書いた文字で気持ちは伝わる。“書は人なり”とはよく言ったもので、今、最も必要なことは、筆やペンを取って心を込めて書くことなのかも。
今の世だから、書ができること、伝えられることがある。
歳を重ねるほどにますます磨きがかかる芸術のひとつに書道がある。その文字の向こう側に、書き手の人柄や心模様、ひいては人生までもがにじみ出てくるのが書の面白さだ。伝えたい言葉を、心を込めて文字にして届ける。今の時代にそういったことが、どこまでできているのだろう。UTも、世の中にあらためて、思いやりや気配り、物事に対する心構えといったことを伝えられないかと思い、書家の先人たちのお力を拝借し、書道アートコレクションを作った。
幼少期、戦争が始まった年に書を始め、無窮の書の道を歩み続けているのが、京都在住の杭迫柏樹さん。日本書芸院名誉顧問も務める先生の書は、東山三十六峰のひとつ瓜生山を背にした京都造形芸術大学にも大きく飾られていた。
「9人兄弟の書道一家に育ち、本格的に書を学ぶために京都学芸大に進みました。なぜ京都だったかというと、好きな弓道もやりたかったから。弓道も書道もメンタルが大事といったところは共通点で、この一本と思うと外れますね(笑)。若い頃は書とは何か?なんてまったくわからずに、評論家気取りで、表現方法ばかり机上で練っていて、基本を疎かにしていました。師となる村上三島先生との出会いがなかったらどうなっていたことでしょう。日展に出品される人はひとつの作品を仕上げるのに2千枚も3千枚も書き込んでいたんです。私はというと50枚。まるで違いますよね。画仙紙を買うお金にもとても苦労した時代です」
日課にしているのは、午前4時半からの古典の臨書。朝食までには、一日に書くものすべてを終わらせるのだそうだ。
「夜は選文の時間です。心に響く言葉を古典などから探します。書道は手習いと思われがちですが、大切なのは“目習い”です。目が高くないと腕がついてこない。本質をしっかりと見抜けないとモノにはできません。書道とは“線の芸術”でもあります。線に生き様が写され、それが作品の風格となって現れます。人生と同じで人それぞれ。自分だけの“線”をどこまでも追求していくのが書道の奥深さではないでしょうか。私事ですが、これからはもっと書を通して文化振興ができるといいと思っています。文化とは人と関わること、関わることで高め合っていくものだと思います。少しでも書道に恩返しができたら幸いです」
©KUISEKO HAKUJU
PROFILE
くいせこ・はくじゅ|1934年、静岡県生まれ。京都学芸大学美術科卒。村上三島氏に師事した3ヶ月後に、初出品した日展で入選。主な受賞に、2005年の日展内閣総理大臣賞、2008年の日本芸術院賞など。現在は日展名誉・特別会員、日本書芸院名誉顧問ほか。