十三代目市川團十郎白猿襲名披露記念 松竹歌舞伎
2023.05.19

日本の伝統芸能を世界に。

十三代目市川團十郎白猿襲名披露記念 松竹歌舞伎

受け継がれるのは芸と覚悟。江戸時代に誕生した日本の伝統芸能・歌舞伎は、今を生きる演劇として400余年を経た現代も多くの人々を元気づけ、魅了し続けている。「歌舞伎」の製作・興行を担う松竹と、襲名披露も記憶に新しい歌舞伎俳優・十三代目市川團十郎白猿との今回のコラボレーションは、その固有の世界観を余すところなくTシャツで表現。そのグラフィックに込められた歌舞伎の伝統と未来を、團十郎丈自らに語っていただこう。

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成田屋の大名跡「市川團十郎」襲名を記念した特別な一着。

今回のコラボレーションTシャツは「歌舞伎十八番」がコンセプトということですが、「歌舞伎十八番」とは、二代目市川團十郎が生み出した『助六』や『雷神不動北山櫻』といった演目を代々受け継ぎ、七代目がその中から十八の演目を選び制定したものです。十八の中にある『毛抜』や『鳴神』、『不動』は、『雷神不動北山櫻』に含まれていたものをもとにして七代目が生み出したものです。十八番(おはこ)という言葉がありますが、その「おはこ」も七代目が代々受け継がれる家の芸を、箱の中にしまい込んでいたところから「おはこ」という言葉が生まれたそうです。

十三代目市川團十郎白猿襲名披露記念 松竹歌舞伎

このTシャツの表の絵柄は、『押戻』(おしもどし)という演目のものです。歌舞伎では、赤い隈取が正義、青い隈取が俗に言う悪。また茶色の隈取は人間がこの世のものではない妖怪や鬼などに化けたものを表現します。この『押戻』の場合は、その演目に青い隈取の悪か、茶色の隈取で化けたものがいるパターンが多く、舞台から花道を通ってリアルの世界に出ていこうとする悪や化けたものを、そこに押し戻していく。つまり、舞台に封印する。舞台から出て行ってしまったら困りますから、成田屋が『押戻』の形で押し戻していって、あなたたち(悪や化けたもの)はここで留まりなさいというのが『押戻』というものでございます。

『押戻』の衣裳には鯉が描かれているのですが、鯉というのは成田屋のトレードマークのひとつです。鯉は川や池に存在する生き物ですが、成田屋の場合は、荒磯、大海原に鯉が行くという役者の精神を表しています。Tシャツの『押戻』の絵には、私たち歌舞伎界もそうですが、世界の大海原へ出ていけるようにという想いが込められていると個人的には思っています。

十三代目市川團十郎白猿襲名披露記念 松竹歌舞伎

このTシャツは『助六』がモチーフとなったもので、「歌舞伎十八番」の中の演目のひとつです。基本的にこの『助六由縁江戸桜』という演目は成田屋しかいたしません。こちらも二代目市川團十郎が約300年前に作った演目ですが、当時の江戸の風物詩すべてをこの『助六』に凝縮したと言っても過言ではありません。遊郭のある吉原、米蔵が並んだ蔵前、魚河岸もそうですね。そういった江戸の大きな商売の方々と成田屋は大変ご縁が深く、そういうものがギュッと閉じ込められたものがこのTシャツなのかなと思います。

『助六』の着物は白と赤と黒がとても象徴的な色合いで、特に化粧は白をベースに、赤の唇、赤の目張り、黒の眉毛というのが印象的だと思います。江戸時代の小屋は今のように照明もなく、見えづらい環境でありましたので、遠くからでも暗いところでもお客様が見やすいようにと、この化粧が生まれたわけです。『助六』の衣裳も、どこから見てもはっきりとした伊達男である、というような色合いとして生まれたのではないかと思います。着物の帯には、市川團十郎家の紋所である三升(みます)と、寿の字海老、杏葉牡丹(ぎょうようぼたん)という紋があしらわれております。杏葉牡丹は二代目市川團十郎が近衛関白家から拝領した紋です。このTシャツの絵柄は、そのような帯の紋所と、頭に巻く紫の鉢巻、手に持つ傘の柄が組み合わさったものになっています。鉢巻は病鉢巻(やまいはちまき)と言い、病気の人が薬効のある紫草で染めた鉢巻きを額に巻いていたところからそう呼ばれていました。元気な人は病鉢巻を結びませんが、あえて元気な人が病鉢巻をお洒落でするという当時の独特な美意識の中で、この『助六』の鉢巻は生まれたのです。鉢巻は格好付けのために結んでいるのです。

十三代目市川團十郎白猿襲名披露記念 松竹歌舞伎

こちらは『壽三升景清』(ことほいでみますかげきよ)という演目で使われる隈取のTシャツです。『壽三升景清』は『景清』、『鎌髭』、『解脱』、『関羽』という「歌舞伎十八番」の4つを、私がひとつにまとめた演目で、もともとは二代目が初演の『雷神不動北山櫻』の中にあったものから七代目が分解して生み出した『鳴神』、『毛抜』、『不動』の逆の発想です。平家の侍である景清は、歴史上敗れるのですが、闇を抱えた人間であることを表現する意味で、赤(正義)をベースに青(悪)が入っております。そのときの隈取を、役が終わりまして布などに押し当てて写し取った押隈が、このTシャツにプリントされているのです。

十三代目市川團十郎白猿襲名披露記念 松竹歌舞伎

十三代目市川團十郎丈が考える歌舞伎のこれから。

たとえば、シェイクスピアの作品は筋が理路整然としていて、起承転結がわかりやすい演劇形態だと思うのですが、歌舞伎の場合は、起承転結の中で理路整然というものをある意味すべて省いている演目が多いのです。特に、このアフターコロナの現在に求められていると感じるのは、見た目の華やかさ、何とも言えない懐かしい空気、観ることで得られるちょっとした安心感や幸福感といったようなことではないかと思います。ですから、俳優が華やかな衣裳などを身に着け舞台に出ていくことによって、わあっと思ってもらえることがとても大事なこと。シェイクスピアの作品では、俳優が出てきて、わあっとなるよりも、物語に対して先に感情が動くのではないでしょうか。

そう考えると、歌舞伎は変わるべきときに差し掛かっているのではないのかと思います。初代市川團十郎は荒事(豪快で力強い芸)をやり、二代目市川團十郎がそれを継承して、一、二、三代目あたりで荒事ということに対しての新鮮さは失われますよね、江戸庶民も。ですから、四代目は工夫をして、実悪ですとか、『景清』のように少し影のある人間を模写していくようになるのです。七代目あたりはどこよりも早くケレンのある芝居、つまり、早替りや宙乗りなどの大掛かりな芝居を積極的にやっておりました。戦後の市川團十郎家に対しては、堅く重たい家という印象があるかもしれませんが、時代にあわせて、伝統を守りながらも異端な行動をし続けているのです。

海外の方々には、日本独自の発展を遂げてきた一つの文化としての歌舞伎を楽しんでもらえたらなと思います。歌舞伎だけでなく、盆栽や京都の芸妓舞妓、桜や富士山といった自然まで、日本はクールだなと感じてくださると思うのです。日本のこういったよさというものは、日本人のほうが身近にあるからこそ忘れがちのように感じます。

ただ、国によっては反応もさまざまです。たとえば、フランスとイギリスで同じような演目をしたとしても、フランスの方々は、生で音が聞きたいからイヤホンガイドではなく字幕にして欲しいという意見があったり。イギリスの方々は、物語が知りたいからイヤホンガイドが必要で、字幕ではないほうがいいとか。イタリアでは、芝居がよければ熱狂的な反応を素直に見せてくれたりします。シンガポールで面白かったのは、「歌舞伎十八番」の中の『嫐』(うわなり)という演目を復活させ、原作とは少し異なる女性ふたりに挟まれる男の機微を描いたのですが、最前列で観ていたカップルが、舞台の終わった途端に女性が隣の男性を怒り出したのです。ああこれは日本語で演じた舞台でもこの機微が伝わったのだなと思いました。

未来に向けて歌舞伎というものをどう変えていくのか? どの時代の團十郎家も大きな変化を遂げてきています。九代目市川團十郎という人間は、それまで庶民の文化であった歌舞伎をより敷居の高いものとしました。私がやるべきことももちろんあります。伝統古典部門、義太夫も世話物も書き物(新作)も当然やり続けると思います。気づかなければいけないのは、新しいことをやろうとして新しいことをすると、それは新しくないということです。新しいものを目指さずに、どうやって新しいものができるの? となりますが、その答えは、古いもの、伝統の中にあるのだと思います。10年、20年の単位で、倅である八代目新之助や、娘の四代目市川ぼたんの世代が受け継いで変えていくのだと思います。

PROFILE

十三代目市川團十郎白猿|屋号は成田屋。1983年5月「歌舞伎座」の『源氏物語』の春宮で初御目見得。17世紀から代々受け継がれてきた「市川團十郎」の名跡を十三代目として2022年に襲名。柿色に三升紋の裃、髷をピンと立てた「まさかり」のかつら。左手に三方を捧げ持ち、右足を一歩踏み出して、「ひとつ睨んでご覧に入れまする」と口上で述べて客席を睨むのは、市川宗家のみに許された吉例。江戸時代は、團十郎の睨みを見ると、1年間風邪をひかないといわれてきた。

十三代目市川團十郎白猿襲名披露記念 松竹歌舞伎 UT グラフィックTシャツ(半袖・レギュラーフィット)

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十三代目市川團十郎白猿襲名披露記念 松竹歌舞伎 UT グラフィックTシャツ(半袖・レギュラーフィット)

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表にプリントされているのは、「歌舞伎十八番」のうちのひとつ『押戻』という演目で、初演は享保12年(1727年)3月に二代目市川團十郎が江戸の「中村座」で披露。紅の筋隈、鋲打ちの胴着、菱皮のかつら、三本太刀など、典型的な荒事の扮装に、竹の子笠をかぶり、蓑を着て、太い青竹を手にして登場し、跳梁する妖怪や怨霊を花道から本舞台に押し戻す。バックプリントには、「歌舞伎十八番」の残りの17の演目がプリント。

十三代目市川團十郎白猿襲名披露記念 松竹歌舞伎 UT グラフィックTシャツ(半袖・レギュラーフィット)

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『助六』を演じる際に着ている黒い着物をイメージした黒いボディに、紋の入った着物の帯、額に巻く紫の病鉢巻、手に持つ傘の柄が組み合わさってデザインされたTシャツ。帯に入るのは、市川團十郎家の紋所である三升(みます)と、寿の字海老、杏葉牡丹(ぎょうようぼたん)。

十三代目市川團十郎白猿襲名披露記念 松竹歌舞伎 UT グラフィックTシャツ(半袖・レギュラーフィット)

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十三代目市川團十郎が演じる、『壽三升景清』(ことほいでみますかげきよ)の景清の隈取を押隈したTシャツ。赤い隈取は正義、青い隈取は悪を表すが、景清の隈取には、赤い隈取に青い隈取が入ることで、闇を抱えている様を表現。

商品により、取り扱い店舗や展開国が限定されることや完売することがございます。

協力:松竹

協力:松竹 出典:歌舞伎十八番、国立国会図書館デジタルコレクション (https://dl.ndl.go.jp/)

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