ファイナルファンタジー35周年
2022.06.16

制作陣が語る、ファイナルファンタジー35周年PART1

ファイナルファンタジー35周年

ロールプレイングゲームの金字塔『ファイナルファンタジー』が35周年を迎える。2D時代のドット絵から3DCGへ。家庭用ゲーム機のみならず、モバイルやオンラインへも裾野を広げ、時を超えて進化を続ける『ファイナルファンタジー』の壮大な物語を、現在の制作陣が熱く語る。2週にわたりお届けするインタビューの第一弾は、渋谷員子さん、北瀬佳範さん、そしてスペシャルコメントを寄せてくれた野村哲也さんだ。

初期シリーズを奏でるドット絵の物語。

渋谷員子

絵を描くのが好きで、小学生の頃から絵の仕事をすると決めていたんですが、当時はインターネットもないし、進路の調べ方もよくわからなくて、高校卒業後はひとまずアニメーションの専門学校に行ったんです。でもアニメーターは違うかも……と先生に相談したら「ゲーム会社から求人が来てるけどどう?」って。ゲームをしたことはなかったけど、絵が描けてお勤めできるならいいかなと思って面接に行きました。それが電友社スクウェア(現スクウェア・エニックス)でした。面接をしてくれた坂口(博信)さん(*1)も、当時は大学生のアルバイト。スタッフは20代ばかりの若い会社でした。

入社して初めて描いたドット絵は『キングスナイト』の街のマップ。学生時代に描いていた絵とまったく違うから戸惑いました。アトリエでデッサンの勉強をしていたのに、16×16のマス目に絵を描くことになったんですよ?(笑) しかも3色しか使えない。どうしようと思いました。でも私なりに考えて、できる範囲でやるしかないかなって。ラフは描かずにいきなりドット打って試行錯誤していきました。私の世代はファミコン発売直後にゲーム業界に入った最初の代で、相談する先輩もいませんでしたし、自分でやり方を作っていくしかなかったんです。

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PROFILE

しぶや・かずこ|株式会社スクウェア・エニックスに所属するCGデザイナーおよびアートディレクター。『ファイナルファンタジー』シリーズではキャラクターを中心としたドット絵の制作を担当。「ドットの匠」として広く知られ、その作品の数々で多くのファンを魅了している。着用したTシャツは『FFI』のオープニング画面をプリントしたもの。ロゴは渋谷さんがドットでデザインしたオリジナルで、全作を通じてこの場面でしか見ることができない。

入社から1年ほどして、坂口さんが「『ドラゴンクエスト』の後に続くRPGを作ろう」と宣言したんですが、人が集まらなかったので(笑)、「私描きますよ」と。それで、“Aチーム”という簡素な名前の『ファイナルファンタジー』(以下『FFI』)の開発チームが生まれました。『FFI』の序盤で流れる風景は私がイチから描いたものです。坂口さんに「橋を渡ったら一枚絵を出したいんだよね」と言われたときは、キャラも背景も節約して描いているのに「そんな容量どこに!?」とちょっと抵抗したんですが。苦肉の策で手前をベタ塗りのシルエットにすることでなんとか見栄えある1枚に。その絵がまさか世界中に愛される1枚になるとは思ってもみませんでした。

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『FFI』序盤でコーネリアの北の橋を渡ると流れるオープニング画面。「ピクセルリマスター」制作時には、当時のデータが残存しないため、渋谷さんがたまたま保管していたプリントを参照しながら“目コピ”したらしい。

キャラクターのドットは記号的なんですよね。プレイ中にどのキャラかわからないといけないので、デザイン画を見ながら特徴を落とし込む。削ぎ落とす作業なので、細かいディテールは捨てて、どこを残せば成立するか考えます。反対にモンスター、特にラスボスの場合はとにかく迫力。「くらやみのくも」(『FFIII』のボスキャラ)は、天野喜孝さんのデザイン画では直立姿で、ドットで表現すると小さいシルエットになってしまうと思ったので、グッと上半身が飛び出しているアレンジを加えました。どうやってあのデザインにたどり着いたかは覚えていないんですけど(笑)。

ファイナルファンタジー35周年
ファイナルファンタジー35周年

渋谷さんが描いた『FFIII』のパッケージのためのラフ画(上)。これを参考資料として天野喜孝さんにイラスト制作を依頼し、完成したのが下のイラストパッケージだ。

近年はスマホ版の「ピクセルリマスターシリーズ」を担当しましたが、ブラウン管テレビとスマホの液晶では見え方がまるで違うんです。ブラウン管の特徴は、滲む、膨張する、潰れる。データ上のドットとテレビに映るドットは、色も形も明るさも別ものなんです。なので当時はあえて、ブラウン管の特性を最大限に生かして、描き方を工夫していました。今見ると「どうしてこんな所に?」っていう不思議なドットも、ブラウン管を通すと意味が出てくる。ブラウン管が真実で、私が描いていたのは影ですね。反対に液晶は描いたままのドットが表示されるし、色も混ざらない。発色がよすぎて、味わいを出すのが大変でした。

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当時のドットデータのプリント。フォントを作ったのも渋谷さん。

『FFI』を開発していた頃は、みんな20代で意欲も情熱も凄かった。でもその熱量があったから、今なお愛されるゲームになっているんじゃないかと思います。ブラウン管の向こう側にいる世界中の人たちに、私のドット絵で笑顔になってほしい!と思いながらドットを打ってきました。長い年月が経って、当時ゲームを遊んでいた人たちから「インスピレーションをもらいました」「『FF』がきっかけでゲーム業界に入りました」と声をかけられると、「ちゃんと届いてた!」と、すごくうれしくなりますね。

(*1)『FF』シリーズの生みの親。2001年にスクウェアを退社後、ゲーム制作会社ミストウォーカーを設立。最新作は実際のジオラマで撮影したフィールドを冒険するApple Arcadeゲーム『FANTASIAN』。

ドットから3DCGへと道を切り開いた。

北瀬佳範

大学を出てアニメーション制作会社で働いていた1年目に、発売されたばかりの『FFIII』をプレイしました。それまで、ずっと映画やアニメの演出を手掛けるクリエイターになりたいと思ってきたのですが、ゲームにもストーリー性があるなと気付いたんです。映画と同じような表現ができるメディアなのかもしれないと興味が湧いて、スクウェアに転職しました。まず『聖剣伝説』のチームに配属され、『ロマンシング・サガ』の制作を経て、1992年に『FFV』に参加することになり、イベントプランナーとしてキャラクターのお芝居を演出しました。通常ディレクターが担当するストーリー部分も分担してもらって、そこからシリーズに関わるようになりました。

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PROFILE

きたせ・よしのり|株式会社スクウェア・エニックス 第一開発事業本部長、『ファイナルファンタジー VII リメイク』プロデューサー。『FF』シリーズには『FFV』から参加。『FFVI』では初のディレクターを務め、以降、『FFVII』『FFVIII』『FFX』『FFX-2』『FFXIII』『メビウス ファイナルファンタジー』などでディレクターやプロデューサーとして制作を統括。Tシャツには思い出深い『FFVII』のさまざまなシーンが。

思い出に残っているのは、やはり『FFVII』ですね。プレイステーション初の『FF』作品で、ドットから3DCGに切り替わり、演出もストーリーも一段とリアルになった記念碑的な作品ですから。ドットで世界観を表現してきた『FF』が得意な手法を捨てるわけで、いったいどんなゲームになるのか、自分たちも見えない部分がありました。自信を持てたのはオープニングのロングショットを見たときです。エアリスのアップから始まり、カメラがぐーっと引いて、舞台であるミッドガルの全景を映し出す。街がこんなにも広いことを伝え、再びカメラはエアリスにズーム。暗転することなくプレイ画面へとシームレスに繋がっていく。坂口(博信)さん発案の、とても印象的な演出です。

世界観もガラッと変わりました。特にその頃のRPGは“剣と魔法でドラゴンを倒す”みたいな中世のヨーロッパファンタジーが定番でしたので、変えてやろうと。それで「敵が企業の社長」という発想が生まれたんです。音楽も、グラフィックが3Dになったことを受けた作曲家の植松伸夫さん(*1)が、今までのゲーム音楽の使い方とは違う、シーンに沿ったドラマチックな展開を意識した曲を作ってくれて、非常に心強かったです。

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キャラクターデザインも、イラストをドットに落とし込むスタイルから、あらかじめ3DCGを想定してデザインする方法に変わりました。担当した野村(哲也)はゲームデザイナーとして入社したので、ゲーム上に実装された状態を描くことができた。「こういう武器を持たせたい」という発案も多く、『FFVIII』の主人公スコールが持つガンブレードは彼のアイデアです。剣の形ですが、野村はリボルバーのように敵を撃つアクションを想定していたので、トリガーを引くボタンを割り当てました。デザインから生まれた武器ですね。

そういう自由な発想が採用されるのは『FF』ならではだと思います。シリーズ作品ではありますが、過去作のお約束を守らなければいけない縛りはほとんどないんです。タイトルごとに各分野のトップディレクターがいるので、彼らの作家性に委ねています。バトルで例えるなら、『FFIV』の「ATB」(*2)や『FFXII』の「ガンビット」(*3)には、ディレクターの伊藤(裕之)が持つバトルデザインの哲学やビジョンが反映されている。最低限守りたいのは戦略性を持たせることくらいで、敵を叩いて終わりという爽快感ではなく、魔法や召喚獣を駆使して倒すような、プレイヤーが戦略を練る部分は大事にしています。

今は『FF』全体のブランドイメージの管理も任されているので、過去作がどう表に出るかは気にしますが、現在進行中の作品はコントロールするものじゃないと思っています。前に担当プロデューサーから質問が来たんですよ。「ファイア、ファイラ、ファイガ、ファイジャのさらに上の魔法を作ってもいいでしょうか?」って。いや、そういうのコントロールしてないから!って(笑)。作りたいと思った人が作ればいいんです。最前線にいるスタッフはルールフリー。「『FF』はこうじゃないといけない」なんて思わず、どんどん新しい領域を広げて、道を切り開いていってほしいと思います。それがまた、新たな価値を生み出すので。

ファイナルファンタジー35周年

1997年1月に発売され大ヒットを記録した『FFVII』。シリーズ初の3Dポリゴンのグラフィック、星をめぐるエネルギーを商業利用する巨大企業と星を守るために戦う対抗組織という斬新な世界観が、多くのゲームファンを魅了した。現在、北瀬さんが鋭意手掛けているのが『ファイナルファンタジーVII』のリメイクプロジェクト。グラフィックを刷新し、原作に忠実に、新規エピソードも盛り込みアップデート。旧作ファンも新規ファンも楽しめる内容になっている。ボリュームが大きいため複数作で展開を予定しており、2020年に第1作がリリースされた。

(*1)1986年スクウェア入社。『FF』シリーズ、『魔界塔士Sa・Ga』『クロノ・トリガー』などのBGMを担当。2004年退社後SMILEPLEASEを設立。近年担当した『FFVII リメイク』は日本ゴールドディスク大賞・サウンドトラック・アルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞。ゲーム音楽作曲活動以外にもオーケストラによる世界ツアーを製作総指揮しグローバルに活躍の場を広げている。

(*2)アクティブタイムバトル。敵、味方が交互にコマンドを入力するターン制ではなく、時間経過とともにキャラクターの行動順が回ってきてコマンド入力が可能になる。『FFIV』で初登場。

(*3)キャラクターごとに、「目の前の敵」などの対象と「たたかう」などの行動の項目(ガンビット)を設定することで、自動的にバトルを進めてくれるオートバトルシステム。手動操作との併用も可能。

野村哲也さんからもFF35周年へのコメントが!

シリーズを通じて、キャラクターを創造する際に心がけていることは?

ある意味、あまり今の流行りには寄り過ぎないようにとは思っています。そういった唯一無二の独自性と、容姿以外の、設定としての魅力のあるキャラクターをと考えています。その設定も、どこか一部分でもプレイヤーの共感が得られることを目標にしています。

野村さんにとって『FF』の魅力とはどういったところでしょうか?

35周年のうち、自分はちょうど30年程FFに関わってきました。自分のこれまでの人生の半分以上がFFと共にあったと言えます。30年も共にしていれば、あって当たり前、自分にとってはもはや空気の様な存在です。そんなに長く関われている理由は、1作ごとに世界観や物語、登場人物、システム、すべてリセットして新規の作品として作られるところではないかと思います。それぞれのナンバーが独自の個性を持っていて、気持ちを新たに関われる、遊ぶ側としても毎作新鮮で魅力があるのではと思っています。

FFIからFFXVIまでTシャツになりました。いかがでしょうか? 気になる1枚は?

今回はTシャツのコラボ、しかも全ナンバリング網羅という大胆な企画で自分が監修担当するナンバーの数もなかなかな数になりました。1枚1枚監修していく中で、開発当時が呼び起こされる感覚でした。見てもらえばわかるのですが全体の統一感はなく、1枚1枚が1作1作の個性同様のデザインになっています。前述した通り、まさにFFらしい1作ごとに刷新されるイメージのまま、シリーズでありながらライバルでもある感覚です。個人的には特にVIのTシャツが感慨深かったです。このオープニングに至るイメージを後輩と自宅で朝まで語り合って企画書にまとめたことを思い起こされ、懐かしい気持ちになりました。

FF35th_vol.1

『FFV』神竜

PROFILE

野村哲也 のむら・てつや|1991年に入社後、『FFV』からモンスターやキャラクターなどのデザインを手がけ、『FFVII』以降も多くの『FF』シリーズでキャラクターデザインを担当するほか、『FFVII REMAKE』や『KINGDOM HEARTS』シリーズではディレクターを務める。他『すばらしきこのせかい』などにも携わる。

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