これまで数えきれないほどの魅力的なグラフィックが、UTのアイテムを彩ってきた。20年を迎えた今年、その一部の柄を復刻するアーカイブプロジェクトが始動した。時代を超えて世界中の人々に愛されるそのモチーフたちには、どんな思いが宿っているのだろう? クリエイターや関係者の言葉を通して迫る。今回取り上げるのは、2006年のUTに登場したマンガ『ブラック・ジャック』。「マンガの神様」こと手塚治虫さんの代表作だ。手塚さんのマネージャーを16年間務めた、手塚プロダクションの代表取締役である松谷孝征さんに話を聞いた。
子どもに何かを伝えるのに、マンガほど素晴らしい媒体はない。
Q.今回のTシャツには、「ブラック・ジャック」のキャラクターが使用されています。手塚さんは「ブラック・ジャック」を通して、どのようなメッセージを伝えたかったのでしょうか?
A.「医者というのは何も人間の命をひき伸ばすのが仕事じゃない。その患者の、あと残された命、限られた時間を、どう有効に使ってもらえるかっていうことが大事なんじゃないか。それが医者の仕事というものじゃないかということを描きたかったんです」。手塚は「ブラック・ジャック」についてそうコメントを残しています。つまり、命の尊さや大切さを訴えたかったのではと思います。
『ブラック・ジャック』の名シーンを集めたコマ絵。
Q.手塚さんが「ブラック・ジャック」のキャラクターを造形する上でこだわっていたことは?
A.「ブラック・ジャック」について手塚はこう語っています。「この医者くずれの一匹オオカミは髪の毛の半分が白く、半分が黒い。顔に歴然とツギハギがある上に、いつも暑苦しそうな黒いコートを羽織っているのだ。トレードマークがゴテゴテ多いのは欠点だが、一見陰のありそうな変人という設定には、このくらいのドギツさは必要だろう」と。と同時に、子ども向けマンガのキャラクターには、かわいらしさが大切だと考えていました。そして、かわいらしさを求めるためには、納得ゆくまで何十枚も描いては破り捨てたといいます。そんな中、「ブラック・ジャック」のピノコは会心の出来だと感じていたそうです。絵だけでなく「アッチョンブリケ」というせりふまわしにもかわいらしさは表現されています。ストーリーはもちろんのこと、魅力的なキャラクターは、より多くの読者が作品に共感できるための大きな要素だと考えていましたし、なにより読者に喜んでもらえるキャラクターを作ることにこだわっていました。
主人公、ブラック・ジャック。
かわいらしい名脇役、ピノコ。
Q.手塚さんにとってマンガとは何だったと思いますか?
A.亡くなる2年ほど前、子ども週刊誌の仕事がまったくなかった時期がありました(大人の雑誌や月刊誌は何本か描いていましたが)。そのときこう言われたんです。「松谷氏、チャンピオンでもマガジンでも、なんでもいいですから決めてください」と。1928年生まれの手塚は、戦争経験者で、空襲にも遭っているようです。ですから手塚は子どもたちにこそ、自分のマンガを読んでほしかった(手塚は子どもたちのことを“未来人”と呼んでいました)。そして、いかに戦争が悲惨で平和がありがたいかを、人間だけでなく動物も植物も含む地球上に生きるあらゆる命の大切さを、どうしても伝えたかったんだと思います。子どもたちに何かを伝えるのに、マンガほど素晴らしい媒体はないと考えていたんだと思います。
Q.もし手塚さんが存命だったらどんな作品を描いていたと思いますか?
A.さあ、わかりません。とんでもない作品を描いているのではないですか? 現在、コロナ騒動や戦争が起きています。じっとしていられなくて、ペンを走らせていると思います。
PROFILE
まつたに・たかゆき|1944年、横浜市生まれ。株式会社手塚プロダクション代表取締役社長。大人の週刊誌「漫画サンデー」で手塚治虫の担当編集者になったことが縁で、1973年手塚プロダクションに入社。手塚治虫のマネージャーになる。以後、手塚治虫が亡くなるまでの16年間マネージャー役を務めた。
復刻Tシャツからひもとく、“本物”の魅力
【20th UT ARCHIVE vol.1 森山大道】
【20th UT ARCHIVE vol.2 天才バカボン】
【20th UT ARCHIVE vol.3 ソニック・ザ・ヘッジホッグ】
【20th UT ARCHIVE vol.4 パックマン】
【20th UT ARCHIVE vol.5 ブラック・ジャック】
©Tezuka Productions
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