本物のリンゴやミルク、クッキー、ソフトクリームで作られた、「HELLO KITTY GIVES YOU SMILES」の絵文字。アートディレクター吉田ユニさんがハローキティの世界を創造するとこうなるのだ。その奇妙でキュートなものづくりの源泉は一体どこにあるのだろう?
「小さい頃から、ディテールにこだわるのが好きでした」
いつもはさらっと流しがちな街角の広告が、やけに目に留まる。モデルの髪型が、ヒールが、メイクが、ばっちりキマっているのに何かおかしい。そのだまし絵みたいなインパクトに、「何でできてるの?」「どう撮ったの?」と、ついつい答え合わせをしたくなる。吉田ユニさんの作品には、好奇心を駆り立てる、心地よい違和感が溢れている。違和感の正体は、“実物”という点。今回のTシャツのために作ったハローキティのグラフィックも、果物や花、ソフトクリームを使って撮影したものだ。
「果物もお花もよく使うモチーフ。静物だけど命があるというか、瑞々しい感じが好きなんです」。アルファベットの「S」を表現するために、何個も何個もリンゴの皮を剥いた。納得いくまでとことん作り込む性格は、小さい頃から変わっていないという。
「絵や工作ばかりやっていました。ファミコンも買ってもらえなかったから自分で作ったんです。発泡スチロールを切って、かなりリアルに。カセットが認識しない際の、息をフッって吹きかけるのもやっていました。もしかしたらそれがやりたかっただけなのかもしれないけど(笑)。ディテールにこだわるのが好きでしたね」
小学校の卒業アルバムには「将来の夢はデザイナー」と書いていた。その頃は漠然としたイメージしかなかったが、母から女子美術大学付属中学校があると聞き進学し、大学で広告の授業を受けて広告デザインの楽しさを知ったという。
「私の作品は“自由に作っているんだろうな”とわりと思われがちなんですけど、実は制限があるほうが好き。制限のなかでどれだけ伝えられるか、どれだけギリギリを攻めるかを考えるのが好きなんです。だから、決まりごとがある広告という世界に興味を持ったのだと思います。学生時代は、図鑑や伝記に夢中で。ファンタジーよりもリアルなものが好きで、子供が読む伝記シリーズをずっと読んでいました。なかでも好きだったのはエジソン。“1%のひらめきと99%の努力”なんて聞くと、まさにそうだなって思うんですよね」
吉田さんの作る作品も、ひらめきと努力の賜物だ。青い花瓶に花を活け、パンを添えることで、ハローキティを表現してしまうのだから。いつ頃からこの世界観を?と聞くと、「少しずつ進化させているので、いつから、というのは覚えてないんです。でも、幼稚園の友達には“全然変わってないね”って言われます(笑)」
大学を出て大貫デザインに入社し、デザイナーになった。転機になった作品は、のちに転職した野田凪さんが代表の宇宙カントリー時代に作ったもの。部屋で女の子が寝転ぶ様子を、真下から覗く構図が話題になった。「初めてひとりでアートディレクションを手掛けた作品だったんです。野田さんに見せたら、泣いて喜んでくれて。『こんなにできるんだったら、もっといろいろやらせてあげたらよかった』って。その思い出もあって、より一層印象に残っています」
独立してからは、たったひとりで仕事をしている。深夜のお供はAMラジオ。様々なパーソナリティのラジオを聴くが、爆笑問題の『JUNK 爆笑問題カーボーイ』の20年来のリスナーでもある。夜通しデザイン画を描き、さらに現場で微細なディテールを加えていく。今回作ったアルファベットも、必要なものだけではなく、AからZまですべてを作り上げた。そんな小さなこだわりが、やがて大きな作品を形作る。ただ、「何を使ったか」は想像できても、「どうしてそれを思いついたか」まではわからない。その回路にはとうていたどり着けないのに、広告の前でまた立ち止まってしまう。吉田ユニワールドの魅力は底知れない。
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PROFILE
よしだ・ゆに|1980年、東京都生まれ。女子美術大学を卒業後、大貫デザインに入社。宇宙カントリーを経て2007年に独立。ラフォーレ原宿やLUMINEのキャンペーン、星野源、木村カエラなどのアートワーク、渡辺直美個展ビジュアルなど幅広く手掛ける。好きな色は赤。