これまで数えきれないほどの魅力的なグラフィックが、UTのアイテムを彩ってきた。20周年を迎えた今年、その一部を復刻するアーカイブプロジェクトが始動する。時代を超えて人々に愛されるそのモチーフたちには、いかなる思いが宿っているのか?クリエイターや関係者の言葉を通して迫る。今回取り上げるのは、2008年のUTに登場した『まことちゃん』。その作者であり、今年27年ぶりの新作『ZOKU-SHINGO』を発表したことでも話題の楳図かずおさんに、ホラー漫画にかける思いを聞いた。
ホラー漫画は未来を予測する。
Q.今回のTシャツでは、『まことちゃん』の決めポーズである「グワシ!」が使用されています。このキャラクターが誕生した経緯は?
A.『アゲイン』というおじいさんが若返る話を描いたときに、ついでに孫もいた方がいいな、とまったく深く考えずに描いてしまいました。そうやって生まれたまことちゃんがすごい人気になったので、後に単発の読み切りも描きました。『漂流教室』の連載中でしたね。それも、もう桁外れの人気があったんです。
まことちゃんが初登場した作品『アゲイン』(小学館)。
Q.「グワシ!」の特徴的なポーズはどのように生まれたのですか?
A.当時はピースサインが流行ってましたけど、それとは違うものをやりたいなと思ったんですね。しかも「やりずらいポーズ」がいいなと思って。最初に決めたポーズは、「やってはいけないポーズ」だとカリフォルニアから手紙が来まして(笑)。それで、読者が応募してきたものを取り入れたんです。
お馴染みのグワシポーズが初登場したシーン。
Q.キャラクターを造形するときにこだわってきたことは?
A.あんまりそういうことを考えずに、思いついたらすぐ描きます。特にお化けなんかは考えてないです。手を動かしてそれを見て描くとか、やりながら考えそのまま描いてしまう。深く調べたり研究したりというのはまったくないです。感覚的。
今回、「楳図かずお大美術展」で発表した『ZOKU-SHINGO』も同じ。「何を描きます?」と聞かれ、僕は「ああ、それだったらこう描きます」と。返事と考えは同時でした。
27年ぶりの新作『ZOKU-SHINGO 小さなロボットシンゴ美術館』。1980年代に描かれた『わたしは真悟』の続編となる、101点の連作絵画。
Q. 自身が手掛けられたキャラクターの中で、お気に入りを教えてください。
A.まことちゃんも好きだけど、他にも、めちゃくちゃ不細工な「どど彦」という女の子が好きです。キレイなのもいいけど、不細工なものには芸術性とインパクトがありますね。
楳図先生のお気に入りキャラクター「どど彦」。
Q.『まことちゃん』を通して、伝えたかったメッセージは?
A.こどもの「遊び」を全部描きたいなと思っていました。または「こどもとは?」という学問的なところですね。
Q.今年、27年ぶりに新作『ZOKU-SHINGO』を発表されましたが、何がふたたび創作へと向かわせたのですか?
A.これは運や巡り合わせでしかないと思う。「展覧会やります」のひとことがきっかけで、新作を描きました。でも、言ってなかったらやってなかったと思うよね。自然のやり取りの中から生まれました。チャレンジしたこととかは特にないんだけど、「もう漫画はやめた!次は芸術だ!!」と思いながら描きました。まあ、そこしかないよね。
「楳図かずお大美術展」が巡回中。【大阪会場】会期:2022.09.17-11.20 会場:あべのハルカス美術館。“マンガ”のドラマ性と“美術”の豊かな感性が一つにマンガと芸術の大転換点! その歴史的瞬間に立ち合うべし!!! https://umezz-art.jp/
Q.楳図さんにとってホラーとは?
A.SFのジャンルで言う「おもしろい話」って、やっぱり時間とともに当たり前になっちゃう。かつて「タイムマシンすごい!」とか「すごい発見!」と思ったことも、今になると全然すごくないでしょう?
時代の流れで当たり前になっちゃうものもある中で、当たり前にならないもの。それって、やっぱり人間が持っている心とか存在がねじれてるとか、突き刺さるみたいなもの。つまり「ホラー」だよね。ああ「ホラー」をやっておいて正解だったな。
Q.楳図さんにとって漫画とは?
A.未来予測できる一番手っ取り早い手法だと思います。文学だと文章の成り立ちがどうのこうのとうるさい縛りにとらわれて、当たり前のことしか描けなくなる事がほとんど。だけど、漫画だとあり得ないことを平気で描ける。
「漫画みたいなバカバカしい……」って言われているわけだから、思いっきりバカバカしいことを描いても文句を言われない。それがやっぱり未来予測だと思う。
ドキュメンタリー形式の漫画もあるけどね。例えば、スポーツもの、戦争ものとか、時代物とか。それらは創造性の世界ではなくてドキュメンタリー。僕はそっちはやらなかったね。
Q.楳図さんにとって芸術とは?
A.芸術とは、やっぱりどれだけ現実から離れた面白いことが描けていて、しかもそれがきちんと心の奥に、ねじれとかよじれとか突き刺さるものを含んでいるかということですね。
それが含まれていないと、美術で終わっちゃう。そういう意味じゃ、芸術はやっぱり「ホラー」に近いよね。『まことちゃん』に出てくる不細工な女の子って、芸術に近いよね!!
Q.楳図さんといえば、いつも赤白ボーダーTシャツを着用されています。どのような理由で、このTシャツにたどり着いたのですか?
A.以前、草間彌生さんとの対談でも言ったのだけれど,「水玉」は物の存在そのものを表している。地球とか、小さくすると碁石とか。だから草間さんがやっていることはすばらしい。
そしたら「シマシマ」って何か? その分子とか存在に動きがかかって、ピーっと飛び出したりしたらどうなるか。それが高速で走ると「シマシマ」しかないですよね。
つまり、アクションがあるのが「シマシマ」で、存在だけがあるのが草間彌生の「点々」。「点々」も素晴らしいんだけど、動いてないからね。動くと「シマシマ」になる。「シマシマ」ってアクションですね。アクションってやっぱり生きてる限り、とても必要。それは生命力だから。「水玉」も生命かもしれないけど、存在するだけじゃなくて動き回って活動しているときの状態が「シマシマ」なので。「元気な姿」ですね。
赤という色自体もそうですよね。植物も出たばっかりの芽は赤い色をしているんです。あれは紫外線から守るための色らしいです。だから赤は紫外線を予防するためにもいい。
Q.今回UTが再販されたことについて、率直な感想を教えてください。
A.グワシのポーズは、今ヨーロッパとかでもちょっとずつ使ってくれているようです。今回、ユニクロさんに協力してもらえたことで、さらに世界的なポーズとして発展してもらえたらと思っています。楽しみにしています!!「グワシ!!」。
PROFILE
うめず・かずお|大芸術家。1936年、和歌山県高野山に生まれ、奈良県で育つ。小学校4年生で漫画を描き始め、高校3年生の時、『別世界』『森の兄妹』をトモブック社から単行本で出版し、デビュー。『へび少女』『猫目小僧』などのヒット作により、“ホラーまんがの神様”と呼ばれる。『漂流教室』で小学館漫画賞受賞。一方、『まことちゃん』でギャグの才能も発揮。作中のギャグ、“グワシ”は社会現象となった。このほか、『おろち』『洗礼』『わたしは真悟』『神の左手悪魔の右手』『14歳』など、数多くのヒット作を生み出す。その他、タレント、歌手、映画監督など多数の肩書きを持ち、様々なジャンルで活躍中。2018年、『わたしは真悟』で仏・アングレーム国際漫画祭「遺産賞」受賞。また同年度、文化庁長官表彰受賞。2022年、27年ぶりの新作『ZOKU-SHINGO』を発表。
復刻Tシャツからひもとく、“本物”の魅力
【20th UT ARCHIVE vol.1 森山大道】
【20th UT ARCHIVE vol.2 天才バカボン】
【20th UT ARCHIVE vol.3 ソニック・ザ・ヘッジホッグ】
【20th UT ARCHIVE vol.4 パックマン】
【20th UT ARCHIVE vol.5 ブラック・ジャック】
【20th UT ARCHIVE vol.6 ストリートファイター】
【20th UT ARCHIVE vol.7 楳図かずお】
Ⓒ楳図かずお/小学館
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