TAMURA KING
2020.06.11

みんなUTを着て自由に生きている Vol. 5

TAMURA KING

ヒップホップシーンに突如現れた田村三兄弟。高次元なリリックとサウンドは、ヒップホップ界では収拾できないほどの現代アート性と高度な構造批判に満ちている。思い思いのUTをまとった三兄妹のインタビューをお届けする。

自分が一番言いたいこと、やりたいことを追求した結果。

今最も注目される三兄弟といえば、亀田三兄弟(ボクシング)でも、尾崎三兄弟(ゴルフ)でもなく、神奈川県の茅ヶ崎に暮らすヒップホップアーティストの田村三兄妹である。クリエイティブディレクターの長男NASAさん、着ぐるみクリエイターでありラッパーの長女なみちえさん、大学生でありダンサーの次女まなさんが繰り広げる複合的アートエンターテインメント、それがタムラキングだ。

「僕はスイスに1年間留学していたんですけど、課題とかいろいろ大変で、最終的に肺気胸になって死にそうになりながら飛行機に乗って帰ってきました。苦しみながら自分が一番言いたいこと、やりたいことってなんだろうって考えたときに、タマキンって言いたいなって思ったんですよね」(NASA)。「兄のスイス生活の成果なので、兄を満足させるために私たち3人が集まってタムラキングが結成されました。もともと3人で活動もしているので特に何か変わるわけではないのですが」(なみちえ)

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茅ヶ崎の自宅の屋上にて。ダンサーのまなさんは身体の動きで言葉を表現する。期せずして3 人共にパンツはユニクロで。

ヒップホップの形をしたコンセプチュアルアート

タマキンことタムラキング。タムラキングを英語の発音風に読むとそうなる。歌詞はなみちえさんが手掛け、「バースもちゃんと作りましたし、タマキンもキレイに普遍化できました」と語るとおり、あからさまにふざけているように聞こえるかもしれないが、多義的な意味の広がりを持つ意志の強いパンチラインを作り上げた。まさにヒップホップの形をしたコンセプチュアルアートである。アートによりタマキンは解放されたのだ。なみちえさんの個人活動の曲も同様で、曲ではあるのだけど、様々なコンセプトやコンテクストをギュッと凝縮して作られた音のあるアートとして世の中は解釈したくなる。NASAさんが撮っているなみちえさんとまなさんのメイク動画なんて昨今のユーチューバーを逆手に取った痛快極まりない映像だ(オチが極上)。そして、3人と話していると(なみちえさんが特にそうなのだが)、会話のための言語ではなく、表現のための言語を話しているように感じられるのも只者ではない。

「構造批判を行わないと現代アートもヒップホップも成り立たないと思っています。構造批判をすることで新しいものが生まれます。無意識の質上げをしていくことで、知らない自分に気づくこともできる。その構造が面白いなと思っています」(なみちえ)。「僕は精神性を高めると自然界の小鳥でさえ肩にとまってくれると思っているのですが、それくらい感性をアップデートさせたいですね。そのためには電車なんて乗っていられません。混んでいる電車ほど人の心をすさませるものはありませんし、いい発想も生まれないと思います」(NASAさん)

3人とも道は違えど、目指すところは一緒である。彼らを掘れば掘るほど、異能で多彩な魅力にどっぷりとハマるはずである。タムラキングとしてのヒップホップ活動は最初で最後なのかもしれないが、彼らをこれからもずっと追い続けてみたいと思ってしまう。この日の末っ子のまなさんは兄と姉の話を楽しそうに聞いているだけだったが、そのポテンシャルも相当高いとみた。

©Disney © Peter Saville and New Order

PROFILE

タムラキング|神奈川県茅ヶ崎市生まれの3兄妹ヒップホップアーティスト。ガーナ・アカン族の父と日本人の母を持ち、NASAさんは多摩美術大学、ローザンヌ州立美術大学院卒、なみちえさんは東京藝術大学、まなさんは法政大学在学中で、奨学金の返済にいそしむ。祖母は個人タクシーの運転手で駅まで送ってもらったりしている。
YouTube @Tamura King