ユニクロのTシャツ部門が設立して今年で20周年を迎える。2007年に、UTというネーミングとロゴを考案し、ブランドの在り方を定めたのがクリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和さんだ。今年はアーティストの河村康輔さんがクリエイティブ・ディレクターに就任し、これからさらに面白いコラボレーションが生まれていくであろう予感でいっぱい。また、20周年を記念し、過去の話題のコラボを復刻させる「アーカイブプロジェクト」も始動していく。2人のキーパーソンに、UTの未来への思いを語ってもらった。
目指すは、“カルチャーのカタログ”としてのTシャツ。
今年、UTのクリエイティブ・ディレクターに就任したコラージュ・アーティストの河村康輔さん。これまでもコラボレーターとしてUTにさまざまな作品を提供している河村さんだが、UTの存在を意識したのは、UT STORE HARAJUKU.ができた2007年だったという。「ボトルパッケージに入れて売るというスタイルに、衝撃を受けたのをよく覚えています。あと、ラインナップの充実ぶりにも驚きました。何人もの有名アーティストのグラフィックを集めたTシャツのブランドは、珍しかったですから。しかも、価格が安い。当時はお金もなかったので、結構買っていましたね。なかでも、横尾忠則さんとのコラボTはよく着ていました」
2007年に誕生したUT STORE HARAJUKU.では、常時500種類以上のTシャツが駄菓子のプラスチックケースをベースに作られたボトルに入って売られていた。
その後、コラボレーターとして初めてUTに関係したのは、『ドラゴンボール』のコラージュ作品を提供した2019年のこと。「『ドラゴンボール』世代だったので、感慨深かったですね」と語る河村さんは、「ただ」と言い添える。
「ユニクロは大企業なので、注文や指示が多いのかなと思っていたんですよ。でも、蓋を開けてみたら、とても自由にやらせてくれて。その後もいろいろなコラージュを作らせてもらいましたが、修正の依頼があったことはほとんどありません。アンディ・ウォーホルとコラボしたときなんて、『もし使いたい作品があれば許可を取るので教えてください』とまで言ってくれました。そういうアーティストファーストな姿勢は、僕自身が内側で関わるようになってからも絶対に維持したいですね。いい作品を提供してもらうためには、それがいちばん大事なことだと思うので」
そんな河村さんがクリエイティブ・ディレクターとして意識したいのはバランスだと言う。「すでに有名でも素晴らしいものはたくさんあるので、そういうものとは積極的にコラボレーションしていきたいと思っています。だけど、そっち一辺倒になるのは違うと思っていて。僕がつながりのある、まだ有名じゃないアーティストたちにもどんどん声をかけたいです。かっこいい作品を手掛けているけど、まだ大きなチャンスをつかめてない人はたくさんいるので。そういう人をフックアップして、次世代を担うアーティストのプラットフォームにもしていけたらなと。その有名無名のバランスは大事にしたいですね」
また、河村さんは着る人にとって、UTが“カルチャーのカタログ”になってほしいとも語る。「UTの魅力は、どんな人でもアクセスできて、価格帯がリーズナブルなところ。しかも、音楽、アート、マンガ、アニメなどなど、さまざまなジャンルのカルチャーを乗せたTシャツを大量に作ります。若い人が、そうしたTシャツをとおして、まだ知らないものに触れるための入り口というか、そこからどんどん知識を広げていける “カルチャーのカタログ”になれたらベストだなと思っています。知らないバンドのTシャツを着ているのはダサいという意見がありますが、そんなことは気にせず、知らなくてもいいからかっこいいと思ったものは積極的に着て、興味の幅を広げてほしいですね。と同時にTシャツは、自分のアイデンティティを前面に出せるキャンバスだと思うんですよ。いろんな人がメッセージボードとして着られるようなものも作れればと思っています」
河村さんにとって、クリエイティブ・ディレクターとしての最初の仕事が、UT 20周年記念のロゴだ。佐藤可士和さんが手掛けたUTのロゴをコラージュしたこちらは、2人の初コラボレーションでもある。 「ロゴに関しては、これまでもいじってない部分だったので緊張しましたね。だけど、可士和さんから『ガンガンいじって!』と言ってもらえたので、ドキドキしながらも思いっきりやらせてもらいました」
PROFILE
かわむら・こうすけ|1979年、広島県生まれ。シュレッダーを用いたコラージュ・アーティストとして、国内外で展覧会を開催している。代表的な仕事に、『大友克洋GENGA展』メインビジュアルなど。作品集に『2ND』『MIX-UP』がある。
UTという言葉を考え、ロゴを作り、UTを見守り続けてくれる佐藤可士和さん。
UTの歴史をひもとく上で、日本を代表するクリエイティブ・ディレクター、佐藤可士和さんの存在は避けて通れない。なぜなら、佐藤さんこそがUTの生みの親と言っても過言ではないからだ。話は佐藤さんがユニクロソーホー ニューヨーク店のアートディレクションを手がけた2006年に遡る。
「ソーホーNY店がオープンする際、ブランディングの目玉としてJAPANESE POP CULTURE PROJECTという企画をやったんですね。これはユニクロのTシャツに日本を代表するさまざまな分野のクリエイターの作品をプリントして販売するという企画だったのですが、ニューヨーカーにとても好評で非常にインパクトがありました。その流れから柳井社長に『もっと本格的にTシャツをブランド化したい』と、ご依頼いただきました。多くのマスブランドにとって、Tシャツというのは数あるアイテムのひとつという位置づけ。それを世界に向けて大々的にブランド化するというのは、とても面白いなと思いディレクションを始めました」
佐藤さんがまず着手したのが、呼び名をどうするかだった。「“ユニクロのTシャツ”というイメージを記号化するためにUTという言葉を考え、ロゴを作るところから始めました」。同時に考えなければならなかったのが、どう売っていくか。佐藤さんの脳裏に浮かんだのは、UTのショップを作ることだった。それもTシャツと親和性の高いストリートファッションの聖地である原宿に。かくして2007年に誕生したのが、“未来のTシャツコンビニエンスストア”をコンセプトとするUT STORE HARAJUKU.。ボトルパッケージに入ったTシャツを買うという新しい購買体験を提案したこのショップは、またたく間に東京の観光スポットとなった。「ですが」と佐藤さんは言葉を継ぐ。
2007年当時のUT STORE HARAJUKU.の入り口。
「当初から、ショップとは別にウェブでの販売にも力を入れたいと考えていました。あらゆるタイプのTシャツがいつでも買える、Tシャツのロングテールビジネスのようなイメージですね。そこには、これまで発表されたものも、アーカイブとして常にストックされていたらなと思っていて。今回、20周年アニバーサリー企画として、過去のアーカイブが復刻されますが、当初の構想がようやく実を結びましたね」
そんな佐藤さんにとって、とりわけ思い出深いのが、取材時に着用していたアンディ・ウォーホルのTシャツだという。「2021年に国立新美術館で『佐藤可士和展』を開催した際、購買体験までを含めたUTショップを作品として展示しました。その際、『佐藤可士和展』オリジナルの27枚のTシャツをデザインしたのですが、これはその中の1枚です。国立の美術館においてUT STOREの最新版をかたちにできたので、そこで販売したすべてのTシャツが思い出深いですね」
20周年という記念すべき今年、UTには新しい仲間が加わった。クリエイティブ・ディレクターに就任した、アーティストの河村康輔さんだ。佐藤さんが河村さんに期待することとは?
「UTはユニクロのブランディングにおいて、とても重要な位置を占めています。なぜなら、ユニクロが作っているものは基本的にLifeWearであり、ベーシックなアイテムです。一方、UTは、ベースとなるのはTシャツというベーシックなアイテムですが、その上に乗せるコンテンツに関しては、思い切り尖らせることもできる。その意味で、UTはユニクロというブランドのエッジーな部分を表現しているのです。河村さんには、まさにそのUTで展開するコンテンツのディレクションをお任せするわけですが、河村さんならではのクリエイティビティを生かしつつ、これまで以上にエッジーなUT像を作っていただきたいですね」
PROFILE
さとう・かしわ|1965年、東京都生まれ。博報堂を経て2000年独立。企業のブランド戦略のプロデュースから空間デザインまで幅広く活躍。2021年より京都大学大学院特命教授を務め、クリエイティブ人材の育成にも尽力している。
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