Daniel Arsham
2020.04.23

コンテンポラリーアーティスト、ダニエル・アーシャムさんのスタジオへ!

Daniel Arsham

異空間へと誘うコンセプチャルなアートで注目されるダニエル・アーシャムさん。彼の作品の中でも特に話題の『フィクションとしての考古学(Fictional Archeology)』について探りつつ、リリースされるUT とのコラボレーションアイテムが生まれた背景についてNY のスタジオで話を聞いた。

ダニエル・アーシャム x ポケモン

世界が注目するアートが生まれる空間。

マンハッタンのビル群が一望できるロングアイランドシティの川沿いにダニエル・アーシャムさんのスタジオはある。アート界のみならず、ファッションやストリートカルチャーなどの幅広い分野で絶大な人気を誇る彼のスタジオは、白を基調とした倉庫のような広い空間だ。15人弱のスタッフがそれぞれに任された担当分野の作業をしているなかで、新旧の作品のいくつかを間近で見ることができた。特に目を惹いたのは、炭化したようなライカのカメラ、化石のようにクリスタル化したNikeのジョーダンのスニーカーやポケモンのピカチュウのオブジェたち。これらはダニエルが『フィクションとしての考古学(FictionalArcheology)』と題して取り組んでいるシリーズの作品だ。

「今から1000年以上もの時を経た未来には、カメラや携帯など今僕らが使っている製品は考古学的な史料になる。ここにあるのは、その事実を元に生まれた作品で、そんな現代の製品を炭化させたりクリスタル化させることで、それらがまるで古代のもののように見える。つまり、ここには“時間の混乱”があって、この作品たちは未来から来たものというわけなんだ。クリスタル化されたオブジェが古く崩れているように見えるのも、ここで起きていることが未来の出来事だからということなんだよ」

ダニエル・アーシャム x ポケモン

スタジオの一室では、スタッフがそれぞれのパーツを分業で制作。様々なマテリアルが置かれたラボのような空間だ。

想像力から生み出される新しいモノの見方の可能性。

現実と虚構とが交差するこの作品群は、誰も変えることのできないとされている“時間の流れ”をコントロールするという点が斬新だ。

「僕が彫刻という物質的なものを通して、またはアイデアそのものを通して試みていることは、“人を日常から切り離す”ということ。現代のものが未来には考古学的遺物になっているというふうに想像してみること、そしてさらにその想像上の遺物が今ここにあるということは、時間というものが流動的で順応性があるものであるという考え方を実現させていることになる。これらの作品は、とてもいい反響を得ているよ」

そもそもこの『フィクションとしての考古学』のアイデアは、数年前のイースター島への旅がきっかけになっているという。「通常考古学では、その物質がどの時代のもので、誰が作ったものなのかを明確にするのが通例なのだけれど、イースター島のモアイ像に関しては考古学者が断定できず、まだ未確定なものとされているんだ。それはそれまで僕が思っていた考古学の考え方を覆すもので、とても興味深いと感じたんだ」

確かとされているものが揺らぐとき、無限の新しい可能性が生まれる。そんなワクワクする感覚こそが、彼が生み出すアートに通ずる面白さだ。

ダニエル・アーシャム x ポケモン

スタジオのメインフロアでは、制作中の作品とともに過去のダニエルさんの作品が並ぶ。手前の胸像は古典時代 のアイコニックな作品を侵食させた最新作のひとつ。

着ることのできる『フィクションとしての考古学』

今回、ダニエルさんが手掛けるアートプロジェクトの一環として、UTでも『フィクションとしての考古学』のコンセプトをデザインに落とし込み、7パターンのTシャツを商品化。グラフィックとして描かれるのは、ダニエルさんが子供の頃より慣れ親しみ、題材にし続けているというあのアイコンだ。

「アート制作において、僕はいつも世界中で認識されるアイコニックなキャラクターたちを探し求めているんだ。未来から今という時間を振り返るとき、今の時代の輝きは世界的なアイコンを通して説明されることになるからね。今回のコラボレーションはそんなアイコンのいい例で、まさに日本生まれの世界に通ずるカルチャー。いくつかの彫刻を以前作っていたんだけれど、それが目に留まったことからこのプロジェクトは始まったんだ。今回正式にオフィシャルの3Dデータをもらって制作できたことはとても嬉しかったよ」

Tシャツのメインデザインになっているのは、本人によって描かれたドローイングというのも新鮮だ。「僕は作品制作をするとき、まずスケッチから始めるんだ。彫刻を作る際も同じようにいつもスケッチを描き、そこから立体を作っていくのだけど、普段これを外に公表することはほとんどない。そんな普段はチーム内のみで共有しているプライベートな原画を、今回はTシャツのデザインにすることにした。僕の直接的な作品ではないけれど、UTが得意とするグラフィックデザインという点にうまく落とし込めていると思う」

ダニエル・アーシャム x ポケモン

オフィスと作業場の両方を兼ね備える広い無機質な空間のスタジオ。フロアだけでなく、天井、 壁などにも新旧の作品が点在する。

より多くの人に届けたい。ポケモンとのコラボTシャツ。

このダニエル・アーシャム×ポケモンUTは、今春頃より世界中のユニクロで発売予定で、自身の作品を普段以上により広く人々に届けられることがとても嬉しいとダニエルさんは語る。

「ユニクロの一貫する“アクセシビリティ”のコンセプトにはとても共感しているんだ。僕もいろいろなプロジェクトを通して、いつもアート業界の人だけのためでなくて、幅広い人たちに作品を届けたいと思ってきた。僕の作品のテーマにアイコニックなものを扱うことが多いのも、多くの人が認識できるものを取り上げることで、たくさんの人に僕の作品を身近に感じてもらいやすいから。さらに先に進むとアートはより具体的で複雑になってくるかもしれないけれど、まずはそういったアイコニックなキャラクターたちによって僕の作品に興味を持ってもらいやすくなっていると思う。ユニクロのその平等主義的な考え方はとてもいいと思うし、実際僕にとってユニクロのアイテムは生活の基本になるアイテムだよ。息子たちもカウズやスター・ウォーズのTシャツをたくさん持っているし、僕もソックスと下着は全部ユニクロなんだ。色は黒だよ!」

©2020 Pokémon. TM, ® Nintendo. ©Daniel Arsham Courtesy of Nanzuka

PROFILE

ダニエル・アーシャム|アメリカ・オハイオ州出身。幼少期をマイアミで過ごし、スニーカーやストリートカルチャーに影響を受けて育つ。初のアーティスト同士のコラボレーションとして空山基と共同制作した彫刻が昨年渋谷パルコのスタジオ「2G」で展示された。