プレスリリース

2012年10月03日

「ビックロ」プロジェクトの舞台裏~「考える人」2012年秋号~

~「考える人」2012年秋号(新潮社)より転載~

クリエイティブ・ディレクター
佐藤可士和 (Sato Kashiwa)

グローバルコミュニケーション部
商品マーケティング&コミュニケーションチームリーダー
高田大輔 (Takada Daisuke)

めざせ、東京の新名所!

 九月二十七日、ユニクロとビックカメラが、新宿東口に共同で新店舗をオープンした。その名も「ビックロ」。一瞬、冗談かと思って笑ってしまうネーミングそのままに、オープニング・イベントでは東京じゅうのチンドン屋が大集合。おなじみのビックカメラのメロディにのせて、ビックロのテーマソングを賑々しくご披露に及んだ。
 新店舗のコンセプトは「グローバル繁盛店」。柳井正ユニクロ代表取締役会長兼社長の掲げた目標の意味するところは、活気があって、モノがバンバン売れている繁盛店。東京の新名所をめざす。
 それにしても、なぜいま、ユニクロがあえて「ビックロ」に舵を切ったのか。ユニクロのブランディングを長らく手がけてきたクリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和さんにその狙いをお聞きした。
「二〇〇六年にニューヨークのソーホー地区に初のグローバル旗艦店をオープンして以来、昨年のニューヨーク五番街店、次いで銀座店が誕生したことによって、ユニクロのブランディングはある意味でひとつのまとまった形ができました。今度サンフランシスコにも旗艦店がオープンしますが、ひとまずこの流れは一定の段階に達したと思っています。
 それについては柳井社長も同様の思いだったようで、実は一年くらい前から、この先どういう展開にすべきか、いろいろ相談をしていました。ちょうどそんなところに、新宿東口のビックカメラにテナントとして入ってみないか、というお話がありました。柳井社長としては、これは立地も申し分ないし、せっかくのこの機会を最大限に活かさない手はないと考えられたようです。普通の出店案件としてスルーしてしまうのはいかにも『もったいない』ので、『これをもっとすごいプランにしよう』と。
 たしかにグローバル旗艦店の展開によって、ユニクロのブランディングは着実に成果を上げてきました。しかし、この先新たな次元に進んでいくためには、一度、自分たちがやってきたことをぶち壊すような何かブレークスルーを作り出すことが必要だと、私たちも感じていたんです。ちょうどそのタイミングに飛び込んできたのがこの案件でした」

ビックロでびっくらこかす

 衣類と家電を通じて、それぞれマスの消費者と結びついてきたユニクロとビックカメラがタッグを組めば、何か凄いことが起こりそうだという期待は生まれてくる。ただ、具体的にどういうイメージの店舗になるのか、となった時である。
 柳井社長がいきなり言った。「この施設の名前が必要だよね。それ、可士和さん考えてください」。さすがの佐藤さんも、「最初は全然イメージできなかった」と語る。ただ、インパクトが必要だな、と思いながら二、三分考えて、「ビックカメラとユニクロだから、ビックロですかね」と答えた。すると、「うん、そうだ、ビックロだ。そういうことだ」と柳井社長。
 周りにいた人たちは、ほとんど冗談だと思って聞いていた気配があった。しかし、「ビックロでびっくらこかすぞ」と社長がダメを押すようにして、それが徐々に・規定路線・になったという。するとたちまち、グローバル旗艦店をともに牽引してきたクリエイターたち(片山正通、中村勇吾、前田知巳ら)が召集されることとなり、そこにUIP(ユニクロイノベーションプロジェクト)の滝沢直己氏も加わって、気がつけば「ビックロをがっつりやりましょう」という展開になっていた。佐藤氏が言う。
「ビックロと聞いた瞬間にみんなが笑っちゃう感じ。これは非常にパワフルなクリエイティブだと思うんです。実際、このバカげた、ほとんど冗談みたいなことを、グローバルチームが結集して本気で盛り上げるというのは、柳井社長の『グローバル繁盛店』というコンセプトに対するひとつの答えではないでしょうか。ロゴも思い切ったものにしました。さすがにユニクロ・レッドについてはブランド・イメージを守りましたが、パッと見は『本気なの?』と人が思うような感じの仕上がりです。でも、これが大きな看板になったり、袋に刷られたり、店員の着るハッピの模様になったりすれば、きっと面白いと思います。
 秋元康さんのプロデュースで、AKB48はエンターテインメントの新しい形を生み出しました。『これもありなの!?』と人を驚かせるような新機軸を次々と打ち出していきました。例えるならああいう感じです。ユニクロも思い切ったアイディアをどんどんぶつけていって、バイタリティを感じさせることが大切だと思います」

家電×衣服のシナジー効果

 さて新店舗デビューの場となる新宿は、言うまでもなく世界一の乗降客数を誇る・カオスの街・だ。飲食、ファッション、文化施設からフーゾクまで、ありとあらゆるものがそこに雑多に集まっている上に、性別、年齢を問わないさまざまな人が行きかい、高級なものから格安商品まで多種多様な商品が扱われている不眠不休の街。まさに混沌を絵に描いたようなエリアである。この店舗を担当するグローバルコミュニケーション部商品マーケティング&コミュニケーションチームリーダーの高田大輔氏はこう語ってくれた。
「一二〇〇坪の店舗ですから、銀座店よりはやや小さい。しかし、ビックロの立地する一帯は、一日あたりの乗降客数が三五〇万人を超える新宿駅のすぐそばで、世界最高水準の賑わいです。その恵まれた路面を使って商売するのですから、お客様がわくわくするような面白い店にしていかなければと思っています。ユニクロも、国内店舗が八五〇店にも及んでくると、どの店も同じ悩みを抱えています。つまり、その店ごとの付加価値をどうやって作り出していくかということに、どの店長も苦労しています。その意味では、ビックカメラとせっかくこういうチャンスを与えられた以上は、できるだけシナジー効果の生まれる斬新な企画を打ち出さなければもったいない。オープニングの広告展開については佐藤可士和さんに全面的にプロデュースしていただきましたが、これから商品開発からサービスまで、ビックロならではという面白い試みを一緒にどんどん繰り出していきたいと考えます。商品開発では、家電メーカーとのコラボTシャツなどをすでに準備中ですが、アイディア段階の企画がたくさん出ていますので、店を実際に運営しながら、徐々に具体化させていきたいと思います。
 サービス面でいえば、ビックカメラには長年培ってきた接客、陳列などのスタイルが確立しています。一方で、ユニクロにもまた独自のノウハウや美学が蓄積されています。お互いにそれぞれの強みをうまく取り込めば、コラボのメリットは必ず現われてくるはずです。一例を挙げれば、お客様の買い物スタイルはユニクロとビックカメラでは好対照です。家電は『目的買い』で来られるお客様が圧倒的に多く、逆にユニクロは、絶えずこちらからなにがしかの提案をして、お客様のニーズを開拓しています。どの商品が今週はおトクですとか、いまならこれをお勧めしたいとか、あるいはその場で実際にスタイリングをしながら商品を選んでいただくといったサービスを、これまで日常的にやってきました。このようにお客様の買い物スタイルが対照的だというのは、逆に言えばチャンスです。それが店内の新しい回遊の流れを生み出すかもしれない。是非そうなればと思います。
 また新宿は特にアジアからの観光客などがたくさん来られるエリアです。となれば、ユニクロは日本を代表する服のブランドだし、中国やアジアからのお客様は日本の家電に大変強い関心があります。それがひとつにまとまっているビックロは、海外からの来店者にはとても便利な場所であるはずです。観光客に特化したマーケティング活動を試みる場としては申し分ありません。これが突破口となって、本当に東京の新名所が誕生するかもしれません」

“ごちゃごちゃ感”が決め手

 佐藤可士和さんがいう「これもありなの!?」という奇抜なアイディアはまだ進行中であるにせよ、すでにカメラやスマホを持ったマネキンなどは登場し始めていて、家電商品とともに服を、あるいは服と一体化した家電商品をアピールする試みが始まっている。掃除機を手にしたような日常的なポーズのマネキンまで登場している。この冬は暖房セットの横に、ヒートテックを着ているマネキンがいるとか、そういうビックロならではのコラボが店内各所で展開されるはずである。
 高田氏によれば、「ビックカメラというと、家電に寄った量販店のイメージがありますが、実際は生活必需品を扱う百貨店と呼んでもいい部分があります。スポーツ用品もあれば、布団や枕、薬なども売られています。そうした生活必需品が並んでいる中に、服についてのスペシャリストであるわれわれが加わって、どういう革新的なことができるのか。私たちはお客様が行ってみたいと思うような『ビックロ箱』のような何か驚きがある店をめざしたいと思います。そしてこの店が軌道に乗り、進化を遂げていくことで、ユニクロの他店舗へのヒントが出てくれば、何も言うことはありません」。
「とにかく行きたくなるお店にしたい」というのは、佐藤氏からも同じ言葉を聞いた。佐藤氏によれば「ユニクロの洗練されたイメージは大切だし、クオリティを下げようという意味ではありませんが、お店に来てもらうためには・ごちゃごちゃ感・が決め手です。たとえば人間にたとえたら、二枚目でかっこいいだけじゃなくて、ちょっと面白いところもある人のほうがチャーミングに見える。つまり、ブランディングやイメージ、洗練されたデザインも大切だけど、もうちょっと幅を拡げてより親しみやすくするという感じ。ブランドも人格も単一だとすぐに飽きられてしまって、魅力を維持するのが難しい。昔の二枚目と違って、いまの若い人は、かっこよくて、面白くて、歌も歌えてダンスも踊れて芝居もできて、というふうに、芸域の多彩な人たちが支持されています。ユニクロもマスを相手にしているブランドですから、実はそういうところが大切です。
 だから、今回のプロジェクトは非常にチャレンジングなもので、僕としてもワクワク、ドキドキしています。最初に、ニューヨーク店を作ったときと同じくらいです(笑)。
 ショッピングバッグの印刷のズレみたいなのも、もちろんわざとやっているんですね。こんなことやっていいのかな、みたいなワクワク、ドキドキ感があります。中村勇吾さんとも、かっこよくしすぎるとすぐつまんなくなっちゃうから、そのさじ加減に気を付けようと話し合いました。造形としてまとまってしまうと、普通にかっこよくなってしまう。かといって、本当にダサいよ、というのも困る。人が思わずツッコミを入れたくなったり、いじりたくなる要素をどこかに残しながら、実は洗練されている。そのかなり微妙なところを狙って、遊んでいます。のちに振り返ってみた時、ビックロは大きな試金石だったという位置づけになると思います」

2012年9月27日、ユニクロの新しい成長エンジンとなるグローバル繁盛店「ビックロ ユニクロ新宿東口店」がオープンいたします。全く異なる商品を販売するユニクロとビックカメラとの協業で生まれた「ビックロ」。ファッションと家電で培った両社のノウハウを重ね合わせることで、“東京、新宿の新名所”として、さまざまな人に喜びと驚きを提供する新しいタイプの店舗を目指していきます。世界から多くの人々が集まり、活気あふれる街、新宿からユニクロは日本を元気にしていきます。これからの「ビックロ」にご期待ください。

「考える人」2012年秋号
(文、取材・編集部/ 撮影・平野光良、菅野健児(「ビックロ」外観写真))
詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。