プレスリリース

2007年07月04日

UT STORE HARAJUKU.の舞台裏 ~「考える人」2007年夏号~

~「考える人」2007年夏号(新潮社)より転載~

新しいTシャツを未来のコンビニで

UT STORE HARAJUKU.

20070704_4.jpg 今から七年前、ユニクロのフリースが大ブームになった原点ともいうべき店がある。ユニクロの東京進出の拠点にもなった、東京・渋谷のユニクロ原宿店だ。

 去る四月、この店が全面的に改装され、UT STORE HARAJUKU.に生まれ変わった。赤・白・銀を基調とした店内は、未来のコンビニエンスストアのような明るい清潔感が溢れている。壁際のまさにドリンク・コーナーと見紛うような銀色の什器には、ボトルパッケージに入ったTシャツがずらりと並ぶ。一階から三階まで売られているのはすべてTシャツばかり。各フロアの中央ではハンガーにかけられたTシャツを手にとって見ることができ、そのTシャツがどの棚のボトルパッケージに入っているかは、つけられているタグを見ればひと目でわかるようになっている。あるいは、店内に用意されているタッチパネル式のコンピュータ画面でジャンル別、色別など自由な検索をかけて、自分のイメージに合いそうなTシャツを画像で探し出し、そのTシャツがどこにおいてあるのかを調べることもできる。

 目指すボトルパッケージを棚から取り出すと、その後ろからスルスルと自動的に次のボトルが前へせり出してくる。まさにコンビニエンスストアで飲料のボトルを買うのと同じ仕組み。

 このUT STORE HARAJUKU.を総合プロデュースしたのは、アートディレクターの佐藤可士和氏。昨年の秋にオープンしたユニクロの旗艦店、ソーホー ニューヨーク店のプロデュースに続く、佐藤氏の大きな仕事である。佐藤氏に話を聞いた。

「本気」を伝え、「弱み」を解決する

「ユニクロがTシャツを作ってるのは知ってましたけど、仕事を一緒にやるようになるまで、五〇〇種類もあるなんて知らなかったんですよ。ソーホー ニューヨーク店をつくっている最中も、柳井さんと雑談になるたびに、必ずTシャツの話になった。これほど本気でTシャツに取り組んでいるブランドは他にない。それはことあるごとに伝わってきました。

 だけど五〇〇種類もあることが世の中にうまく伝わってない。しかもあまりに数が多いために、かえって選びにくく買いにくくなってるんじゃないか。強みが弱みになってる。そう思ったんです。

 去年、ソーホー ニューヨーク店がオープンした十一月十日に『次はTシャツをお願いしますよ』と柳井さんに言われました。Tシャツをユニクロの主力商品として、いままでとまったく違うシステムで売るためのプロジェクトは、このオープンの日から本格的にスタートしたわけです。

 Tシャツのヴァリエーションはたくさんあって実はすごく面白い。でもそれがたたまれて積み上げられてしまうと楽しく選べない。問題はそこなんですね。インターネットのアマゾンやグーグルは、本やCDや情報を検索して探し出すこと自体が面白いわけですよね。五〇〇種類もあるTシャツのなかから、自分が気に入るものを探し出すこと自体が楽しい、そういう新しい経験を呼ぶシステムも考えられるんじゃないか。『UT』というのは、ユニクロのTシャツを意味するだけじゃなくて、ユニクロがTシャツをどうやって見せて売るのか、という新しい提案、新しいシステム全体を意味するものにしたかった」

定番は、出現率二万分の一の世界

「Tシャツを何かの容れ物に入れて売ろうというのは最初から相談していたことでした。紙の箱がいいとか、ブリスターパックがいいとか、アイディアはいくつかあったんですけれど、何度めかの打ち合わせのとき、テーブルの上にあったミネラル・ウォーターのペットボトルを見て、あ、そうか、これがいい、と思ったんです。ペットボトルにTシャツを入れて売ろう、と。ひとつのモジュール(機能する一単位)が決まれば、Tシャツの種類によってラベルを貼り替えればいい。販売するときもコンビニで使っている『リーチ・イン・クーラー』みたいなものを使えば補充も簡単で、たたみ直す手間もない。だいいち面白いじゃないですか、Tシャツの売り方として。このシステムを空港や駅のコンコースに導入してもいいわけでしょう? 世界中で同じように売ることができるわけです。

 コストがかかると言う人もいますけど、飲料だって安いビニール袋に入れて売ってるわけじゃない。ユニクロのように大量に売れるブランドであれば、コストダウンも可能です。僕はどんなクライアントを担当しても、そのクライアントにしかできないことを提案しようと思っているんです。このシステムは圧倒的な体力のある企業、ユニクロならできる、と考えて提案しました。

 僕は飲料の開発もやっていますから、このシステムを思いついたのかもしれません。日本の飲料の世界では、新商品が年間四〇〇〇種類も出ます。でも、売り上げが悪ければ二週間で棚から消える。リーチ・イン・クーラーのひとつの棚にボトルが一〇種類並べられるとすると、そのうちの七種類は定番商品ががっちり押さえているんです。残りの三つの席を新商品が競い合う。その三つはいろいろ入れ替わりがあるんですけれど、五年に一度ぐらい新しい定番商品が生まれる。五年なら合計で二万種類が新発売されたことになるわけですけど、そのうちたったひとつだけが定番になるわけです。

 新しい味を考えて、名前を考えて、パッケージも新しくして、広告もつくって、たった二週間で棚から消えたら、かけたコストがすべて水の泡。ところが、五年に一度ぐらい定番商品が現れる。そうなれば何十、何百という空振りで被った赤字も全部回収できるぐらい、利益が出る。僕はこれってジャパニーズ・ポップ・カルチャーだと思うんですね。世界でも類を見ない面白さだと思う。だからと言って、未来のコンビニみたいな店をつくろうと、お店から発想したわけではないんです。あくまでも商品として発想したボトルパッケージがあって、そのカタチからコンビニ的なシステムとシンプルモダンな店のデザインが生まれた。

 たしかにボトルパッケージは以前よりコストがかかる。だけど何かやらなかったら、何も変わらないわけですよね」

「これ、かっこ悪いですね、駄目です」

20070704_5.jpg UTプロジェクトをユニクロサイドで担当しているのが、小林均夫氏。小林氏は二年半前にユニクロに入社したばかりだ。それまでは広告代理店、銀行、スポーツウエアのメーカーで、それぞれマーケティングを担当してきた。

 ユニクロではまず新聞の折り込み広告であるチラシの改革に取り組み、続いて一〇〇万本を超えるヒットになったスキニージーンズのマーケティングを担当。UTプロジェクトは「リスクは高い。しかしユニクロの成長を大きく左右するステップ」と感じ、自ら手を挙げた。

 Tシャツを入れるボトルパッケージやLED(発光ダイオード)を使った店舗の什器など、これまでのユニクロでは経験のない、佐藤可士和氏の大胆なアイディアと緻密なデザインの具体化を支える重要な役割を担った。小林氏の話。

「原宿店というのは、東京に初めて本格的に進出したときの象徴のような店ですから、ニューヨークに旗艦店ができたとしても、ある意味で私たちの意識のどこかで精神的な旗艦店であり続けていたと思うんです。そこをTシャツ専門店として全面的にリニューアルするという。いったん決断したらこだわりなく切り替えて、スピーディに実行してしまうのがいかにもユニクロらしい。そういう仕事にこそぜひ参加したいと思ったんですね。

 可士和さんの『新しい買い方をデザインしたい』という提案についても、まさかボトルパッケージにして売ることになるなんて誰も想像していませんでした。やるとなれば、ボトルパッケージの原価はいったいいくらで、できあがるまでの時間はどれくらいになるのかを大至急シミュレートしなければなりません。私の仕事は、商品を具体化するためのコストと時間の流れの管理でした。

 プロジェクトが本格化したのはソーホー ニューヨーク店がオープンした昨年の十一月十日。そこからTシャツのパッケージについていくつものアイディアが出て、やがてボトルパッケージにしぼられた。すぐにサンプルをつくって見積もりを出して、プレゼンテーションをしたのが十二月二十二日です。

 詳しく調べてみると、ボトルの作り方にもいろいろある。作り方によって透明度もコストも変わってくる。大きさをどうするかという問題もあります。Tシャツのサイズは最大でXLがありますから、最大の大きさのもの、長袖TシャツのXLまでが入る大きさで設計してもらう。ボトルは国産で、Tシャツをボトルに詰めるのもすべて手作業です。ボトルに貼るラベルも、バーコードも含めると三種類。これをどの段階で貼っていくか。

 コンビニのドリンク・コーナーにあるリーチ・イン・クーラーみたいなものをオリジナルにつくる。これもぎりぎりの進行でした。試作品が初めてできたのはオープンの約一ヶ月前。可士和さんに見てもらったら、『これ、かっこ悪いですね、駄目です』。たしかに本当に冷蔵庫みたいで、デザインの細部が鈍くてドンくさい。おっしゃるとおりなんですね。だから、図面だけではわからなかった部分も含めて、ミリ単位で検討し直し、徹底的に作り直しました。

 見た目だけではないんです。ボトルをひとつ手に取ると、後ろのボトルが流れ出てくる仕組みも実はかなり難しいものでした。スーッと気持ちよく滑り出してくる傾斜の場合、手前のストッパーを高く設定しないと、ボトルパッケージが外側に転げ落ちることがある。じゃあストッパーを高くすればいいのかというと、これは高くなればなるほどデザインとしてはダサくなる。その加減が難しい」

三千七百四十四個の決断

「Tシャツの番号がそれぞれの棚の上のLEDの表示でわかるようになっています。このLED表示は、原宿のお店のなかに全部で三千七百四十四個も必要なわけです。アイディアとしてはわかるけど『本当にやるの?』っていうのが正直なところでした。これも店舗デザインを担当した設計事務所(入川スタイル&ホールディングス)が年末から秋葉原で探し始めて、年が明けていいものを見つけた。事務所から確認の電話がかかってきて『小林さん、正式に注文しますよ。三千七百四十四個ですけど、いいですね』。

 お店の入り口の上部にある、横にスルスルと赤い文字が動く、僕らが「タイムズスクエア」って呼んでる電光掲示板風のLEDはさらに特別でした。『えっ?』っていうぐらい高い。それも五行並べるというアイディア。この掲示板は一行幾らで買うものですから、五行分つくると五倍の値段です。ソロバンをはじいているうちに、五行もいらないんじゃないか、一行だって充分効果あるでしょうって、言いたくなってくる。しかし最終的に柳井社長の『ファサードというのは店の顔だから、迫力が出るようにやってください』という発言で原案通りにやることに。結果としてはまったくその通りで、夕方以降の注目度は凄いものがあります。通りかかる人で見上げない人は一人もいない。可士和さんのアイディアは単なる思いつきじゃなくて理にかなってるんです。一行にしなくて本当に良かった(笑)。

 ボトルパッケージも、店自体も、新しい価値観の提案です。店のオペレーションとしては当然複雑さが増すし、初期トラブルもある。でもそれはやりながら修正を加えていけばいい。売り上げは以前の原宿店をはるかに上回ってます。その数字に背中を押されながらですけれど、解決しなければいけないことがまだまだ山積しています。これからも店の細部やシステムをどんどん更新していきますから、ぜひ一度お店にいらしてください」

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uniqlo_logo.gifユニクロは2007年4月、ユニクロ原宿店を改装して、新たにTシャツ専門店『UT STORE HARAJUKU.(ユーティーストア ハラジュク)』をオープンしました。コンセプトは「Tシャツの未来のコンビニエンスストア」。常時Tシャツ500種類以上がひしめく店内。誰もが必ず「これだ!」と思えるTシャツが買えるお店です。Tシャツの情報発信基地として、コンテンツ、プロモーション、Tシャツの見せ方、選び方などの様々な情報を伝えていきます。

「考える人」2007年夏号

文、取材 : 新潮社編集部

撮影 : 菅野健児

詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。