ミッキー・マウスをはじめ、ディズニーのクラシックなキャラクターたちをアメリカ・ロサンゼルスのアーティスト、スティーブン・ハリントンがポップなカリフォルニアスタイルで描き下ろし、ハッピーなコレクション「ミッキー & フレンズ アート バイ スティーブン・ハリントンUT」が誕生した。
アイコニックなキャラクターたちがキャンバスを賑わす、独自のスタイルで表現を続けるスティーブン・ハリントン。そのカラーパレットも重要なビジュアル言語の一つであることは、彼の作品を見た人なら誰でも強く感じるはず。ロサンゼルスに生まれ育ったアーティストがインスピレーションとするものは?今回のディズニーコレクションについての彼の話を聞くため、ダウンタウン近くのスタジオを訪ねた。
パステルカラーは太陽の強いロサンゼルスの街が持つ日褪せした色に触発されて。
時間の経過を語る色
―ロサンゼルスという街での暮らしが、作品に影響を与えていますか?
スティーブン・ハリントン(以下SH): 一番には気候がありますね。ロサンゼルスは外に出れば快晴、という天気が殆ど。
ここで生まれ育った僕には、街の色との独自の関係性があると思います。壁画、建物、車など、どれも最初は明るい色ですが、時間が経つとともに色褪せてきて、そこに新しい色の個性が育まれます。僕はそんな過渡の色がとても好きなんです。赤とも言えないし、オレンジとも言えないような、その二色の間の色。言うなればパステルカラーの色合いと戯れるのがすごく好きですね。色の鮮やかさを歓迎し、ロサンゼルスという僕を取り巻く街が持つ明るさが、必然的に制作にも影響を与えていると思います。
色は全てカスタム。定番色もあれば、時とともに新しくライブラリーに加わるものも。
―グラフィカルな線、そして個性的なキャラクター。遊び心に満ちた独自のスタイルはどのように育まれてきたのでしょう?
SH:もともとグラフィックデザイナーとして活動していた頃、コミックやキャラクターの世界には親しみやすい図解法(アイコノグラフィー)があることに気づいたんです。そういったイメージには、多彩なアイディアの対話に即座に人々を引き込む力がある、と。アーティストとしての制作でも自然とそのアイコノグラフィーの力を使って、遊びのあるアイディアや、緩いテーマを表現したり、時には真面目な題材を盛り込んだりしてきました。例えば僕が描く炎があるんですが、これは年々酷くなるアメリカ西部の山火事についてでもあって。でも詩のようにいい意味で曖昧なモチーフとして、絵の中に存在していてくれればいいなと思います。
「シルクスクリーンでプリントされたグラフィックのファンだった」というスティーブンの描く線は丁寧で確か。
ヤシの木が見えなくなっていた
―よく出てくるモチーフの一つに、ヤシの木がありますね。
SH:ヤシの木はもう何年も魅了され続けているアイコンです。ロサンゼルス特有の風景で、街の中のあちこちにある。もう何年も前にロサンゼルスを訪ねてきた友人が、飛行機から降りた瞬間にヤシの木を指しました。おかしなもので、ここで生まれ育った僕には、ある意味ヤシの木は日常に馴染み過ぎていて、見えなくなってしまっていたんです。その気づきはとても興味深いものでした。ヤシの木がこの場所特有のものなんだ、という認識が初めて芽生えました。自分を取り巻くものをちゃんと体験し、目を開いて見なくてはならない、と思いました。
身の回りの環境や体験が、抽象や具象的表現で作品に取り込まれる。
写真の記憶の中のディズニー
―ディズニーにまつわる、最初の記憶は?
SH:一番最初の記憶はディズニーランドに行った時の家族写真の形で残っています。まだどこに連れて行かれるのかも把握できないくらい幼い頃から連れて行ってもらっていて、何年も経ってから、あ、ディズニーランドだ!と。それは南カリフォルニア精神、のようなものではないでしょうか。ディズニーランドってああいうところ、ディズニーの世界ってこんな感じ、という認識は思い出を振り返りながら出てきたものだと思います。それからテレビで見たディズニーのテレビアニメもありますね。平日の早朝、学校に行く前にテレビで『Merrie Melodies』が流れていて。今思い返して見ると動くアートのような印象を受ける、不可思議な番組シリーズでした。
ミッキーたちが実際絵筆を持って絵を描くなど、創作の楽しさをデザインに込めた。
そんなディズニーのキャラクターを僕の世界に描き込めるなんて、信じられない思いでした。ディズニーは僕にとって、豊かなアートの世界です。その世界観を引用し、キャラクターやモチーフを僕の世界の中で実験的に動かせるというこのプロジェクトに本当に感動しましたね。
―スティーブンにとって重要な制作道具は?
SH: ごくシンプルに、ペンと鉛筆が僕にとっての大事な道具です。子供の頃に鉛筆かクレヨンを渡されて以来、今でもそれらに囲まれています。小学校、中学校、高校、そして大学を経てもまだ絵を描いているという。
今回のプロジェクトを通して、実際のデザインの中で表現する行為を探求することができたら、と思いました。コレクションを見ると、登場するキャラクターがキャンバスや筆や絵の具をいじっているのも、そんな理由からです。制作のプロセスにスポットライトを当て、創造性を讃える。ユニクロが好きな人たちも、多くがアート好きで、いろんな表現を試みているはず。それならその発想自体をデザインに落とし込んではどうか、と考えたんです。
Tシャツとコミュニケーション
―その先に着る人がいる、Tシャツの魅力ってなんでしょう?
SH: Tシャツってとても身近なものだし、デザインを充てがうにもいいフォーマットだと思います。大きくて、幅があって、視覚的に遊びながら最終的なデザインに至るまでの選択肢が沢山ある。完成したTシャツは人々の手に渡り、世の中で独自の人生を歩んで行きます。街を歩く誰かに着られたり、世界のいろんな場所へTシャツは出向きます。他の人がそのTシャツに落とし込まれた作品を見れば、そこからグラフィックやそのアートとその人との関係性が新たにまた始まるわけです。洋服を通してアートが共有され得るとき、それはとても楽しいプロジェクトとなります。言葉を交わさなくても、イメージの交換がそのTシャツを着ているだけで行われていたりする。Tシャツというシンプルな媒体(ミディアム)を通して起きるその現象って、すごく強烈なものだと思います。それ自体がカルチャーを体現することも。これ、僕の好きなアーティストなんだ、という場合もあるだろうし、こんな雰囲気が好きなんだよね、というだけかもしれない。とにかく他の人がそれを見て反応したり会話が始まったりするのがTシャツの面白味ですね。
―スティーブンの1日はどんな感じ?(典型的な1日はどんな感じ?)
SH: まず朝起きて、ジョギングしたり自転車に乗ったり、脳と体を活性するために何かしらの運動から始まります。朝家から外に出る瞬間が好きで、体を動かしながらマインドをあちこちに思い巡らせるこの時間を大事にしています。そのあとはスタジオに行って、メール、電話、そういったコミュニケーション的用事を最初に片付けてしまう。そうすれば、ペイントやドローイングといった制作ゾーンに没頭できるので。スタジオに来て、キャンバスや紙と向き合い、取り組んでいるアートの中にのめり込む体験が大好きですね。
まずは鉛筆と紙から始まる、というスティーブンのスケッチ類。
―アートを作る際、最も重要なことは何ですか?
SH:制作で一番重要なのは、その始まりじゃないかな、と思います。白い紙の前に向かって、鉛筆を持つ。まだ具体的な構図も何もない段階ですがまずは頭の中にあるものを紙に描き出す。一番いいアイディアが出てくるのがこの真っ白な紙と向き合った時な気がしていて、見てくれが悪くても、どんなものでも紙にひたすら描き出すんです。この始まりの部分にできるだけ時間を割けるように努めています。
―これから挑戦してみたいことは?
SH:今、彫刻制作に興味を持っていて、絵の世界から立体的な世界へ制作を引き出すことに挑戦しています。キャンバスから引用して、彫刻にし、様々なスケールの物体の周りを歩き回れるという体験が、楽しいですね。制作においては、そっち方面をもっと探求していきたいです。
スタジオの一角。キャンバスの中のキャラクターたちが立体となった、これまでのプロジェクトが並び、楽しい。
PROFILE
スティーブン・ハリントン
1979年アメリカ・ロサンゼルス生まれ。ファインアートの制作から、多くの企業とのコラボレーションまで、さまざまな作品を発表している今最も注目のアーティスト兼デザイナー。アメリカをはじめ、ヨーロッパ、アジアに渡る世界中の各都市で展覧会を開催。すべてオリジナルに配合された特注色のペイントを用いて、ロサンゼルスの陽気な毎日や神秘的な雰囲気を描く。
©Disney
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