1971年誕生の世界初のカップ麺、カップヌードル。世界累計販売数は450億食を超える。奇抜なプロモーション等を展開するヤンチャさと、定番を守り続ける真面目さを持つ絶対王者。その稀有な軌跡について。
沖縄の返還が決まり、ジョン・レノンが『イマジン』を歌い、銀座にマクドナルド1号店が誕生した1971年。世界初のカップ麺、カップヌードルが誕生した。9月18日、東京・新宿の伊勢丹百貨店を皮切りに本格的に販売を開始。11月から銀座の歩行者天国で試食販売を行うと、若い世代を中心に回を重ねるごとに人気を呼び、多い日には1日2万食を売りつくした。銀座の街は、歩きながらカップヌードルをすする若者で溢れかえったのだ。開発したのは、もちろん創業者の安藤百福。当時61歳。その経緯を、マーケティング部でカップヌードルのブランドマネージャーを務める白澤勉さんが話してくれた。
「安藤が市場視察のためアメリカを訪れた際のことです。現地スーパーの担当者にチキンラーメンを試食してもらおうとしたところ、彼らはその場で麺を小さく割って紙コップに入れ、お湯を注いで、フォークで食べ始めたそうです。『欧米人は箸とどんぶりで食事をしない』という当たり前の事実に気づいた安藤は、チキンラーメンを世界食にするカギは、食習慣の違いにあると考えました。そして、麺をカップに入れてフォークで食べる新製品の開発に着手したのです」
理想の“片手で持てる容器”を作るべく、安藤は様々な素材と形状を試した。熱々のお湯を注いでも手で持てるよう、断熱性のある発泡スチロールを選択(その後2008年から紙容器に変更)。既存品ではうまくいかず、アメリカの技術を取り入れ自社開発した。容器の形は、プロトタイプをたくさん作った末、紙コップを大きくしたような形状に決定。苦心して作った容器に麺がうまく収まらない局面もあったが、麺を伏せて上からカップを被せ反転させる「逆転の発想」でクリア。世界初のカップ麺が完成した。
味も、日本人の口に馴染む醤油味……と思いきや、「醤油も入っていますが、チキンとポークのエキスがベースで、どちらかというと西洋的。具材も、エビにふわふわの卵、ダイス状の肉ですから、いわゆる日本的なラーメンとは別物なんです」
そう言われてみれば、定番のカップヌードルには醤油味なんて一切書いていないし、一般的な醤油ラーメンの味わいとはまったく違う。長年食べてきたはずなのに、あらためて意識するとなんとも不思議な感覚だ。
「シーフードも、よく考えたら何味だろうと思いませんか? 味のベースはとんこつなんですが、何かの味をコピーするのではなく、オリジナルの味を作ったことが、独自のポジションを築きあげることができた理由だと思っています」
発売開始から49年を経て、日清食品が世に送り出したカップヌードルは100種類をゆうに超えるという。今でも年間約10商品の新しい味が生まれていて、昨年発売した「味噌」はスマッシュヒットを飛ばしたらしい。商品開発はマーケティング部を起点に、味やコスト、プロモーションまでを考えて組み立てている。
「カップヌードル45周年の際、お客さまから親しみを持って“謎肉”(なぞにく)と呼ばれている人気具材“味付豚ミンチ”をたっぷり入れた商品に、自ら“カップヌードルビッグ 謎肉祭”と名づけ発売したところ、大きな話題となり大ヒットしました」
2019年末からは環境に配慮し、植物由来原料の比率を80%以上に高めたバイオマスECOカップへの移行もスタート。そうやって時代の空気を読む一方で、思いがけない味を出し、あっと驚く広告展開で世間を惹きつける。「常識っていうやつと おさらばしたときに 自由という名の 切符が手に入る」とは、阿久悠が書いた1973年のCMの歌詞。パイオニアでありながらトップを走り続ける「カップヌードル」の哲学は、発売当初からずっと変わらない。
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PROFILE
日清食品|大阪で安藤百福が創業。1958年には世界初のインスタントラーメン、チキンラーメンを発売。出前一丁、日清のどん兵衛、日清焼そばU.F.O.、日清ラ王などを製造・販売する即席麺のパイオニア。