に納まる量だったのです。
コンビニエンスストアはなく、インスタント食品もごくわずかでした。八百屋で買った野菜は新聞紙に包まれ、主婦はそれを買い物かごに入れて持ち帰りました。
生活スタイルが多様化すれば、ゴミも多様化し、量も増えます。地域にもよりますが、収集には可燃・不燃の区別があり、ガラス、アルミ、スチール、新聞紙、雑誌、段ボールなどリサイクル可能な分別ゴミは再資源化するようになりました。こうしたゴミの多様化にともなって、処理方法も多様化してきたわけです。
一九六二年にはまだ現れていなかったフリースの原材料はポリエステルです。地域の衣料回収などに出せる場合はともかく、ゴミとして出すとどうなるでしょうか? 地域によっては、可燃物として処分されることも、不燃物として扱われることもあります。
不燃物として処分される場合、フリースは最終処分場で埋め立てられることになります。といっても、埋め立てには物理的な限界があります。環境省の「循環型社会白書 平成17年版」によれば、このままのスピードで埋め立てが進むと、あと約十三年で最終処分施設は満杯になってしまうといいます(ただしこれは一般ゴミの場合。産業廃棄物についてはさらに残余年数は短く、約四年です)。
最終処分場によっては、埋め立てたものを再度掘り起こし、ゴミの分類をやり直し洗浄してから、リサイクルや焼却処分をし直しているところもあるぐらいなのです。埋め立てという方法自体が、今、根本から見直されています。
軽くて保温性に優れたフリースは、一九八〇年代に登山・ハイキングなどのアウトドア用品の素材として開発されました。冬のカジュアルウェアとしても人気が出始めたのは一九九〇年代。そして、ユニクロが本格的にフリースの製造販売を開始し数年が経った二〇〇〇年には、ユニクロのフリースは二千万枚を超える大ヒットとなりました。
世の中に送り出した商品の行く末を、ユニクロが真剣に考え始めたのは、このフリースの大ヒットがきっかけでした。
販売されたフリースが、すべてゴミ化したらどうなるか。それはどうしても環境に負荷のかかる、うれしくない光景です。自分たちが販売した商品には社会的な責任があります。それでは、そのために何ができるのでしょうか?
埋め立てではなく熱エネルギーに
ユニクロがフリースのリサイクルをスタートしたのは二〇〇一年九月。きっかけとなったのはユーザーから寄せられた声でした。「要らなくなった服を回収して、リサイクルして欲しい」。この声が契機となり、ユニクロがまずリサイクルの対象として選んだのは、フリースでした。理由は三つあります。
一つ。フリースはポリエステルという単一素材から出来ているため、処理が比較的容易であること。素材が複数の場合には素材ごとに切り離して処理しなければなりません(フリースの場合でも、別素材であるジッパーが付いていますから、鋏で切り取った上で処理に回しています)。
二つ。ポリエステルは一般的に不燃物として扱われるため、社会や環境への負担となりやすいこと。さきほど触れたように、埋め立て用に準備されている最終処分場は、すでに許容量の限界に刻々と近づいています。
三つ。処分するのに必要な「量」が確保しやすいこと。各店舗に届いたフリースは一ヶ所に集積されます。一時的に倉庫で保管され、一定量にまとまったところで処理場へと搬送されます。処理場では一定量をまとめて作業しなければ効率が悪くなります。輸送にもエネルギーが消費されるわけですから、小分けの輸送も望ましくありません。ユニクロは環境NGOではなく、利潤を追求する普通の企業です。フリースの処理にかかる費用が経営を圧迫してしまったら困ります。フリースは他の商品に較べて販売量が多いので、リサイクルのために戻ってくる数も多い。効率的な作業にふさわしい商品はやはりフリースということになったわけです。
ユニクロのフリース・リサイクルは、現在は「サーマル・リサイクル」によって処理されています。サーマル・リサイクルはまだ耳なれない言葉かもしれません。サーマル(=thermal)とは「熱」。すなわち「熱回収」という意味です。
ゴミを焼却する際には大きな熱エネルギーが発生します。この熱エネルギーによってボイラーを動かし、蒸気を発生させ、タービンを回転させて発電を行うのがサーマル・リサイクル。この技術は、ドイツが先進国です。EUでは一九九九年から廃棄物埋め立てを規制するようになり、削減目標を達成するため、ドイツの隣国であるデンマークやオランダでも、このサーマル・リサイクルを積極的に推進しています。
これは単にゴミ処理問題の解決策としてばかりではなく、石油、石炭など有限の化石燃料の使用量削減にもつながります。
例えば、年間二〇〇万トンの廃プラスチックを発電用燃料として使用した場合に、年間二四〇万トンの石炭の使用が抑えられる計算になります。
また、発電所から排出される廃棄物、主に焼却灰などの量は石炭火力発電と比較すると約三分の一。燃焼時のCO2(二酸化炭素)排出量も、石炭と比較すると約一五~二〇%削減できると言われています。
ユニクロのフリースが処理される工場は、世界で初めての、プラスチックだけを燃焼させて発電する工場です(電気事業法における発電所としての認可施設でもあります)。
プラスチックを燃焼させる、と聞くとダイオキシンは大丈夫なのか、という心配や疑問もわいてきます。しかし、この工場では、ダイオキシンの原因となる塩化ビニール等は事前に厳しくチェックされ排除されるので、燃料に回されることはありません。
それでもなお、そのような素材が混入する可能性はゼロではないので、燃焼時にダイオキシン等の有害物質が発生し、排出されないように取られている対策があります。
まずは、燃焼のシステムです。燃焼ガス温度は八五〇oC以上で管理され、ガス滞留時間を2秒以上確保し、炉内でガスを攪拌しながらもう一度空気と混ぜあわせ、ダイオキシンが発生しないようにしています。
さらに、仮にごく微量であってもダイオキシンが発生した場合に備えて、活性炭を燃焼ガスに吹き込んでダイオキシンを吸着させ、フィルターで除去するというシステムです。
燃やす前にも大切な工程があります。群馬県太田市にある前処理工場。ジッパーを除去されたフリースは、一定量が溜まるとここに運ばれてきます。段ボールに詰められて集まって来たフリースは、まず一五〇ミリ以下のサイズに破砕されます。破砕されたものは、重さ約四〇〇キロの巨大な白いサイコロ状の「ベール」として圧縮加工されます。これは工場のある北海道苫小牧市まで効率良く運ぶための梱包。こうしておけば、屋外での保管も容易です。
工場の方からヘルメットを借りて被り、次々に工場へとプラスチック燃料が運ばれて来る様子を見ていると、何とも言えない気持ちになってきます。私たちは自分たちの出すゴミについて、ほとんど何も具体的には知らないのだ、ということが痛いほどわかってくる。人間が生活をしていると、工場がモノを生産していると、必ずそこにはゴミが発生する。このことは、実際に目の当たりにしなければどうしても実感を持つことができないことなのかもしれません。リサイクルできるものはちゃんと分別すること。可燃物と不燃物が混ざらないようにすること。普段はどこか「やらされている」と感じていたかもしれないことが、現場を見ているといかに大切かが見えてきます。黙々と作業をする人々と機械を見ていると、「お世話になります」と頭が下がります。
巨大な白いサイコロ「ベール」が、苫小牧の工場に届くと、今度はサイコロごと破砕されます。燃焼システムの流れに効率良く乗せるため、三〇ミリ程度の粒に加工するのです。
実は、フリースは一般的な包装材のプラスチックに較べると、燃焼時の熱量(カロリー)が少し低めなのです。苫小牧での「プラスチック専焼発電」のひとつの大きなポイントは、発生する熱量が大きく変動しないこと。北海道電力に送電される発電量が大きくなったり小さくなったりするのでは安定した供給という意味で問題があります。それでは、熱量を安定させるにはどうすればいいのでしょうか。
熱量の低いフリースを燃料とする場合には、他の高カロリーのプラスチック燃料とブレンドしなければなりません。その様子をコントロール室で監視しながら、安定した燃焼と、安定した電力の供給を果たす。ここに計器類による厳密な監視と人間の職人芸的な手腕が発揮されているのです。
コントロール室をガラス窓の外側から覗き込んでみると、パネルに表れる数字に神経を集中する人たちが、寡黙に仕事を進めているのが見えました。
群馬県太田市の前処理工場での工程。
1.回収されたフリースの梱包を工場で解く(右上)。
2.フリースを破砕機にかけて細かく加工する(右下)。
3.破砕されたものを「ベール」と呼ばれる固まりに梱包する(左上)。
4.ベールをトラックに積んで陸路を苫小牧市へ(左下)。
循環型社会に向けて今できることから始める
約四〇〇キロのベール一つで、標準的な家庭が一ヶ月に使用する電力をほぼまかなえるそうです。他の廃プラスチックとともに電力へと姿を変えたフリースは、北海道電力に買い取られます。「この電力は、フリースがエネルギーに姿を変えたものなのだ」と誰かに思われることもなく、北海道の各家庭に送られていきます。
この苫小牧の工場のすぐ隣が、北海道電力の発電所になっています。またほんの少し離れたところには広大な石油の備蓄基地がありました。
ふだん都市で生活をしていると、エネルギーの「入ってくる」ところ、「出ていく」ところをなかなか目にすることができません。ゴミのこともまたしかり。
環境省の「循環型社会白書」を読んでいて少しだけ意外だったことがあります。ゴミ問題が社会的な問題として大きく取り上げられたのは一九九九年のことでした。たとえば名古屋市で「ごみ非常事態宣言」が出された年です。その五年後の二〇〇四年の同市のゴミの量は、約三〇%少なくなっているのです。一方、資源回収量は二・四倍、埋め立ての量も六割減になっています。確実な成果がきちんと上がって来ていることを、これらの数字が伝えています。悪い話ばかりではないのです。
ところが、世界各国の二〇〇〇年における一般廃棄物の年間の発生量を見ると、日本は五一〇〇万トン。イギリスは三三〇〇万トン、ドイツは四四〇〇万トン、フランスは三一〇〇万トン。ちなみにデンマークは四〇〇万トン。そしてアメリカはなんと二億九〇〇万トン。人口比の問題もありますから単純な比較はできませんが、しかしゴミ問題に関する限り、私たち日本人はアメリカ型の廃棄物生産大国の後を追ってはいけない、ということをひしひしと実感させる数字ではあります。日本はまだ努力の余地が大いにありそうです。
ユニクロの環境への取り組みは始まったばかりです。できることから始めたリサイクルの問題は、今後もさまざまな角度から検討され、実行されていくでしょう。
最後にこの取材の途中で知った意外な事実。ユニクロのグレーの袋、あれは不燃物? 可燃物?
長らく不燃物だと思っていたのですが、実は可燃物なのだそうです。もちろん燃やしても有害な物質は出ない素材でできているとのこと。
ご存知でしたか?
「考える人」2006年冬号
(文/取材:新潮社編集部、撮影:広瀬達郎・菅野健児)
詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい 。