アンディ・ウォーホル・キョウト
2022.09.29

アンディ・ウォーホルと京都。知られざるその関係とは。

アンディ・ウォーホル・キョウト

京都市京セラ美術館でアンディ・ウォーホルの大回顧展「アンディ・ウォーホル・キョウト」が開催中だ。パンデミックの影響による延期を経て、今回展示されるのは100点以上もの日本初公開作品が含まれるという。さらに京都の文化に強い影響を受けたとされる作品の数々も見どころの一つだ。1956年、彼が初めて日本、そして京都を訪れた際の旅の軌跡を辿りながら、知られざる京都とウォーホル氏の関係を探る。来日したアンディ・ウォーホルミュージアムの館長パトリック・ムーア氏と本展に携わった同館主任学芸員(当時)ホセ・カルロス・ディアズ氏にウォーホル氏が京都で何を感じ取ったのか、貴重な事実を語ってもらった。

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1956年、若きアーティストが「世界一周旅行」の最初に向かった先

アンディ・ウォーホルが「世界一周旅行」を計画したのは、ニューヨークで商業アーティストとして活動を始めてから7年目のことだった。高い評価を得て金銭的にも成功を収めた彼が、自身へのご褒美として約2ヵ月に及ぶ長期旅行としてアジアやヨーロッパの各都市を、ボーイフレンドのチャールズ・リザンビーとともに巡るというものだった。そしてニューヨークを離れ、初めて足を踏み入れた海外の地がなんと日本だったのだ。

「彼がこの京都での滞在や世界一周の旅の中でどんな体験をしたのか、それを思うだけでとても感情が揺さぶられます。移民系アメリカ人として、ピッツバーグという地方都市で育ったアンディが、ニューヨークで商業アーティストとして名を立て、まだ珍しかった海外へと飛び、さまざまなカルチャーに触れたのです。彼が幼き頃、誰がこんなことを想像できたでしょうか」とムーア館長は感慨深げに語る。

今回の大回顧展は、それぞれ章を立て、ポップ・アートの寵児として活躍する以前のピッツバーグ時代から晩年に至るまで、時代やテーマに分けて構成される。その中の第2章「アンディと日本、そして京都」では、初めて日本を訪れた1956年と再来日を果たした1972年の滞在時に残された作品や資料をもとに、世界中の誰もが知るアーティストの知られざる、日本特有の文化とのつながりを紐解いている。

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京都滞在中に宿泊した都ホテルのほか、三十三間堂、瀧安寺など、ウォーホル氏が主に訪れた場所をマップで紹介

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小冊子『京都の見方(How to see Kyoto)』などを参照しながら、観光する場所を決めたのだろうか。

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リザンビー氏撮影による旅の記録。友禅流しの様子を収めたものだ。

「今回の展示のために、タイム・カプセルと呼ばれる彼が残したダンボール610個に及ぶ収集物の中から、丹念なリサーチによって、京都旅行に関するメモや手紙、パンフレットなどを探し出し、さらにチャールズが収めた当時珍しかったカラーフィルムでの旅の記録によって、改めてアンディとチャールズの京都での旅程が明らかになりました。この旅行を通して、アンディはスケッチブックとボールペンを手に、見たもの、興味を惹かれたものを描きました。特に寺や日本庭園など歴史的建造物を包む静寂さに非常に心を惹かれたと考えられます」とディアズ氏。

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京都(清水寺)1956年7月25日

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京都(舞妓)1956年7月3日

「それからアンディは京都での買い物をとても楽しんでいたようです。パブリックイメージとは異なり、プライベートでは非常にミニマルな生活環境を好んでいたので、彼の美意識に通じる京都の骨董品の数々を見てとても喜んだのではないでしょうか」(ムーア館長)。

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ウォーホル氏は、初の京都滞在で着物や屏風、食器や銀器、陶でできた犬、さらに生け花に関する本などを購入したという。

そして、ウォーホル氏が京都の文化から強く影響を受けたとされる象徴的な作品が、「花(手彩色)」と「花(モノクロ)」シリーズ(1974年)だ。

「このシリーズは手彩色とモノクロそれぞれ10点一組となっている版画集で、作品が発表された1974年当時、アンディはすでに彼の代名詞的手法であるシルクスクリーンを用いてほとんどの作品を制作していた頃ですが、この作品ではあえて緻密な描写と手彩色といういわばクラシックな手法を使って制作された点が非常に珍しい作品です」(ディアズ氏)。

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『花(手彩色)』(1974年)

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『花(モノクロ)』(1974年)

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会場では生け花に関するウォーホルが収集した本も展示されている。

光と影。ポップアーティストの内面に迫る本展の見どころ。

今回の大回顧展では、日本初公開となる100点以上の展示を含む作品をもとに、ポップアート界の巨匠として華々しいアーティスト人生を送ったと同時に、彼自身が抱えて来た内面の深い部分にも焦点を当てている。

ムーア館長は「『3つのマリリン』は今回の展示品の中でも特に美しいペインティングの一つだと思います。皆さんもニュースでご存知かも知れませんが、今年5月に《Shot Sage Blue Marilyn》が1億1億9504万ドル(約253億円)で落札されました。しかし私にとってはこの『3つのマリリン』がより美しいと思うのです。なぜなら、この作品の中のマリリンは、決して美化されておらず、というよりどこかグロテスクでダークな印象を与えます。インクが濃すぎるように感じるのです。アンディが意図していたかどうかは分かりませんが、彼はセレブリティ文化に落とされた暗い影の部分を表現しようとしていたのではないかと思います。同様の理由で、「ジャッキー」という作品にも注目していただきたいと思います。アンディはジャクリン・ケネディを最もグラマラスでパワフルでいて、悲劇的な女性と考えていたのです」。

本展では、色鮮やかでポップな、誰もが知るウォーホル氏の作品から、晩年取り組んだ「死」をテーマにした作品群まで、幅広い展示を通して、改めて偉大なるポップアーティストの知られざる内面に迫ることができる。彼がこよなく愛した京都という地で、これらの作品群を鑑賞できるというまたとない機会にぜひ訪れてみては。

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『3つのマリリン』(1962年)と『ジャッキー』(1964年)

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『銀の雲』(1966年)

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『最後の晩餐』(1986年)は、およそ3m×10mという晩年を代表する大型作品。ダ・ヴィンチのフレスコ画を参照しつつ、カラフルな色使いやモチーフの反復、オートバイとの組み合わせなど、大胆な構図が印象的だ。

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京都駅を降りると、『ウォーホル・コンテナBOX トレーラー』がお出迎えしてくれる。

開催概要
アンディ・ウォーホル・キョウト
会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」(京都市左京区岡崎円勝寺124)
会期:2022年9月17日(土)〜2023年2月12日(日)
休館日:月曜日(但し祝日の場合は開館)・12月28日〜1月2日

ユニクロ 京都河原町では、特別な展示も!

ユニクロ 京都河原町店では、「アンディ・ウォーホル・キョウト」コレクション販売に際し、本コレクションの世界観を伝えるべく、関連書籍やスタイリングを展示している。特筆すべきは、「MITENE(ミテネ)」という、没入体験型サイネージが設置されている。ぜひ美術館を訪れる前に、またはその後に立ち寄ってコレクションをチェックしてほしい。

アンディ・ウォーホル・キョウト
アンディ・ウォーホル・キョウト
アンディ・ウォーホル・キョウト

MITENEのコンセプトは「とあるウォーホルのパーティ会場に現れたミステリアスな鏡」。ウォーホル氏の代表的な作品を背景にインタラクティブ体験を楽しんだり、Tシャツのバーチャル試着などが叶う。(設置期間は未定)

ユニクロ 京都河原町店
〒604-8031 京都府京都市中京区大黒町58番地 B1階、1階、2階、3階 ミーナ京都
(UTフロアはB1階)

アンディ・ウォーホル・キョウト

PROFILE

アンディ・ウォーホル|アメリカ・ペンシルヴェニア州ピッツバーグ生まれ。カーネギー工科大学絵画デザインを卒業後、商業アーティストとして活動を開始し、60年代以降「ファクトリー」と呼ばれるアトリエをニューヨークに立ち上げ、ポップアートを代表するアーティストへと駆け上がった。20世紀を代表するアメリカのアーティストであり、アートを別の観点から見るという挑戦をしてきた。

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PROFILE

パトリック・ムーア(Patrick Moore)|アンディ・ウォーホル美術館 館長 。カーネギーメロン大学卒業(演劇演出と英文学を専攻)。2011年にデヴェロップメント・ディレクターとしてアンディ・ウォーホル美術館に入職。その後、副館長、最高経営責任者に就任。ウォーホル美術館の映像作品コレクションに特に重点を置き、キュレーションと美術館運営の両面で、美術館のための新しいパートナーシップの開発に注力している。前職はヤフーでデジタルプロデューサーとして活躍。また、エステート・プロジェクト・フォー・アーティスト・ウィズ・エイズの創設ディレクターも務めた。また、エド・ルシェ、キャサリン・オピー、シンディ・シャーマン、デイヴィッド・ホックニーなど、さまざまな現代アーティストと共に出版物やプロジェクトをプロデュースしている。

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PROFILE

ホセ・カルロス・ディアズ(José Carlos Diaz)|元アンディ・ウォーホル美術館 チーフ・キュレーター。リバプール大学にて文化史修士号、サンフランシスコ州立大学にて美術史の学士号を取得。2018年のセンター・フォー・キュラトリアル・リーダーシップのフェロー。2020年にはアソシエーション・オブ・アートミュージアム・キュレーター評議委員会に参加し、ニューヨークで開催されるアーモリーショーの第三回キュラトリアル・リーダーシップサミットの議長を務めた。アンディ・ウォーホル美術館では、「Farhad Moshiri: Go West」や「Andy Warhol: Revelation」、「Fantasy America」「Paola Pivi: I Want It All」をキュレーション。「アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO」に向けて、京都とウォーホルについて初めて本格的な調査にも取り組んでいる。

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