プレスリリース

2007年10月05日

ユニクロ・ウェブサイトリニューアルの舞台裏 ~「考える人」2007年秋号~

~「考える人」2007年秋号(新潮社)より転載~

新たなメディア、ブログが消費行動を変える

マーケティング2部

新メディア情報発信チームリーダー

勝部 健太郎 (Katsube Kentaro)

20071005_mag2.jpg 昨年八月以来、ユニクロのウェブサイトを大幅に強化してきました。それにはいくつかの理由があります。

 去年の十一月にはニューヨークソーホーの旗艦店がオープンし、この十一月にはロンドン旗艦店、十二月にはパリにも新しいコンセプトショップがオープンする予定です。いままでにない規模でグローバルな動きが連続しているんです。

 そんな流れのなかで、広告はいままでどおりでいいのか。そのことについて、あらためて考えなければいけない時期にさしかかっていると思いました。

 国内だけでユニクロが展開しているのであれば、テレビや新聞を中心に、新聞に折り込むチラシも活用した従来どおりの方法が中心になってくると思います。しかし私たちが目指しているグローバルな展開を視野に入れると、それだけではとても及ばないところがある。また、国内であっても、グローバルなレベルでの激しい競争にさらされはじめています。

 私たちのユニクロは、世界の都市に店舗をオープンさせる場合、世界のそれぞれの店がつねに同期化するように運営されてゆく方法を採用しています。ニューヨークもロンドンもパリも東京も、都市が変わってもどこでも同じユニクロがある。同じ価値のある商品を、世界のどこへ行っても同じサービスで手に入れることができる。

 先日もアジア各国を回り、グローバルブランドが国境を越えて共通の価値・体験を提供しているのを目の当たりにして、このことの重要性を実感しました。だとすれば、広告についても、国境を越えてゆく方法を新たにさぐるべきなのではないのか。新たなウェブマーケティングが生まれた背景には、こうした大きな流れがありました。

ウェブが国境を越える

 国境を越える、ということになれば、インターネットというメディアこそ最大の武器になります。二十四時間いつでもアクセス可能で、世界中に同時発信できる。テレビもなければ新聞も届かない地域でも、同じ質、同じ量のメッセージが届くわけです。

 とくに今回、グローバルという視点で見たときに私たちが注目したのは世界中のブログでした。ブログというのはご存じのように、個人やプライベートなレベルのグループが運営し、毎日更新ができ、第三者が感想などを書き込むことができる日常的な公開日記的なもの、と言えばいいでしょうか。今、世界には約七千万以上のブログがあると言われています。しかも日々増殖している。お互いにリンクもはっているので、横のつながりもある。ちょうど人間の脳の伝達回路を形成するシナプスのようなところもあって、ひとつの刺戟がさざ波のようにひろがる場合もあるわけです。

 これまでに人類が発明したコミュニケーションのかたちにはなかった可能性を持っているのがブログです。即時性・双方向性・連鎖性を持ち、個人が情報発信のパワーを持つ。メディアといえばテレビや新聞などのマス・メディアを意味していた時代が長く続きました。しかし成り立ちは個人的なものでも世界全体へあっという間に波及してゆく潜在的な可能性を持つブログが、新しいメディアとして、一見しては見渡せないようなかたちで、いま加速度的に広がっている。この新しいコミュニケーションメディアに注目しました。

世界共通言語の時計をつくる

 ブログには「ブログパーツ」と呼ばれるものがあります。ブログの画面上に文字だけが並んでいても魅力が乏しいので、ブログを飾りつけるために様々な機能を備えた「部品」、つまりパーツがつくられるようになっているんですが、その総称です。ブログパーツとして人気があるのは、時計機能のついたものです。私たちもユニクロのオリジナル時計をつくって、ブログ・ユーザーに使ってもらったらどうか、面白いものをつくれば、必ず反応はあるだろう、というアイディアから始まったのがUNIQLOCKでした。

 ブログのなかでも、デザイナーのブログなどを見ていると、ほんとうにクオリティの高いものが多いし、そこで発信される感度の高い情報には波及効果があります。そこでブログパーツとして使ってもらえれば、不特定多数の人々に見てもらえますし、面白いと思ってもらえれば、時計を入口にユニクロのウェブサイトにやってきてくれるだろうと。

 時計はダンスと音楽、デジタル時計の組み合わせでデザインされています。時計のデジタル数字はもちろん、音楽もダンスも言語の国境はありませんから、世界のどこでも使えるものです。もちろん、UNIQLOCKを設置する際にはアクセスしてくださった世界各都市の地域の現地時間を選択して表示できる仕組みになっています。

 本番公開前に、キャストのオーディションを実施して、その舞台裏を世界最大の動画共有サイトYouTube(ユーチューブ)で公開し、ユニクロがダンスのオーディションをする同時進行の話題性を広げました。

 そして六月十五日から、完成したUNIQLOCKをブログパーツとして自由に使っていただけるようサイト上で配布を開始しました。あわせて、UNIQLOCKユーザーが相互にコミュニケーションを行い、緩やかに世界規模でつながる場の提供を行いました。

 現時点では世界六十六ヶ国以上に及ぶ人々が一万を超えるブログでこのUNIQLOCKを貼り付けています。UNIQLOCKはすでに延べ二千九百万回以上、百九十五ヶ国の人々に見られています。

 ブログというメディアを、いかにしてプロモーションに活用するかという命題は、様々な業界で検討されながら具体的な回答がほとんどありませんでした。私たちのUNIQLOCKは世界でも稀な規模で風穴をあけられたんじゃないかと思っています。UNIQLOCKからオンラインショップへジャンプして買い物をしてくださるお客さまも増えていますし、ブログの可能性について、さらに確信の持てる結果が出たと思います。次は世界各国の屋外広告や劇場CM、それこそTVの時報として露出攻勢をかけて、話題化を加速させていきたいですね。

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「いいことだらけ」では通用しない

 これまでのテレビの広告の方法論というのは、一回十五秒や三十秒のコマーシャルを十回以上見たら、商品を認知し、興味を持つようになり、消費に走らせることができる、という考え方で成り立っていたと思います。しかし今の消費者のあり方というのは、インターネットの登場で劇的に変わってしまった。気になったり、強い関心を持っている事柄について、自分で情報を取りに行く、個人の能動性が発揮できるようになったからです。グーグルに代表される検索エンジンが、人々の消費行動を変えつつある。だから、「いいですよ、いいですよ」と連呼するだけではもう駄目です。

 インターネットは商品の評価という点で大きな役割を果たすようになってきました。消費者の本音がダイレクトに伝わる。従来の口コミの威力が、インターネットというメディアの登場で桁違いに大きくなったんです。企業サイドが「いいですよ」と連呼したところで、本当にその商品が良いものでなければ、やがてバレてしまう。「実際はこんなにひどい」「おいしくない」「ここが駄目」、そういう評価が短時間で広まります。ユーザー個人がパブリックな場に情報を発信できるようになることで、消費行動の動機や中身が変わりつつあるんです。

 日本人は物事の白黒をつけず、曖昧な部分を残すコミュニケーションをしてきたと思うのですが、これからはもっとはっきりと物事の判断が言える社会に変わってゆくのではないか、と私は思っています。だからマーケティングの手法も、話題が波及する情報づくりが必要だし、最適なコミュニケーションポイントに投げ込んで、その結果を消費者にも見えるようにする。こうしたスタイルが一般化してくるのではないかと思います。私たちはもともと、消費者が何を求めているのかを真剣にとらえるところからスタートしているブランドですから、これからもますます、変化し始めた消費者との対話を大事にしてゆきたいですね。

進化しつづけるコミュニケーション

 従来の枠組みで考えると、売り上げを向上させるためには「販売」に的を絞った視点で広告活動を行いがちです。一方で世界の先進的なマーケティング手法を見てみると、たとえば商品の売上げに応じて広告予算を従業員に還元したり、社員に対する告知、広報を強化することで社員のモチベーションを上げるという、「販売」そのものではなく「社員」を重視する手法をとって、大きく結果につなげる新しいやり方が始まっています。

 広告は手法ばかりにとらわれるのではなく、目的が何かということを明確にする必要があります。そして販売への即効性ばかりではなく、採用活動も社員のモチベーションを上げることも大きな視野に入れた上で、中長期的に全体を俯瞰する。マーケターもそのような経営者的な視点でマーケティングを考える必要があると思います。さらに言えば、広告の媒体も、紙や電波やインターネットをそれぞれ限定的にとらえるのではなく、「人」もメディアであると考えたい。採用活動や、社員に対しての新しいプロモーションを、それぞれの媒体を横断するように使いながら、どんどん積極的に具体化していきたいと考えています。

 ウェブの枠にとどまらない、「最適化されたコミュニケーションとは何か」をさらに追求して、ユニクロを世界に類を見ないマーケティングカンパニーにしていきたいですね。

uniqlo_logo.gifユニクロのウェブサイトがリニューアルされました。各ウェブサイトがuniqlo.comに統合され、UNIQLO総合サイトへと進化。最旬コーディネートをピックアップしてご紹介する「STYLEBOOK」や、「各専門サイトへの共通のヘッダ」などの登場で、より使いやすくなりました。また、「MUSIC×DANCE×CLOCK」という世界共通のコンセプトをもとにしたUNIQLOCKもスタート。ブログパーツとして自由にお使いいただけます。世界共通言語のメディアとしても、いま大きく注目されています。


「考える人」2007年秋号

(文/取材:新潮社編集部、撮影:菅野健児)

詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。