手のひらサイズのラジカセに、バットに、ぬいぐるみ。どんな廃材も、切って、型をとって、くっつけて、コラージュの果てに、まるで違うアートに転生させてしまう日本のアーティストユニットのmagma。世界中で大人気の『ポケットモンスター』のポケモンたちも、見たことのない異次元のグラフィックで表現されたTシャツとなっている。物を通じて時代を見つめる、magmaの作品作りに迫る。
作品を認識するまでの時間が面白い。
アーティストユニットmagmaのアトリエには、いつか作品になるであろうさまざまな“素材”が並んでいた。樹脂でできた等身大の犬の像、カラーコーン、ロデオマシーン、アニメのフィギュア、将棋の駒、ぬいぐるみ。ただそこに置いてあるだけなのに、すでにmagmaのギャラリーのようだ。
杉山純さんと宮澤謙一さんは、このアトリエでUTのための作品を制作した。ピカチュウ、コイキング、コダック、コイル、リザードンの5点。多種多様なアイテムを組み合わせ、お馴染みのシルエットを形作った。例えば、ピカチュウをよく見ると、ヘルメットやカゴ、バットに双眼鏡と、出自がバラバラな物体が並んでいる。ぐっと視点を引けば、横を向いたピカチュウが現れるのが面白い。
「絵の具の代わりに物を並べて作品を描いています。ピカチュウとリザードンは余白を多めにとって、物ひとつひとつの輪郭が出るように。コダックとコイキングは、あえてギュッと塊にして差をつけました」(杉山さん)
制作風景より。集めた廃材をバランスよく配置。ピカチュウとリザードン、コイルの作品は宮澤さんが、コイキングとコダックの作品は杉山さんが担当し、分担して作業。
「技法が決まってから、黄色い物体を集めましたね。例えばピカチュウのアートは、忠実に黄色のものを集めると全体的に暗くなってしまうので、鮮やかではっきりとした色合いを心がけて選びました。ストックした素材も使いますし、あらゆるものを素材の対象として、地道に探して。メーカーもわからないような、無名のものも好きですね」(宮澤さん)
異なる質感のアイテムを並べているのに、それぞれのポケモンの姿かたちをしっかりと捉えている。ピカチュウの赤いほっぺ、コダックのぽってりした口ばし、コイキングのまん丸な目。どのアートも、らしさがそのままうまく再現されている。ちなみに、ピカチュウの作品で最もうまくハマったと思える箇所はどこなのだろう?
「後頭部の素材として使用している、バッテリーの充電機を見つけたときは嬉しかったですね。電気を使う道具だし、『でんきタイプ』のピカチュウとリンクしていていいなと。なるべく体のラインをひとつの物体だけで表現したいので、耳のパーツにした足ひれもうまくいったと思います」(宮澤さん)
見事、ピカチュウの作品の後頭部となったバッテリー充電器。
magmaの表現は立体造形から2Dのグラフィック、さらに空間造形まで多岐におよぶ。今回のポケモンのアートで用いた手法は、結成して間もない2010年に、雑誌『装苑』の企画で編み出されたものだという。「そのときは、テーマが“コラージュ”だったので、1月に発売するから新年感を出そうと思って、縁起物の真っ赤なロブスターで試みました」(杉山さん)
「一見なんだかわからないものが、初めて図像になったときにハッとしますよね。その認識するまでの時間が面白いというか。あと、廃品やジャンク品を作品へと持ち上げられる喜びもあるんです」(宮澤さん)
コイルの作品は手法が異なり、立体物を1点ずつ撮影し、パソコン上で写真をコラージュしている。胴体はバランスボールで、中央に掛け時計を配置。左右のパーツは磁石。どこかアンバランスだけれど、ひと目でコイルとわかるビジュアルが完成した。また、キッズアイテムでは、ゲンガーやルカリオ、もう1型はポッチャマやヒコザル、ナエトルをあしらった、ゲーム画面のようなグラフィックも制作。ゲームボーイ生まれのポケモンらしく、ドット絵が見事にマッチしている。こうして作品によって巧みに技法を操るのが、magmaのクリエイティブの面白さだ。
作品を作るために、とにかく物を見る。
杉山さんと宮澤さんは、武蔵野美術大学で出会った。ふたりとも2年にわたる浪人生活を経験しており、意気投合。作品も一緒に作るようになり、2008年にmagmaを結成した。「お互い、何かをイチから作るというよりも、あるもので作るほうが好きでした。2000年代で、ちょうどコラージュが流行っていたんだと思います」(宮澤さん)
magmaの制作は基本的に手作業。そのため自動車整備工場のごとく工具が置かれている。意外と整頓もばっちり。
2009年の卒業制作では「FUTURE SHOCK」という大掛かりな作品を作り、優秀賞を受賞した。照明を落としたどこか重々しい部屋に、料理が並んだテーブルが鎮座する。席を囲む顔や巨大な口、かたわらには給仕をする男のからくり人形。それぞれが動き、料理を咀嚼する音が響き、おごそかで奇妙な世界がシュールに展開される。展示を撮影し、映像作品としてYouTubeにアップロードしたところ、思いがけずミュージシャンである木村カエラさんのMV『WONDER Volt』の美術を手掛けることになった。これを機に、立体を軸としたmagmaならではのクリエイティビティが、映像や広告などで求められるようになる。運命を切り開いた「FUTURE SHOCK」だが、高く評価したのは大学時代の恩師、小竹信節さんだった。劇作家、寺山修司主宰の舞台『天井桟敷』の美術を手掛けた舞台美術家であり、自身も立体作品を作る作家である。
「小竹先生は滅多に生徒を褒める方ではなかったのですが、僕たちが優秀賞を獲ったときに言葉をいただいたんです。『自分が若い頃のカルチャーは、靴の木型や楽器のような、アンティークの硬質な素材が多かった。でも彼らは、プラスチックとかぬいぐるみのような、工業製品を素材として選んでいる。時代が変わってきた』って。僕たちが廃材を使うのは、きっと先生の教えなんです。あらゆるものを対象に素材を探すことで、より多くの物を見ないといけないですから」(杉山さん)
作家として時代と向き合うために、物を見て学べと小竹さんは言いたかったのかもしれない。その背中を追いかけるように、magmaは廃材や中古の掘り出し物を探し求めた。一方でフィギュアなどのアイテムを手に取るのは、そこに自分たちの“好き”が詰まっているからだ。「高校時代に裏原(原宿の路地裏で生まれたファッション)が流行って、とても影響を受けたんです。洋服屋さんがフィギュアを作ることがポップでしたし、棚に置いておくだけでおしゃれだった。学生時代からどういう人たちと付き合って、何を見て、何を好きになったかって、すごく大事なことですし、それは育ちだから変えられない。本当に好きなものと向き合っている人を見ると心地いいし、自分もそうありたいと思うので、とっておきの収集した物を思う存分使っていきたいんです」(宮澤さん)
活動を始めた頃から作っているキーホルダー。異素材のパーツを組み合わせて手作業で制作している。
「物を毎日見ていると、この時代はこういうものが流行ったんだろうなとか、物作りに潤沢な予算があった時代だったんだろうなとか、この時代は作りが粗いなとか、製造された頃の雰囲気がわかってくるんです。そういう、先人たちの残した物を使わせてもらって、僕たちは作っていく。それはリサイクルとか簡単なことではないんです。昔にあったものをしっかり越えていかないといけないと思いますね」(杉山さん)
PROFILE
magma|杉山純(右)と宮澤謙一(左)によるアーティストユニット。廃材や樹脂、電動器具などを組み合わせ創りだす独自の世界観で、作品制作にとどまらず家具やプロダクト、空間演出ディレクション・制作まで幅広く手掛ける。
©2022 Pokémon.
©1995-2022 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
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