プレスリリース

2015年04月14日

BACKSTAGE REPORT 全商品リサイクル活動2014~「考える人」2015年春号~

~「考える人」2015年春号(新潮社)より転載~

ヨルダンに“あったかい”を届けてきた

20150413_img1.jpg 見渡す限り、荒涼とした砂漠が広がる。砂埃が舞い、肌がぴりぴりするほど乾燥している。むき出しの大地、そして青い空。そこに、広大な難民キャンプが設置されている。二〇一一年に勃発したシリアの内戦を逃れ、ヨルダンへ避難してきた人々の数は約六十万人にのぼる。先行きのまったく見えない生活の不安を抱え、砂漠とはいえ、冬が近づくと氷点下にもなるこの場所で、四度目の冬を迎えようとしている人たちが、いた。
 ユニクロはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)とのグローバルパートナーシップのもと、二〇一二年十二月からヨルダンで避難生活を送るシリア難民の衣料支援を行ってきた。これまで二度にわたり、全商品リサイクル活動で回収した衣料品を携え、現地で直接彼らに手渡してきた。そして三度目となる二〇一四年十一月の訪問には、初めて店舗スタッフ四名が参加した。
 それには格別の理由がある。今回のリサイクル活動には、お客様と従業員がこれまで以上に主体的、積極的に関わったからである。二〇一四年五月~七月に実施した「〝あったかい〟を届けよう!」キャンペーンに参加した店舗数は全国七百六十八店。国内ユニクロ全店舗の約九割に当たり、集まった服はなんと二百万着に達した。それだけではない。お客様にキャンペーンへの参加を呼びかける際、今回は服の提供だけでなく、ひとつのお願いを加えた。店頭で配った七色のハート形のカード(あったかカード)に名前やメッセージを書きこみ、それを服と一緒に持参してもらったのだ。その数は、一万一千枚にも及んだ。
「長い間大切に着ていました。お役に立てれば幸いです」、「寒い冬を頑張って乗り越えて下さい」――。中にはアラビア語で書かれたメッセージもあった。愛用の服にこめられた温かい思いを、店舗スタッフたちは託された。このハートのカードは、現地で従業員と難民の人たちとが一緒に大きな横断幕に貼りつけていき、七色のカラフルな横断幕(レインボー・バナー)を完成させよう、という目論見だ。色が少ない砂漠のキャンプに、一緒に大きな虹をかけ、少しでも明るい気持ちになってもらおう、というのである。

ある少女との再会

 参加した店舗スタッフ四名とは、村上徹・ビックロ新宿東口店店長、阿部良平エリアマネージャー、京都のカナート洛北店から立石真実店長、東京世田谷地区の相田康之エリアマネージャーである(役職はいずれも当時)。ちなみに、立石さんの店はハートのカードを三百八枚集めて、全国第一位に輝いた。現地に向かう飛行機の中では、期待と不安が入り混じっていた、という。うまくいけばきっと感動的なこの「夢」だが、はたして厳しい現実の中で暮らす難民の人たちにこちらの思いがうまく届けられ、歓迎されるかどうか、実は不安のほうが大きかったとも。
 訪問したのは、まずこれまでにも二度訪れたザータリ難民キャンプ。現地で受け入れの準備を進め、一行を待っていたのは世界各地の災害や紛争地域での緊急支援活動をしている国際NGO・JEN(ジェン)の廣瀬美紀さんや、UNHCRの職員たちだ。今度で三回目ともなれば、「冬になればそろそろユニクロがやって来る頃だ」という期待が、現地には広がっていたと廣瀬さんは言う。
「虹の横断幕」の話は後述するとして、このキャンプで感動的だった出来事がひとつ。ある少女との〝再会〟だ。現在八万人が生活するという広大なキャンプの中で、二〇一三年に衣料を手渡した少女と、なんとめぐり会うことができたのだ。聞けば、彼女は十三人家族で、二〇一二年にキャンプに来たという。世帯主は母親で、父親とはシリアで離ればなれになったまま。「着の身着のままで逃げてきた。必要最低限のものも、途中で手放すぐらい大変な道のりだった。いまはキャンプ内の学校へ通うこともできるようになったけれど、生活はまだまだ大変です」と。でも、「ユニクロの服は暖かく着心地がいい。色も好き。夜は寒いからパジャマとして着ているわ」と一年経ったいまも、服をとても大切にしてくれていた。

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第二次世界大戦以降、最悪の数字

20150413_img8.jpg 続いて向かったのが、アズラック難民キャンプ。二〇一四年四月末にオープンした新しいキャンプで、約一万二千人が避難生活を送っている。最終的には十三万人まで受け入れが可能になるというが、こうした規模の施設が必要とされるところに、現在の難民問題の厳しさが窺われる。
 マイケル・リンデンバウアーUNHCR駐日代表によれば――、
「いま世界には難民や国内避難民として移動を強いられた人が五千万人以上いるとされ、これは第二次世界大戦以降、最悪の数字です。こうした危機に対処すべく各国政府や民間からの寄付も増えてはいますが、危機の拡大に追いつかないのが実情です。ヨルダンで冬を迎えるシリア難民も厳しい現実に直面しています。食料、衣料、シェルター、子どもたちのための学校といった最低限必要な支援に加えて、拷問や性的暴行など紛争にともなう暴力にさらされた人々の心理ケアの必要性もあります。とりわけ、心に傷を負った子どものケアが必要ですが、支援団体はどこも能力の限界を超えるような状況です」
 ユニクロからの荷物が届いたところで、キャンプではJENの廣瀬さんたちが難民の人たちを動員して、荷解き、仕分け、透明の袋にパッキングという作業を一週間のうちに猛スピードでこなしていた。一日二十人の手を借りることで、難民に仕事と収入創出の機会をもたらすという意味も含まれていた。その準備が整ったところにユニクロの一行が到着し、配布先の家族構成やニーズに応じながら、さあ配布の作業がスタートした。二日に分けて朝九時から午後三時まで。待ちかねていた人たちに、四名が二つのセクションに分かれて手渡した。
 そして、いよいよ横断幕の作成である。衣料を受け取った人々にハートのカードを渡し、白い横断幕の上に貼ってもらうのだ。当初の不安はまたたく間に消し飛んだ。誰もが夢中になって、七色のハートを貼ってくれた。子どもの中には、何枚も何枚も、いつまでもハートを貼り続ける子が現われた。英語とアラビア語で「日本のみんなから友人たちへ」と書いた横断幕。書きこまれたメッセージはお客様、従業員の〝あったかい〟気持ちそのものだ。ヨルダンの青空にかかる、その大きな虹。
「男性や年配の人たちも、楽しんで参加してくれました。リクリエーションの場が少ないだけに、こういうイベントは大歓迎です。いい前例になったのではないか」と廣瀬さん。三泊六日という強行スケジュールだったが、参加メンバーは「本当に行ってよかった」と口々に感動を語ってくれた。

実感した「服のチカラ」

20150413_img4.jpg立石真実――「これまでも全商品リサイクル活動には関わってきましたが、回収された服を梱包して送ったらそれで終わり、というところがありました。今回参加したことでお客様のこめた気持ちもよく分かりましたし、集めて発送したものが現地でどういうふうに配布され、難民の皆さんにどんなに喜ばれているか、わかりました。これまで考えていた以上に、凄い活動につながっているのだ、とあの場で実感できました」
相田康之――「服のチカラということが、よりよく理解できました。寒さをしのぐとか、怪我を防ぐとか、服の効用はいろいろありますが、難民キャンプに服を届けてみて、むしろ心の面で幸せや満足を感じてもらう、そういうお手伝い、貢献がわれわれはできるのだということを強く感じました。ユニクロのコンセプトである“LifeWear”――世界中のどこでも、誰でも着られる服には、そのチカラがある、と納得できました」
阿部良平――「今回たくさんのハートをお客様に書いていただきましたが、それを懸命に働きかけた店舗スタッフたちがいる会社。そして、再利用だといっても断然良質で丈夫で快適な服を作り続けている会社。さらに、難民キャンプにこうしてわれわれを派遣して、お客様から預かった服とメッセージを手渡してこい、と命じる会社。ここで働いていて良かったな、ということを思いました」
村上徹――「虹がかかった時には、もうめちゃめちゃに感動しました。そして思いました。ユニクロのCSR(企業の社会的責任)活動を実践し、伝えていくのは、本当はわれわれ店舗スタッフの仕事なんだなって。だって、お客様と一番接点があるところではないですか。本当はCSR部の仕事じゃない(笑)。そういう気づきが与えられたり、みんな知恵熱が出そうなくらいにいろいろなことを考えたり、議論しました。今回参加できたのは本当に良かった」
 UNHCRのリンデンバウアー駐日代表も強調する。「百聞は一見にしかず。現場を見ていただいたことが何よりも重要です」と。「日本に限ったことではありませんが、一般の人たちの難民問題に関する知識はまだまだ限られています。そうした中でユニクロの人たちが店頭のポスターで難民問題の存在を伝えたり、さまざまなメッセージを発して下さることは本当にありがたいことです。店長さんが実際に難民キャンプを訪れて支援活動を体験し、それを持ち帰って職場で語って下さること、お客様もまた〝良きこと〟につながっているということを実感していただくのはとても大切です」
 ユニクロを運営するファーストリテイリングの新田幸弘CSR担当役員もまた語っている。「今回参加したメンバーが、現地のミーティングでUNHCRの職員が『自分たちの究極の使命はUNHCRの存在が不要になることである』と発言したことに感銘を受けていました。おそらく、CSR部というのもまた、最終的にはそれが不要になって、あとは店舗の人たちがそれぞれCSRの意識をもって、ビジネスを通じて社会貢献していくのが理想だと思う。究極は従業員一人一人がお客様とともに、商売を通じてさまざまな社会的課題、地域の問題を解決していくようになればいい。そうした発展に向けての第一歩になればいいと思います」

2006年にユニクロ商品を対象に始まった「全商品リサイクル活動」は現在、世界11カ国のユニクロ・ジーユー全店舗に広がっています。ファーストリテイリングがUNHCRと連携し、世界37カ国・地域の難民に寄贈した服は1000万着を超えました。全商品リサイクル活動へのご協力ありがとうございます。衣料の回収は現在も続けています。ご不要になったユニクロ・ジーユーの服を店頭までお持ちください。

「考える人」2015年春号
(文、取材・編集部/ 撮影・上岡伸輔、菅野健児)
詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。