2006年12月25日
ファーストリテイリング新ブランド g.u. ~「考える人」2007年冬号~
~「考える人」2007年冬号(新潮社)より転載~
g.u.はユニクロとこんなところが違います
ファーストリテイリング 新ブランドg.u.
株式会社ジーユー代表取締役社長
中嶋修一(Nakajima Shuichi)
この十月にスタートした「g.u.(ジーユー)」は、私たちファーストリテイリングがダイエーさんと業務提携し、新たに企画開発したブランドです。私たちにとっては、ユニクロに続くもうひとつの新しい基幹ブランドになることを目指しています。始まったばかりですし、これから育てていかなければいけないわけですから、基幹ブランドになるかどうかはお客様次第なのですが。
g.u.のロゴを見ていただくと、g と u の横にエンジ色の種のようなマークがあります。これはファーストリテイリングの種から新しく生まれ、芽を出したブランドだという表現です。g.u.(ジーユー)の読み方には、もっと「自由」に着よう、というメッセージもこめられています。
それではどうして新しい種をまくことになったのか。ユニクロとはどこがどう違うのか、このことをまずお話ししておいたほうがいいですね。
ファッション性が豊かで低価格
ユニクロが切りひらいた高品質で低価格な商品づくりは、この数年で、衣料品の世界を大きく変えました。その結果、品質は別にして、低価格という部分についてだけはユニクロよりも安い商品が以前よりもだいぶ増えてきているのです。
ただ、ひとつのブランドの名のもとでトータルなコンセプトがしっかりと描かれていて、ファッション性も豊かで低価格、というのは意外とないんですね。残念ながら、低価格を実現するのに精一杯で、着ることの楽しさを感じさせてくれるものは少ないようです。
であれば、ユニクロでこれまでに培ってきたノウハウで、まったく新しいブランドを作ってしまったらどうかと私たちは考えたのです。ユニクロの商品の価格帯とは重ならず、さらに安い価格帯で、トレンドをとりこんだファッションを気軽に楽しめる。それもお子さんのいらっしゃる二十代後半から三十代前半のファミリーが、家族全員で一緒にコーディネイトできるようなブランド--私たちが思い描いたのは、そんなイメージでした。
もちろん今は六十歳以上の世代であってもジーパンをふつうにはきこなされる方が増えました。年配の方を意識してデザインした商品はありませんが、そういう意味では、幅広い年齢層のお客様にも楽しんでいただけるブランドになっています。
さらにダイエーさんとの業務提携の話が具体化したので、店舗展開では全面的な協力を得られることになり弾みがつきました。年内には二十五店舗がオープンするところまで漕ぎ着けたというわけです。
一号店の南行徳店は十月十三日のオープンでした。開店と同時に、店外にまで行列が伸びる大盛況となりました。開店早々売り切れてしまう商品もありご迷惑もおかけしましたが、新しいブランドを求めるお客様の具体的な姿を見ることができ、勇気づけられる思いでした。
正直いって、g.u.というブランドはまだ誰も知らないに等しいですよね。だから、南行徳店オープンの前の晩、チームのメンバーと遅めの夕食をとりながら「本当に来てくれるのかな」とちょっと弱気な発言も出ていました。ブランドの出来については自信があっても、不安でした。いや、新しいことを始めるときというのはいつも同じです。どんなに周到に準備していても、お客様が来るか来ないかは、当日になってみないとまったくわからない。お客様の反応を見て、自分たちの考えが間違っていなかったと知ることができるまでは安心できませんし、今回のようにオープンが盛況でも、その後も引き続き来てくださるかどうかはわからない。日々、そのような緊張感があります。
安心できる品質であること
g.u.とユニクロでは、品質について考え方はどう違うのかとよく聞かれます。これをきっかけにユニクロは低価格をやめてしまうのか、というご質問もありました。
ユニクロはつねに最高の品質を追求してきました。工場にスタッフがはりついて納得のいくまでサンプルを何度もつくっていますし、仕上がったものをチェックするシステムについては、生産管理のスタッフが中国に何百人、日本に何百人といますから、これ以上は無理というところまで徹底的につき詰めてこだわっているんですね。たとえば夏に着るポロシャツやTシャツなどでいえば、カジュアルウエアとして備えているべき品質をも超えて、スポーツウエアのレベルまで品質の基準を引き上げています。つまり、激しい動きによる摩擦や、たくさんかく汗、強く引っぱられるような状態でも耐えられる品質。最高の品質という言葉には、こういう条件も含まれているのです。
そして、ユニクロの商品は、素材についてのこだわりもあります。最高品質のエクストラ・ファイン・コットン、カシミア、ヨーロッパ・リネンなどを世界各地に探し求めますし、ドライやエアテックなど最新のテクノロジーの成果による新素材も積極的に採用してきました。
これまでにない、着る人が快適になる付加価値とは何か、をつねに考えているのです。そして、これだけの付加価値と最高の品質があって、しかも低価格で買うことが出来るという「驚き」を、お届けしたい。自画自賛になってしまいますが、ここまでこだわって商品の完成度を高めているカジュアルウエアのブランドは、これまでになかったと思っています。
g.u.の品質については、ひと言で言えば、「安心できる品質である」ということでしょうか。どうしてもこの素材の最高品質を極めなければ、というのでも、これまでにない新しい機能を付加してみよう、というアプローチでもなく、普通の素材をきちんと使って手頃で低価格な良いものを作ろう、というスタンスですね。g.u.の品質は、日常的に着て、どんどん洗濯機で洗って、気軽に楽しめるもの。フランス人などを見ていると、着るものにはお金をかけない人が多いですよね。ブランドものではない安いものを上手に見つくろって、着こなしてしまう。そういう楽しさをg.u.はお客様に提供したいんですね。
もちろん品質の基準はきちんとおさえています。素材、縫製、色落ち、強度など、g.u.が保証するスタンダードな品質を一貫して管理するシステムは整えています。「安心できる品質」というのは「安かろう悪かろう」ではない、ということです。
そしてg.u.でこだわっている点は、ファッション性です。冬物を新たに買いに行こう、春物を買いに行こうと思いたったときに、g.u.に来てくだされば、今年のトレンドとして雑誌に紹介されるようなものが必ず買える、ということですね。最新流行のものだから高いお金を出さなければ買えない、ということはないはずなんです。最新流行はデザインですから、デザインの動向をつかむアンテナがあれば、どこよりも早く、しかも低価格で商品化することができると信じています。私たちはニューヨークやパリ、ロンドンの最新ファッションの動向をリアルタイムで把握する努力をしています。ある意味では雑誌に紹介されると同時に、g.u.が最新の流行をつかんで、気軽に発信することができることを目標としています。ひょっとしたら今年限りの遊びのつもりで、最新流行を着てみたい、という人もいるでしょう。低価格の衣料品はトレンドとは無縁で、時代遅れの代名詞だったかもしれません。しかしユニクロがこれまで培ってきたノウハウがあれば、低価格で気軽なお洒落は十分に可能だと考えていますし、低価格だからこそかえって躊躇せずに楽しめる、ということもあるのではないでしょうか。
郊外に住むファミリーに向けて
年内にオープンするg.u.の店舗は、首都圏ではなく郊外店が中心になります。スタートする場所として郊外を選んだ理由は、ふたつあります。
ひとつめは、g.u.の想定する若いファミリー層のお客様が、郊外にたくさん住んでいらっしゃるということですね。お子さんができて、ゆとりのある住まいを探せば、おのずと郊外のロケーションになる。そんな若い家族の多く住むエリアがg.u.のスタートにはふさわしいと考えました。
南行徳店のオープンの日には、本当にたくさんの方が自転車に乗って来店してくださったんですね。お子さんのいらっしゃる郊外の家庭は、自転車を利用する機会が多い。お子さんと一緒に気軽に自転車で乗りつけてくださるような店になれば、g.u.は成功するんじゃないかと思っています。ダイエーさんには駐輪スペースのある店舗が多いので、その点でも地域に密着した展開が期待できると考えています。
もうひとつは、首都圏の出店をしようとした場合、低価格を実現するためにはどうしても店にかかる家賃がネックになってくる、ということです。都心の家賃は高い。家賃が商品の価格設定に影響を与えてしまっては意味がありません。郊外店ならばその心配も少なくてすみます。それに私たちのお店は新聞の折り込みチラシでお客様を集める方法なので、チラシの効果という点でも都心より郊外のほうが期待できるのです。これはユニクロ時代に経験させていただきました。
g.u.のオープンの広告は、当日の朝、新聞の折り込みチラシだけでした。莫大な費用をかけて、不特定多数の方に広く宣伝するテレビCM等はコストの面から出来ませんでしたが、地元の方に実質的なご案内を差し上げることに特化し、結果を見ることにしました。これも南行徳店のオープンの盛況を見ると、うまくいったようですが、これからが正念場だと思っています。
Gの頭文字で始まる会社
g.u.という社名は、アメリカの自動車会社GMや、電機産業GEなど巨大企業と同じくGで始まります。そのことに柳井正会長が最初に気づいて、「g.u.もそれぐらい大きな会社になってくれるということかもしれませんね」と笑って言うんですよ(笑)。ちなみに私たちの名刺に刷られている正式の名称は大文字でGU(笑)。ユニクロはファーストリテイリングというグループ企業の大きな柱ですが、g.u.もそれに続くような重要な位置をしめることが目標です。そういう思いを持って、ゼロからスタートさせる仕事ができる。滅多にない機会ですし、今は毎日がおもしろいですね。どうかぜひ、お近くにg.u.があったらのぞきにいらしてください。お待ちしています。
ファーストリテイリンググループの新ブランド「g.u.(ジーユー)」には、「もっと『自由』に着よう」というメッセージが込められています。「g.u.」は、「驚きの低価格」「トレンドを意識したファッションテイスト」「幅広いお客様を意識した圧倒的なデザインバリエーション」「家族で楽しめるファッション性」「清潔感が溢れ、新鮮な雰囲気の店舗」「安心できる品質」をご提供するブランドとして、06年の秋冬に25店舗、07年春夏に25店舗出店し、その後毎年(毎期)50店舗のペースで出店する予定です。詳しくはこちらへアクセスしてください。
「考える人」2007年冬号
(文/取材:新潮社編集部、撮影:菅野健児)
詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。