プレスリリース

2014年04月07日

ユニクロ復興応援プロジェクト[後編]~「考える人」2014年春号~

20140404_img5.jpg ~「考える人」2014年春号(新潮社)より転載~
マイクロファイナンスの具体的で大きな効果


株式会社マルフジ代表取締役
加藤和巳 (Kato Kazumi)

「Laugh(ラフ)」代表
菅野恵 (Kanno Megumi)

御菓子司「いさみや」
畠山憲之 (Hatakeyama Noriyuki)

「顔の見える援助」とは、開発援助などの場において、援助する側の存在感を語る際に使われる。だが、支援を受けるのがどんな人たちで、援助がどう活かされているのか、その「顔」が見えることもまた、有効な支援を続けるためにはきわめて重要だ。
 被災地の復興支援のため、ユニクロは二〇一二年三月の全店舗売上からの三億円とお客様から寄せられた募金をあわせて、東北の復興支援に取り組むNGO(非政府組織)五団体に三年間にわたって供与している(一団体に年間約二千万円)。そのうちのひとつ、マイクロファイナンス(小規模融資)に実績をもつPlaNet Finance Japan(プラネットファイナンス)の支援を受けて、震災の痛手から立ち直ろうとする人たちを宮城県気仙沼市と岩手県陸前高田市に訪ねた。

20140404_img7.jpg 宮城県気仙沼市赤岩港、大川が気仙沼湾に注ぎ込む河口近くに、再建された水産加工会社マルフジの工場はある。周囲に目をやれば、震災から三年を経ても、かさ上げ工事を待つ近隣地区に建物はまだほとんどない。
 加藤和巳さんにとって、震災後は「ゼロ」どころか、「マイナス」からのスタートだった。
 脱サラして、一九八八年に仲間三人と興したマルフジで専務を務めていた加藤さんは、天気予報を見ては海の状態を予測し、原材料となる魚介類の仕入れを算段する忙しい毎日を送っていた。資金繰りなどの社長業は共同経営者の藤田時男さんに任せ、製造現場の責任を負っていたのだ。
 二〇一一年三月十一日、巨大地震とそれにつづく大津波が、すべてを変えた。稼働からわずか一年半の新工場と社屋、トラックなど、あらゆるものが流された。社長夫妻は帰らぬ人となり、会社の重要書類や印鑑類もなくなった。残ったのは工場建設の際の借金だけだった。
 弁護士からは自己破産も示唆されたが、加藤さんは会社を再建して借金を返すことを決意する。
「震災後の夏から秋までは、魚市場で鰹を買い付けて出荷する仲買業を行ない、従業員にもアルバイトとして手伝ってもらいました。でも、仕事は一日数時間しかないし、市場での仕事は雨風が強いと辛くて申し訳なかった。最初の一年は失業保険が出たけれど、そのあとはみんな苦労しながら会社の再開を待っていてくれました」
 震災後の被災地では建築資材や人手の確保が難しくなったことから、時を経るごとに建築費が高騰していくなかで、建設会社「福田組」が素早く工場を再建してくれた。二〇一三年四月に営業再開。待ちわびていた従業員が戻ってきた。
「それでもまだ仕事量は震災前の六、七割までしか戻っていません。というのも、冷蔵庫や運送など、周囲の関連会社も一緒に復旧しないと、うち一社だけでは回復できないんです。道路だって渋滞がひどいから、前は一時間で行けたところも三時間かかったりする。気仙沼には百二十二の水産関連企業がありましたが、去年の十月の時点で四八%しか復旧していません」
 こうした問題以上に加藤さんを悩ませているのが、人の確保だという。
「人が本当に大事なんです。若い人を採用して育てていかないと、十年後、十五年後、気仙沼は大変なことになる。この前も新聞に出ていましたが、毎年五百人から七百人減っており、いま六万八千人の人口が二十五年後には四万人程度にまで減るというのです。若い人が将来にわたって働ける場所を作っていかないと、みんな外に出てしまう。
 でも、その若い人を雇うのが難しいのです。このあたりはもともと賃金が安く、アルバイトの平均時給は六百八十円くらいで、県内で下から二番目くらいに低い地域でした。ところが、震災後、がれき処理で月に四、五十万円稼げるようになると、若者はそういう仕事に流れてしまう。地元の水産業は人を集められなくなったんです。
 だから、今回、雇用支援を受けて被災者を一人新たに雇うことができたのは、本当にありがたいのです」
 現在、マルフジでは男性五人、女性三人の計八人を雇用している。人を雇う以上、仕事を作り出すのが社長の役目だと加藤さんは考えている。
「自分にできる仕事はこれしかない。だから、とにかくできることをやっていくんです」
 淡々と語る加藤さんだが、その言葉からは被災地の生活再建と故郷の将来のために雇用を守るのだという強い意志がうかがえた。

新規事業の意義

20140404_img6.jpg  ユニクロとの連携のもと、プラネットファイナンスが地元の信用金庫と協働して進めている東北経済復興プログラムは、以下の三つの柱からなる。
 ひとつは、マルフジが受けた雇用支援。被災した(従業員二十人以下の)中小企業が新たに人を雇うとき、従業員一人の給与の半分程度に相当する月十万円を一年間助成する。
 もうひとつが利子補給。中小企業が融資を受ける際に、二年間無利子で借りたのと同じ状態になるよう、利子相当分を供与する。
 そして三つ目が、新規事業創出助成。被災地で新たに事業を立ち上げる際、一社最大百五十万円を助成する。
 この制度を活用して運転資金の一部提供を受けることで、岩手県陸前高田市「未来商店街」にコンテナ一つのかわいらしい雑貨屋を開いたのが、菅野恵さん。東京のアパレル会社で働いていた菅野さんは、震災後、「地元のために何かしよう」という使命感を抱いて、二〇一二年四月に戻ってきた。北欧をイメージした雑貨屋は、「未来が笑顔と笑いにあふれていて欲しい」という想いをこめて、「Laugh(ラフ)」と名付けた。
 地元ぶどう園から出るぶどうの皮を使ったオリジナル石けん「ラフぷる~ん」を開発し、地元にUターンしたデザイナーが絵を手描きしたスニーカーや地元の主婦が作ったバッグなどを並べている。
 震災から三年が経ち、記憶が風化しかねないなかで、いかに全国に向けて情報発信を続けるか、地元を活性化するにはどうすれば良いのか、菅野さんの模索は続く。
「震災後、人のありがたみを感じて、感謝の気持ちを持つことができました。地元を元気にしたいと思って帰ってきたけれど、むしろ、私がいろんな人に支援されているのを感じています。それはいつかお返ししたいと思っています」
 他に、鯛焼きならぬ「さんまやき」を開発し、移動販売している菊地隆太郎さんも、プラネットファイナンスからの資金提供を受けている。オリジナルの焼き型から考案した菊地さん、焼く腕もどんどんあがっているという。
 東北復興支援担当として気仙沼に駐在するプラネットファイナンスの高橋克徳さんは、被災地からの人口流出がつづくなか、既存企業の再建だけでなく、若い人が新規に事業を始めたという点で、菅野さんや菊地さんの挑戦には深い意義があると考えている。

「運命から目を背けない」

20140404_img8.jpg プラネットファイナンスの支援を受けるなかに、強く印象に残る企業があった。気仙沼に六十七年続く老舗の和菓子屋「いさみや」だ。三代目の畠山憲之さんが震災直後の様子を語ってくれた。
 大きな揺れで店内は混乱したものの、津波はかろうじて免れた。家族も従業員も無事だった。そこで、当日の夕方、冷凍庫にあった在庫のお菓子を避難所に届けたところ歓迎された。一週間ほど、毎日五百個から六百個くらいのお菓子を町役場を通じて、避難所に配ってもらった。そして、震災から一週間たったところで春のお彼岸がやってきた。
「電気はないけど、水があってガスが使えた。原料もあった。作れるものは作っていこうと、まずはおはぎを作りました。避難所に配ったあと、再開したスーパーに運んで通常の半値で販売をはじめました。
 最初は、非常時に甘い物はどうなんだろうと思ったのですが、意外に『生活に必要なもの』だったのです。みんな疲れているし、気も張っている。そんなときに、甘い物は喜んでもらえた。思っていたよりもずっと、和菓子は生活に根ざしたものだったのです。
 加えて、毎日のように食べていたお菓子が手に入るのは、また一歩、元の生活に近づいたという気持ちになったと話してくれる人もいました。改めて、この仕事をしていて良かったと感じました」
 震災後はボランティアも多く、お土産需要もあって店は以前に増して忙しくなった。そこで家族と従業員四人に加えて、プラネットファイナンスの雇用支援を受けて、被災した女性を一人新たに雇い入れた。
 畠山さんは、震災から三年を過ぎたこれからが大変だと気を引き締めている。
「いちばん責任のある世代でこんな経験をしたことは、ひとつの運命だと思っているんです。そこから目を背けてはいけない。かといって、大きなことができるわけじゃない。結局はお菓子作りなんですけど、いいものを作って、人を雇用する。仕事を作る。それによって町の復興の一助になればいいと思っています」
 加藤さん、畠山さん、そして前編に登場するユニクロ気仙沼店の早野前店長が口を揃えて語った「働く場所の確保」。そこで働く人が不安なく仕事をし、ふつうの暮らしが営めるようにすること──一人の人間にできることとして、それ以上に大きな仕事はそう多くはない。

お客様にお買い上げいただいた2012年3月の全店舗売上からの3億円と、店頭での募金箱設置によりお預かりした10,928,565円も、この記事のような形で活かされています。協働しているのは、JEN、PlaNet Finance Japan、ADRA Japan、認定NPO法人IVY、一般財団法人・東北共益投資基金の5団体です。

「考える人」2014年春号
(文、取材・編集部/ 撮影・菅野健児)
詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。