プレスリリース

2013年07月18日

ファッションを人生の味方にするお手伝い~「考える人」2013年夏号~

~「考える人」2013年夏号(新潮社)より転載~
2013年は GU グローバル化元年

ジーユー社長
柚木治 (Yunoki Osamu)

柚木治氏 ユニクロのやり方でファッションをやる──これは、たとえば「足を使わないサッカー」のような、今までにない「新しいスポーツ」をやっているようなものだと思っています。
 自分で言うのもナニですが、狙いはいいところを衝いている。世界中の良いものや、かわいいものを全部取り入れて、日本人の感性で料理する。そして、そのファッションを低価格で世界中に届ける。それによってファッションを自由にし、世界を元気にする。ただ、まだ発展途上で、この新しいスポーツがめちゃくちゃ下手なわけです。もっと上手にやれば、大きな可能性とチャンスがあると思っています。実際、二〇〇六年に一号店を開いて以来、ジーユーは出店規模でも売り上げでもユニクロの二倍の速度の成長を遂げてきました。
 とはいえ、これまでの道のりは平坦なものではありませんでした。当初、ユニクロの廉価版を売る店のような位置づけでスタートし、二〇〇九年には990円ジーンズが大ヒットし、価格破壊の象徴のように言われました。しかし、その後、成長が鈍ってしまった。そこで気付いたのです。ユニクロの廉価版じゃダメだと。物まねから本当のヒットは生まれない。では、自分たちが低価格で本当に欲しいものは何かと考え抜いた結果、ファッションに大きく舵を切ったのが二〇一一年のことでした。
 二〇一二年春には銀座の中心に旗艦店を立ち上げ、「ゆるパン」やマキシワンピースといった、トレンドど真ん中の商品を990円で提供して大成功。昨秋から今年夏にかけては、「ファッションモンスター」「おしゃれインベーダー」といったキャンペーンを展開。ブランドとしての認知度も大きくアップしました。
 ジーユーにとって二〇一三年は「グローバル化元年」です。これには二つの意味があって、ひとつは、インドネシアを皮切りに本格的に海外に展開していくこと。もうひとつは、ジーユーをあらゆる点でグローバルレベルに引き上げる年にするということです。
 とはいえ、ジーユーに今のままで良いものは何ひとつない。商品、売り場、サービス、人材育成、店のオペレーション、サプライチェーンの仕組み……、現状のままでは全く不十分です。その意味で多品番少量を高回転で売り切るという「新しいスポーツ」習得のための手探りは続いているのです。
 作る量と売れる量を最後の一枚まで合わせることに執念を燃やす、というのがユニクロのDNA。ここから最高の効率が生まれ、お客様に高い価値を提供することができる。そうした超勤勉なユニクロの遺伝子を守りつつ、一方でファッショントレンドという非常にエモーショナルな感性の世界で勝負していかなければならない。これは、簡単なことではないし、リスクも非常に大きくなります。トレンドの読みを外せば大量の売れ残りを抱えることになりかねないわけですから。
 そのリスクを最小限にするために何をやっているかというと、早めに次のトレンドを見極めて大量に発注してコストを下げるものと、ぎりぎりまで発注を遅らせて、短いリードタイムでぎゅっと期間を圧縮して製造するものを区分けして組み合わせる。余裕をもって発注すればコストは下がるけれどトレンドを外す恐れがある。シーズン直前まで待てばヒットの打率は上がるけれど、コストを下げることができない。その一番いい案配を目指しているわけです。
 そうはいっても占い師ではあるまいし、トレンドの見定めがうまくいかないこともある。その場合、「外した」と思った瞬間に、できるだけ早く見切って値引きを始めます。売り出した瞬間から、着地点を毎週シミュレーションして、最終的に売り上げが最大になるよう綿密な計算をする。そこは洋服屋の色気のある世界とはまったく違うビジネスの部分です。しかも、高機能高品質なベーシックというユニークさで世界と闘うユニクロに比べて、ジーユーのフィールドである安価なファッションというのは競合相手の多い、非常に厳しい世界です。
 こんな風に「作り途中」のジーユーですから、今年の三月に新しくしたロゴにも、新しい企業戦略が込められています。
 二〇〇六年の創業当時のロゴは、国内向けでファミリーをターゲットにしたものでした。どこかしら、かわいらしい、ちょっとポップな、だから時に子供っぽいとも言われるロゴでした。それに対して今度のロゴは「グローバル」と「ファッション」を意識したものです。
 新しいロゴは、意図的にやや強いものにしました。ネイビーは、どちらかというと「二枚目」のかっこいい色。そこに黄色というポップで楽しい色を混ぜてある。そして、丸みのある書体とはいえGUは強い文字です。これがおしゃれに見えるかどうかは、GUのこれから次第です。GUのファッションがおしゃれと認められればロゴもおしゃれに見えるし、そうでなければロゴもダサく見える。
 つまるところ、ファッションとは感情的なもの。洋服は暑さや寒さから身を守る実用品である以上に、「新しい自分」、「一歩踏み出した自分」に出会うためのものです。つまり、ファッションを売る僕らは夢を売っている。布切れではなく、お客様は新しい服を着た時の自分に興味があるのです。
 おしゃれは一筋縄ではいかない。いかにもトレンドのもので身を固めるのは、洋服のことばかり考えている「服の奴隷」みたいで格好悪い。興味なさそうに見えて微妙にシーズンを先取りして、しかも似合って、決まってる。従来の自分を逸脱していないけど一歩新しい──それが極意だと思うのです。
 でも、それには時間もお金もかかる。だから、ファッションを人生の味方につけている人って、実はあまり多くない。ファッションが大好きな女の子は欲しいものが山ほどあっても、お金が足りない。男性だって結婚して家族が増えると可処分所得が減って、ファッションとの付き合いは終わってしまうことが多い。
 ジーユーは、お客様が新しい自分という夢を見つけるために必要な時間とお金を極限まで引き下げます。探しまわらなくても、ジーユーのお店に行けば旬のファッションが低価格でそろっている。その意味で、お金も時間も節約できるのです。
 新しい自分に挑戦して、活き活きと、一生ショーアップして生きていく。それを支えるのがファッション。僕は服の力、ファッションの力を信じています。

スタッフの感性を高める

 ジーユーが掲げる「ファッションを、もっと自由に」を体現するのが、「おしゃリスタ(おしゃれ+スタッフ)」と呼ばれる店内ファッションリーダーたち。センスの良さはもちろん、接客能力の高さ、そして何よりおしゃれすることが大好きであるといった基準をもとに選抜され、「おしゃリスタ」バッジを胸につけた彼らは、“歩くマネキン”であると同時に、店全体のおしゃれ化を進める強力な指導者でもある。その日常の一コマを追った。

 銀座店開店四十分前の朝礼。店長の話やスタッフ一人一人の目標宣言などにつづいて、三人のおしゃリスタが前に立つ。彼女たちには大きく分けて三つの仕事がある。ひとつは、CS(customer service)=お客様に対するサービス向上。そのために、挨拶の仕方から歩き方まであらゆる接客技術を指導する。ふたつめは、ES(employee satisfaction)=スタッフの満足度向上。互いに着こなしやヘアスタイルを褒めたり、労いの言葉をかけあうなど、気持ちを高めて明るくお客様の前に立てるよう店内の空気作りをする。そして最後に、お客様に的確な商品説明とアドバイスができるよう、季節にあったコーディネートの提案を含めたファッション情報をスタッフ間で共有させること。
 この日は、盛夏に向けてジーユーが発信する三つのテーマ、fun, fresh, happy(楽しい、新鮮、ハッピー)を、マリンとリゾートという今年のトレンドに合わせて具体的な形で見せるコーディネートを紹介。おしゃリスタの宋萌さんが、「全体の中で分量の少ないカラーのアクセサリーを加えるとバランスが良くなります」「ネオンカラーをちょっと入れたり、シャツ襟のボタンを閉めるかわりに下を開いて遊び心を」といった具体的でわかりやすいアドバイスを行った。
 開店後も、接客の合間を縫ってスタッフの指導は続く。一人ずつ店の片隅に呼んで写真撮影。画像を確認しながら、その日の着こなしを、「ジーユーの今を伝えられるスタイリングか?」「カラーの使い方はどうか?」といった項目別に○×△で採点し、センスアップのヒントを与えていく。「組み合わせも着こなしもすごくいいけど、ちょっとソックスの色が……」とおしゃリスタの秋吉めぐみさんが言えば、指導を受けていたスタッフが「そうなんです! わかってたんですけど、今朝、寝坊して緑のソックスみつけられなくて……」と、悔しがりながら笑う。そんな毎日のやりとりから、おしゃれセンスのベースアップが確実に行われていく。
「あの手この手でスタッフの感性を高めていくのが私たちの仕事です」と語るのは、店長でもあるおしゃリスタの渡辺夏実さん。
「銀座店には社員からアルバイトまで百四十人のスタッフがいて、みんな洋服の趣味はそれぞれです。開店当初は本当にいろんな服装の人がいました。でも、お店にいる間はふだん着や作業着ではなく、新しい自分に挑戦するファッションで、かっこ良くいて欲しい。それを繰り返し伝えていった結果、一年前よりも全体のレベルはぐっと上がったと思います」
 以前在籍したユニクロのシューズ事業部が閉鎖になり、異動先はユニクロかジーユーかの選択肢を与えられたとき、「できあがっているユニクロよりも、変わっていくジーユーで自分の力を試したい」と考えて選んだという渡辺さん。ファッション路線を走るジーユーの最前線で確実な手応えを感じているようだ。

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ユニクロは、アジアを最大の成長機会と捉え、出店をさらに加速させる計画です。今夏、インドネシアの首都ジャカルタには、東南アジア最大級となるインドネシア1号店「ユニクロ ロッテ ショッピング アベニュー店」をオープン。また秋には、ユニクロ史上最大の約2000坪の広さを持つ世界最大のグローバル旗艦店「ユニクロ上海店」をオープンいたします。2002年9月に中国に出店して以来、多くのお客様に愛され、中国大陸には現在189店舗を展開しています。

「考える人」2013年夏号
(文、取材・編集部/ 撮影・菅野健児
詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。