2012年07月11日
ユニクロ・ウェブマーケティングの舞台裏~「考える人」2012年夏号~
~「考える人」2012年夏号(新潮社)より転載~
UNIQLOのデジタル・ツールで世界中の人と出会う
グローバルコミュニケーション部
商品マーケティング&コミュニケーションチーム
松沼 礼 (Matsunuma Rei)
山口貴史 (Yamaguchi Takashi)
二〇一一年秋ユニクロはUNIQLO.COMをグローバルウェブサイトとしてリニューアルした。ウェブ環境の発達と、スマートフォンやiPadに代表されるタブレット型PCなどデジタル通信機器の世界的規模の普及にともない、消費者がいつでもどこでもほしい情報にアクセスできるようになった。さらに、ツイッターや、フェイスブックなどのSNS利用者の飛躍的な増加が、ユニクロのウェブマーケティングを大きく前進させている。ウェブ展開の新たな取り組みについて、商品マーケティング&コミュニケーションチームの松沼礼さんにお話を伺った。
参加し、それを伝えるしくみ
松沼「ユニクロのウェブマーケティングは、お客様の行動様式がどんどん変わっていく中で、私たちの情報発信のあり方や構造をどのようにしていくか、ということをつねに発想の基本にしています。
これまでのお客様とのコミュニケーションは、まず新聞・TVを中心とした情報発信で、それにウェブサイトが加わりました。特徴はマスで、一方向の発信ということです。
さらに個人のブログパーツとエンタテインメントを融合させたUNIQLOCKとかUNIQLO CALENDARの試みがありました。時計やカレンダーなど人が日常的に使うツールに、美しく楽しい動きのビジュアルを加えて、より多くの人の注目を集めることで、ユニクロの活動に興味を持ってもらい、それがお店に来ていただくきっかけにもなりました。一瞬でその魅力が伝わるという非言語的なデジタルのコンテンツだったからこそ、グローバルなユニクロの認知という結果につながったと言えます。
UNIQLO CALENDARは公開から今までに、四七都道府県すべてをめぐり、日本の四季折々を伝えてきました。すでに一二億回閲覧されています。日本のみならず世界中の人が、このコンテンツに魅力を感じてくれていることを実感しています。
いっぽうで『人がメディアになる』という発想は、デジタル以前からユニクロはもっていました。七年前に始まったクリエイティブアワード(現在のUT GRAND PRIX)というTシャツのデザインコンペティションは、お客様に商品を買っていただくだけでなく、いわば参加型のコミュニケーションとして位置づけられています。いまでは世界数十ヵ国から毎回五千件以上の投稿が寄せられています。
そして、二〇〇九年前後から、スマートフォンやタブレットなどの通信機器とツイッターやSNSの普及が相乗効果をあげて、もっと簡単に、ユーザーがメディアになり、そのユーザー同士がつながるようなしくみが生まれてきました。そのときに始めたものの一例が、UNIQLO LUCKY LINEです。一九八四年のユニクロ1号店オープンのとき早朝六時に開店し並んでくださったお客様にあんパンと牛乳を柳井社長がふるまったのですが、二〇〇九年の創業祭で、初心にかえって同じようにお客様をおもてなししました。たいへん御好評をいただいて、本当に六時前から行列ができる大盛況だったのですね。そのときウェブの中にもお店があって、そこに人が並んだらおもしろいんじゃないかという発想で、二〇一〇年五月、UNIQLO LUCKY LINEが生まれました。
仕組みはシンプルで、感謝祭が始まる前にどんどんウェブ上に並ぶと、何か景品が当たったりします。並んだ行為自体がツイートされたり、はたまたフェイスブックでコメントやシェアされたりしました。お客様自身が、たったいまユニクロで感謝祭をしていてそこに自分は参加しているということを、個々に発信してもらうというものです。企業からの一方向的な発信ではなく、そのお客様が媒介者となって、人から人へそれを伝えてもらうという仕組みが、たぶんこのとき初めてつくれたのかなと思っています。
いま出店ラッシュの中国では毎週どこかでLUCKY LINEをやっていて、累計二〇〇万人を突破しており、ワールドワイドにコミュニケーションできるツールだと思います。人から人へ自然発生的に広まっていく力をここで学びました。
フェイスブックはいまユーザー数が九億人といわれますから、中国やインドに匹敵する人口です。フェイスブックにユニクロの情報が流れることは、大きな国に出店するのと同じぐらいの価値があるかもしれません。また実名で通すことで信頼感が担保され、つながりが強固になり、いま起こっていることをすぐ共有できる即時性や共時性を備えています。
UNIQLOOKSはそうした特長を生かした情報発信の試みのひとつとして二〇一一年にスタートしました。自分のお気に入りのユニクロ・コーディネートを撮って投稿し、他のユーザーとつながる、ユニクロ独自のフェイスブック連動型ファッションコミュニティです。
広告では、モデルをキャスティングしスタイリストがついて、これがユニクロの自信作、というものをつくる―もちろんそれは僕たちの伝えたい情報なのですが、限界もあります。世界中の人がユニクロを着こなしている様子をリアルタイムに伝えることで、お客様一人一人が媒介者になり、よりリアリティや共感や信頼性を勝ちうる、そのインフラとしてUNIQLOOKSをつくりました。現在、約四〇カ国以上から投稿が集まっています。夏はTシャツのシーズンということもあって、UNIQLOOKSで『UTスタイルコンテスト』をグローバルに開催しました。好きなキャラクターやアーティストのTシャツなどは自分を映す鏡であり、自己表現にうってつけのメディアだと思います。国によって国民性が垣間見えるのもおもしろい点です。
UTの考え方自体、自由にだれもが音楽をアップロードやダウンロードできるiTunesに似ています。UTはインフラのシステムで、そこに例えば自分でデザインしたものを投稿することによってメディアとなり、ほかの人とつながったり商品化の可能性もあるかもしれない。Tシャツのクリエイティブアワードとデジタルの仕事を手がけた経験から、両方の親和性はとても高いと思います」
フェイスブックの特性を生かしたユニークな企画は多く、同じくコミュニケーションチームの山口貴史さんが紹介する。
人々が共有したいものは何か
山口「人の情報の受け取りかた、発信のしかたで何が一番変わったかというと、即時性です。大震災のとき、たとえば電話が使えなかったけどツイッターでは情報が流れていたとか、よく語られましたね。やはり情報は、そのときその場ですぐ得られることが何より大事です。紙媒体や電波などのマスメディアになると、編集が行われるし時間がかかる。地震の情報でも二分後になってしまうとか。
SNSが人をひきつける最大の魅力は、今のものを共有したい、そのときの気持ちを人に伝えたいという欲求です。それが土台にあって、UNIQLO CHECK‐IN CHANCEという企画を立ち上げました。
いまユニクロは全国で八五〇店舗ほどですが、ちゃんとお客様に来ていただいているのか、いまどう過ごされているかは、リアルタイムではわかりません。ちょうど二〇一一年一一月の感謝祭のスーパーセールを控えている時に、お客様にお店に来ていただきたいけれど、それをデジタルのツールをつかってサポートするとしたら何だろうと考えたんです。
フェイスブックにあるCHECK‐INという既存の機能を基に開発し直し、来店されたお客様の携帯やスマートフォン、または店内のPCから「ここにいるよ」という意思表示をすると、それによって商品などのインセンティブ(見返り)があるというシンプルな構造です。でも、CHECK‐INのもっとも大きなインセンティブは、誰もがユニクロにいると発信することで、すぐさまフィードバックがもらえるという部分なのです。
僕がユニクロの○○店にいたら、友達の松沼さんが山口君いるんだねとわかってくれる。それが瞬時に共有できる知的なフィードバックがSNSの特長です。
去年の一一月、フェイスブックユーザーは日本全体で五〇〇万人、アクティブユーザーはその三〇%ほどでした。でも、一〇万人を目標に始めたところ、開設して二日目ぐらいで一〇万人を突破し、三日間で二〇万人がCHECK‐INしてくださいました。フェイスブックを使う八人に一人がユニクロにCHECK‐INしてくれた勘定で、このことでフェイスブックのCHECK‐IN自体が広まるというユニークな結果をもたらしました。自分をアピールし、フィードバックを求めるというのは、そもそも人が本質的に持っている欲求ではないか―マーケティングや、販売ということを超えて、新しいコミュニケーションのしかたがひとつ生まれたと感じました。
デジタルのシステム構築は簡単ではありませんが、そのスピードや、共有することで伝わる感覚や感情、そこから生まれる出来事など、今後SNSだけではなく、デジタルを使ったコミュニケーションには無限の可能性があると思います」
日常から、世界を変えていくために
松沼「今度のUNIQLO WAKE UPなどのアプリは、まったく服を介在しないサービスの提供です。ただ、冬のヒートテックやウルトラライトダウン、夏のシルキードライとかサラファインみたいなプロダクトに象徴される物づくりと全く同じ考え方で、日常をより快適に、より楽しくするツールを供給することによって、ユニクロに対して興味を持っていただいたり、共感していただくことが目的です。
また、お客様とのコミュニケーションのプラットフォームとして、『モバイル会員』を募集しています。会員限定の特別価格の商品や、日時指定のラッキーアワーをお伝えするなど、きめこまかく生活に即したサービスを提案できるよう、これからもどんどんバージョンアップしていきます。
そして、いろいろな入口からユニクロのファンになってくれたお客様と、一対一のコミュニケーションをどのようにとっていけるか。それが今後のいちばん大きい課題です。失敗を恐れず可能な限りいろいろ挑戦していきたいと思います」
ユニクロは世界共通の情報の発信基地として、UNIQLO.COMを「ユニクログローバルサイト」としてリニューアル。世界を驚かせた「UNIQLOCK」、「UNIQLO CALENDAR」、Facebook連動型ファッションコミュニティ「UNIQLOOKS」に続き、目覚ましアプリ「UNIQLO WAKE UP」の配信を開始。4週間で世界196の国と地域から50万人以上のダウンロードを突破しました。お客様とのコミュニケーションのプラットフォームとして「ユニクロモバイル会員」を募集。デジタル・ツールを通して、これからも毎日の生活を快適にしてまいりたいと考えます。
「考える人」2012年夏号
(文/取材 : 新潮社編集部)
詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。