プレスリリース

2015年01月16日

BACKSTAGE REPORT 福島県立浪江高等学校 被災地応援共同プロジェクト~「考える人」2015年冬号~

~「考える人」2015年冬号(新潮社)より転載~

働く体験を通して未来を考える

「うれしかった。初めて会ったときは緊張のあまり、話しかけてもほとんど返事のなかった子が、どんどん変化して、最後の三日間は特に成長が見えた。大きな声を出して笑顔でお客様に接していました。売場で見ていて泣きそうになりました」
 目を潤ませながらそう語ったのは、ユニクロ福島南沢又店の箱崎三希店長。その目が追っていたのは、福島県立浪江高等学校の一年生十四人。ユニクロは、二〇一二年から続けている復興応援プロジェクトの一環として、浪江高校生徒とのコラボレーション企画を進めている。
 福島第一原発から二十キロ圏内にある浪江町は、震災翌日、町内全域に避難命令が出され、そのまま原則立ち入り禁止の警戒区域となった。現在も立ち入り制限は続いている。町役場も二本松市に移転するなか、原発から九・五キロほどのところにあった浪江高校は六十キロ近く内陸の県立本宮高校敷地内に建てられたプレハブ校舎へと学び舎を移した。震災前は約三百六十人の生徒が学ぶ高校だったが、今では三年生五人、二年生十四人、一年生十四人の計三十三人。一年生が卒業する二年半後には休校となることが決まっており、新入生の募集はない。後輩を持たない現一年生は休校前最後の卒業生となる。
 なぜ、休校が決まっているプレハブ校舎の高校をわざわざ選んで進学したのか、一年生の竹内美咲さんに聞いてみた。
「復興に向けて取り組んでいくためには、たとえ後輩がいなくても私たちが浪江高校を継いでいかないといけないと思ったんです。家族も私の強い思いを理解してくれました」
 程度の差こそあれ、同級生たちはみんなそれぞれに、ふるさとの復興を願う気持ちを持っているという。

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「モデルさんたち最高!」

20150113_img5.jpg 今回のプロジェクトが目指すのは、働く体験や、普段の生活で接する機会のない大人との交流を通して、生徒たちが自分の将来やキャリアについて前向きに考えるきっかけを提供することだ。同時に、生徒たちの復興への思いを汲み、被災した人々の役に立ちたいという希望をかなえるため、ユニクロでの職場体験とあわせて、浪江町から避難した人々が暮らす仮設住宅を訪ねて聞き取り調査を実施。買い物の不便など生活していく上での苦労を知り、必要とされるサービスを生徒自身が考えて実行する。
 このため、十月はじめに仮設住宅に暮らす人々にアンケート調査を行ない、十月半ばに南沢又店スタッフと作戦会議。寒い冬に向けて「軽くて暖かい洋服を提供する」ことを決め、送迎バスつき買い物ツアーを月末に実施することを計画し、告知チラシを作った。
 そして、十月二十二日、チラシを持って訪れたのが、浪江町から避難した五十世帯百十人が暮らす旧平石小学校仮設住宅の集会所だった。
「来週、バスでお迎えに来ます。私たちがお買い物のお手伝いをします。ぜひ来てください」
 生徒たちはチラシを配り、それに続いてささやかな〝ファッションショー〟を行った。島田憂佳さんと草野悠斗君が緊張気味に司会に立つと、集まった住民から笑顔とともに「がんばって」「大きい声で!」と励ましの声が飛ぶ。ウルトラライトダウンを着た深谷光紀君が照れながらも「軽いので部屋着としても使えます」と紹介。佐川裕樹君が真っ赤なフリースでモデルウォークを見せ、竹内美咲さんがスカートの裾をめくってヒートテックタイツを強調、二階堂愛美さんが内側にフリースを張った「暖パン」の足首が締まって暖かいことを示すと、ニコニコと見ていた仮設住宅の方々から「モデルさんたち最高!」と掛け声が飛んだ。
 自治会長の天野淑子さんは、仮設住宅に暮らす学生たちは朝早く出かけてしまうため制服姿の高校生を見かける機会は少なく、こうして交流できるのは楽しいと言う。毎月、手作りクッキーをもって訪ねてくれるルワンダ出身の女性をはじめ、全国各地から慰問の人がやってくるが、ふるさと浪江の若者の訪問にはまた格別の意味があったようだ。
 別の住民は、「ユニクロは近くにないから、行きたくてもなかなか行けない。こうして商品をもってきてくれるといいねえ。軽くて暖かいね」と言いながらサンプルを試着していた。なかには震災直後に救援物資として受け取ったユニクロの服をいまも大切に着ていると語る人もいた。「何も持たずに着の身着のままで逃げたから、あのときは本当にありがたかった」と。
 浪江町は「帰還困難区域」「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」に三分され、それぞれに将来の見通しが立ちにくい状況にある。そうした中で月に一度、浪江の自宅の様子を見に行くと、「畳はカビで真っ黒。雨漏りで床にキノコが生えて、ネズミの糞の臭いもひどい。帰るのが嫌になる」状態だという。
 ともすると落ち込みがちな暮らしの中で、高校生たちの明るい笑いは、ひとときなりとも、仮設住宅に温もりを届けた。

接客の実体験をしてみて

20150113_img4.jpg 仮設住宅訪問から六日後、二日かけて接客の基礎を学んだ浪江高校一年生たちは、三日目の十月三十日、南沢又店で仮設住宅からバスでやってきたお客様を迎える準備を始めていた。
 まずは開店前の掃除から。天井近くからぶら下がる大きなポスターの表面や陳列棚の隙間や下など、ふだんの買い物では目を向けることのない所の掃除を担当して、高校生たちは接客の舞台裏を体で学んでいった。菊池あすみさんは、朝礼開始直前まで熱心に棚の下のゴミを拾って回った。
「こんな所まで掃除するんだって、びっくりしました。母がユニクロで働いていたのですが、働くことの大変さがわかった気がします」と高橋七虹さん。「笑顔とコミュニケーションの大切さを今回学びました。裏方の大変さも初めてわかりました。高校を卒業したら就職すると決めているので、この経験を大切にしたいです」と語ったのは佐川君。知らない人と話すことが苦手な二階堂さんは、元気いっぱいのユニクロスタッフを見て「すごい。あんな風にできるようになりたい」と思ったという。
 浪江高校の先生やユニクロのスタッフが最も目を見張ったのが、西山宙斗君の張り切りだった。仮設住宅からのお客様が到着するや先陣を切って接客を始めたのだ。プロジェクトが始まった当初は緊張して自分から積極的に話しかけることもできなかったというのに。
「最初はほんとに緊張しました。でも、きのう入店するお客さんにカゴを手渡す練習をして、買い物の手伝いはおもしろいと思ったんです。自分で思っていた以上に人と話せたし、思っていた以上に仕事がおもしろい。将来の夢は自動車整備士ですけど、今回の経験は敬語の使い方とか勉強になりました」
 そう語る表情には、人の役に立つ喜びがあふれていた。担任の朝田由美子先生も、「みんな変わってきた。まだまだ足りないけれど、考えていたよりずっとがんばっています」と目を細めていた。

非日常を生きる高校生

20150113_img7.jpg ユニクロのパートナーとして、このプロジェクトを現場で進めるのは国際NPO、ADRA(Adventist Development and Relief Agency)Japan。東日本大震災・復興支援担当の会田有紀さんは、生徒たちの表情がみるみる変わっていくプロセスを目の当たりにして、大きな手応えを感じたという。
「非日常が当たり前になってしまった被災地の子供たちは、生活範囲が限られたり様々な不便があっても辛いと言わないし、がんばっているところもことさらに見せない。ひたむきに非日常を生きている。そんな彼らが、夢と自信をもって生きていく力をつけるために、大人と触れ合う様々な機会を与えたい。その意味で、スタッフが自発的に楽しそうに働くユニクロさんでの研修はとても良い機会だと思っています」
 神奈川県出身で、赴任先のラオスで農村開発に携わっていたときに東日本大震災のニュースを聞いた会田さんは、「帰って役に立ちたい」と強く願った。帰国後、福島で与えられた任務は人材教育。大学院で教育学を学んだ会田さんにとって願ってもない仕事だった。
 もう一人、教育学の知識をフル活用しているのが生徒たちを受け入れた南沢又店の箱崎店長だ。地元福島大学教育学部で学び、教員免許も持っている。教育を学んだのは、教師になるためというより自分と周囲の人間教育に活かしたかったからだという。学生時代にユニクロでアルバイトをはじめ、準社員、契約社員を経て社員となった。
 震災のあとしばらく、栃木県宇都宮市の店に勤務した。福島県外に一歩出ると原発関係の報道が減ることに驚いた。そしてまた、宇都宮で被災した人々が復興に向けて前進している姿に励まされた。「福島県民の私もがんばらなくちゃと思った」という。その後、福島に戻り、店長となって二年目のいま、「宇都宮でもらった『がんばって』を、こんどは県内から発信したい」と語る。
 浪江の高校生が社会へ踏み出そうと努力する姿は、ユニクロスタッフの心の教育にも役立っているという。「私たちこそ、高校生からいただくものがある。だから、このプロジェクトにぜったい参加したかった。やらせてくださいと立候補したのです」
 ユニクロとADRAは、この一年生十四人が浪江高校を卒業するまで、その成長を見届けるつもりでいる。

ユニクロでは、復興応援プロジェクトの一環として、以下の目的のもとに浪江高校生徒との共同プロジェクトを進めています。①ユニクロ店舖での職場体験を通して、高校生が希望をもって将来やキャリア形成を考える手助けをする。②地域の人々の役に立ちたいという高校生の思いをかなえるサポートをする。③仮設住宅に暮らす人々の心のケアと暖かい衣類を提供し、居住者の問題解決に貢献する。ユニクロはこれからも被災地を応援していきます。

「考える人」2015年冬号
(文、取材・編集部/ 撮影・平野光良)
詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。