プレスリリース

2013年07月18日

「LifeWear 2013」秋冬プレスプレビューの舞台裏~「考える人」2013年夏号~

~「考える人」2013年夏号(新潮社)より転載~
新しいタグライン、LifeWearの概念を世界に

ユニクロ・デザインディレクター
滝沢直己 (Takizawa Naoki)

ファーストリテイリング グループ執行役員
ユニクロR&D統括責任者
勝田幸宏 (Katsuta Yukihiro)

「LifeWear 2013」 二〇一三年秋冬のプレスプレビュー(メディア向け展示会)を実施するにあたって、ユニクロは従来の方式を大幅に切り替えた。まずファッションの中心地である四月のパリを皮切りに、ニューヨーク、東京という順で展示会を開催。世界共通のメッセージをいち早く発信すると同時に、これまで以上に幅広いメディアに声をかけて(ハイファッションやライフスタイルのメディアを含めて)新しいコミュニケーションを試みた。
 会場では、ユニクロの商品をヒートテック、ウルトラライトダウン、フリース、シルク、カシミアといったコア商品をカテゴリー別に区分して、これを「ユニクロ・プロジェクト」として展示。マネキンを使ったディスプレイのスタイリングは、ユニクロのクリエイティブ・ファッションディレクターのニコラ・フォルミケッティ氏が行い、斬新なヘアー&メイクはモッズ・ヘアの加茂克也氏が担当した。
 視覚的なインパクトを重視するとともに、ユニクロの現在の到達点を、それぞれのカテゴリーに即して「プロジェクト」という括りで示そうというものであった。その狙いは、ユニクロの新しいタグラインであるLifeWearのコンセプトを、世界に向けて力強く、明確に打ち出していくことであった。展示会に参加した海外メディアの多くは、「ユニクロの印象が変わった」とポジティブに反応。LifeWearについても、「素晴らしくシンプルなアイデア。最大の魅力はこのような商品を低価格で手に入れられること」(仏誌)といった論評が目についた。

LifeWearというひと言の「発見」

滝沢直己氏 では、LifeWearとは何か。これは、最近になって俄かに浮上してきたコンセプトでは、もちろんない。それどころか、ユニクロが創業以来ずっと考え、絶えず実践し、積み上げてきたことの結晶化がついに実現したと言うべきかもしれない。
 ユニクロでは、自分たちの服の性格を端的に表す言葉が必要だという議論が長い間行われてきた。コーポレート・ステートメントとして用いられてきた「MADE FOR ALL」や「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」は、服を作る側の姿勢を語る言葉としては適切であるし、今後もこの方針に何ら変更はない。しかし、服を着る側--お客様の視点に立ちながら、ユニクロの服とはどういう服なのか、を的確に表すフレーズは、これまで見いだすことができていなかった。それがようやくLifeWearというひと言に集約されたのである。ユニクロのデザインディレクターである滝沢直己氏にお話を伺った。
「服飾の歴史を少しさかのぼると、オートクチュールとかプレタポルテという言葉があります。その後カジュアルウェア、スポーツウェアといった新しいカテゴリーが日常着の中に登場してきました。実は、ユニクロがいまやろうとしているのは、まさにそうした新しいカテゴリー作りなんです。たとえばスポーツウェアで言えば、ナイキなどの先端的なスポーツメーカーが新しいテクノロジーを駆使してハイテクスニーカーを開発してきました。その結果、革靴とはまったく違った、軽くて歩きやすくてストレスの少ないシューズの新しい感覚を私たちに体験させてくれました。そこに、スポーツウェアというカテゴリーが誕生したわけです。
 まさに同じことです。ユニクロがやってきたのは『暖かい』とか『軽い』といった、誰もが実感できる領域に対するアプローチです。有名デザイナーの服を着ていることが嬉しいとか、どこかのセレブと同じブランドを着ているといった、従来のいわゆるファッションの物語とはまったく逆の、『虚』ではなく『実』の物語を提供しているのがユニクロです。
 たとえばヒートテック。いまでは『ユニクロのヒートテック』と言う人はほとんどいません。ヒートテックそのものが完全に一人歩きして、ブランド化しています。これがユニクロのプロダクトとしての完成度を物語っています。イメージを買って、イメージを着るという、いわゆるファッションの現象的な価値ではなくて、『暖かい』という誰しもが実感できる服の本質的な価値--言葉の真なる意味においてreal clothingを作ってきたのがユニクロです。『この服を着たからライフスタイルが変わった』という、まさにそのカテゴリーを指し示す概念がLifeWearだと思うのです」
 なるほど、こんな話を聞いたことがある。「以前は朝の散歩が大の苦手だったのだけれども、暖パンとヒートテックソックスを履き、ヒートテックとウルトラライトダウンを着て、とても助けられた。朝の散歩が楽しみになった」とヨーロッパに住むある日本人から感謝されたというのだ。つまりユニクロの服が冬のライフスタイルそのものを変えたのだ、と。

七〇%のリサーチと三〇%の応用

 今回のプレスプレビューにおいて、カテゴリー別の括りにしたのは、それぞれのジャンルでさらに究極の服作りをめざして進化していくという、LifeWearの姿勢、意気込みを伝える目的からだった。ふたたび滝沢氏にお尋ねした。
「ユニクロがこれまで育ててきている商品の中には、次のヒートテック、ウルトラライトダウンのような『それ自体がブランド』になり得るものはまだまだあります。しかし、それを本当に実現するためには、さらに徹底してものづくりの方法論を突き詰めていかなければなりません。
 僕はつねづね、ものづくりは七〇%のリサーチと三〇%の応用だと考えています。応用というのは、いわゆるデザインです。たとえば、レギンスというアイテムで考えてみましょう。レギンスとして適正な素材は何かという場合、問題にされるのは、膝が出てはいけないとか、座った時に股上が引き攣れてはいけないとか、足が細く長く見えなければいけないといったことです。こうした条件を克服するためには、何が適正な素材か、糸はどれが正しいのかといった点について、お客様の声を聞きながら、素材メーカーとも向き合い、あらゆる試行錯誤、仮説の検証をとことんやり抜く必要があります。
 何となく感覚的に流行を取り入れてとか、ちょっとしたユニクロ風のアレンジでといった小手先の業ではまったくダメなんです。達成目標に対してきちんとした合理的な裏づけをもったリサーチを行って初めて、その先のカッティングの問題や、色の問題へと進むことができる。そういう積み重ねを経て初めて、お客様に最適なスタイル、ルックを提供できるまでに仕上がっていくわけです。それがレギンスというカテゴリーをプロジェクトとして見た場合のアプローチです。こうした取り組みを各カテゴリーで行って、毎シーズン、バージョンアップを繰り返しながら進化を遂げていかなければならない。
 実現するのは簡単な話ではありません。しかもそれをスピーディに、かつできるだけ完成度の高い商品を生み出していかなければならない。並大抵のことではありません。でも、それをやるのがユニクロだと思うんです」

天然素材の潜在的な可能性も

勝田幸宏氏 そうした場合、この先プロジェクトごとの商品開発、マーケティングは具体的にどうなるのだろうか。ユニクロR&D統括責任者の勝田幸宏氏にお話を伺った。
「LifeWearは、iPhoneが次々と新たな要素を加えながらバージョンアップしていくように、絶えずリサーチとリデザインを繰り返しながら、アイデアを継続させ発展させていくものだと思います。たとえばヒートテックはすでにブランドとして確立していますが、これにさらに保湿効果を加味していくとどうなるかとか、そういう開発は将来的にあり得るわけです。また、どのカテゴリーにせよ、究極のフィッティング、究極のプロポーションは何かを徹底的に探りながら、パターンを何回も何回もやり直して完成形を模索していく。そうすることで各アイテムをよりブランド化していくというのが、ユニクロの洋服に対する情熱であり、LifeWearの基本精神だと思うんです。
 具体的には、天然素材のシルクやカシミアの可能性についても我々は注目しています。実は、カシミアというのは雨の日に着るといいんですよね。水を弾くんです。撥水性が高い。だから、ゴルフで小雨が降っている時なんか、ごわごわしたナイロンジャケットを着るよりもカシミアを着たほうがずっと快適だったりする。何となく高級素材だからもったいないとか思ってしまいますが、これがユニクロで格段に安く買えるとしたらどうでしょう。同様に、シルクはすごく吸湿性があるというんですね。だからテクノロジーに依存するだけではなくて、自然の恵みを最大限に活用していく方向性だってあり得るわけです。シルクやカシミアと聞いただけで後生大事にしまっておくのではなくて、もっと日常的な商品として我々がそれを提供し、その快適さを体験していただければと思うのです。
 まだまだ他にもフォーカスしなければいけないテーマやカテゴリーがいくつもあります。夢としてはそうしたコアブランドが同時にいくつも立ち上がっていき、それらがヒートテックのようなユニクロの代名詞として、お店の中にひしめくようになれば、これは凄いプロダクトパワーだと思うんですね。そこを我々はめざしたいと思います」

「LifeWear 2013」

高い完成度のデザインと高品質で機能的な素材をあわせ持ち、誰にとっても手の届きやすい服を提供してきたユニクロ。常に“着る人”を中心に据えた服づくりにこだわり、たどりついたのがLifeWearという新しいコンセプトです。LifeWearは世界中の人々の生活をより豊かに、より快適に変えていきます。

「考える人」2013年夏号
(文、取材・編集部/ 撮影・菅野健児
詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。