時に大胆、時に繊細。デザイン会社アセンダダを率いるサトウアサミさんが「THE ART OF TEXTILE」で魅せる線や柄は、布の上でいきいきと躍動する。独自の感性はどのように生まれたのか。
あらゆる興味のあることに打ち込んで。
会社名である「アセンダダ」という言葉。耳慣れないながら、すぐに覚えることができる不思議な感覚の響きだ。エストニア語で「置き換える」という意味だという。一枚の原画がテキスタイルに置き換えられ、そしてそのテキスタイルが、カーテンやクッションカバーなど日々の生活を彩るアイテムとして置き換えられていく。テキスタイルデザインの本質を巧みに捉えたワードチョイスだ。
そんなアセンダダ率いるサトウさんの作り出すテキスタイルは、まず墨汁やアクリル絵具を使って和紙に原画を描くことから始まる。アトリエに置かれたシンプルな白い引き出しを開けたとたん、そこには様々な線や形、色彩があふれていた。古来伝わる和紙と墨汁を使って描かれるのに、そのデザインはモダンでいて普遍的。このスタイルが生まれるまで、サトウさんの歩んできた道は非常にユニークだ。「幼い頃から絵を仕事にしたいと思っていました。高校は美術科のデザインコースを選んだのですが、その頃から日本の文化や芸術にも惹かれるようになり、デザインの勉強とは別に木版画を始めたんです」。同時にサトウさんの伝統文化への興味は、狂言にまで広がっていった。地元北海道から週末だけ東京の稽古場に通いながら狂言師の元で稽古をつけてもらい、後に舞台に立ち、演者として全国を回るまで本格的に取り組んだ。学生時代はデザイン、木版画、狂言、アルバイトなど何足もの草鞋を履きながら、自身の興味のあることすべてに打ち込む生活を送っていた。
和紙はある工房から特別に買い付けているという。「色々試しましたが和紙はこれというものでないと思い描く線や柄にならないんです」
墨以外の色はアクリル絵具、筆は毛筆や絵筆を使い分ける。
描いたデザインによって空間に変化を生み出す醍醐味。
テキスタイルデザインに行き着いたのは偶然のことから。「木版画は和紙に刷っていくのですが、擦れたりずれたりして思うように刷れなかった和紙がたくさん出ます。その余った部分がもったいないなと思って、包装紙がわりにものを包んでみたら、思ってもみなかった柄が見えてきて、すごく興味をそそられたんです。色々試行錯誤していくうちに、紙ではなく、生地にデザインを落とし込んだらどうなるだろうと思い始め、テキスタイルデザインという仕事の存在を知りました」。短大を卒業後、フリーランスで絵の仕事をする傍ら、布にプリントできる小さな機械をボロボロになるまで使って独学で制作を続けた。次第にもっと大きな布でやってみたい、インテリアや空間、共有スペースなどに落とし込みたいという思いが強くなっていった。
転機は34歳の時。札幌から東京に拠点を移した。後にアセンダダを共同で立ち上げることになるビジネスパートーナーにシルクスクリーンの工房に通うことを提案された。「約3年間、工房に通って、版作りから布にプリントするまでの工程を自由にやらせてもらうことができました。そこで得たものが今につながっています。平面のデザインをするということだけでなく、テキスタイルデザインで空間を彩ることで生まれる変化までを含めて提案したい、その思いがやっと叶うようになったんです」
UTとのコラボレーションについても「ユニクロは洋服ブランドだけれども、洋服だけでなく、もっと深い部分に言いたいことをきちんと持っている印象があります。そこに興味がありました。物理的にはTシャツを作るのですが、それを着る人々にどんな変化をもたらすことができるか、そんなことを考えながら作り上げました」。テーマである「晩夏」をイメージしたアイテムは、秋の夕日を思わせるオレンジなど柔らかい色調に加えて、ダーク系のカラーバリエーションも。これはサトウさんのこだわりだという。「日が落ちた後、辺りがグレーっぽくなる色味を表現したくて。真っ暗じゃなく、独特の秋の色だと思うんです。着こなしによってかなり印象が変わると思うので、街で着てくださる人を見かけるのを楽しみにしています」。異色の経歴とも言える、様々な経験に全力で向き合ってきたサトウさんだからこその心意気が感じられるデザインの数々。ぜひUTで堪能して欲しい。
布を裁つサトウさん
インスピレーションは日々の暮らしの中にあると話すサトウさん。中でも雑誌『apartamento magazine』は好きでよく眺めるという。
大柄のテキスタイルは、サトウさんの描くダイナミックなラインを楽しめる。
ヴィンテージの家具などがセンス良く配置されたアトリエ。
Project: 2020 by ASENDADA ©Asami Sato
PROFILE
サトウ アサミ|1977年生まれ。札幌出身。 1997年より活動を始め、2007年よりサトウアサミデザイン事務所として、店舗やパブリックスペースでのアートワーク、プロダクト、パッケージ、エディトリアルなど幅広く手がける。都市と自然がほどよい距離をもって共存する北海道札幌で生活してきたサトウさんは、その目線を都市から自然、自然から都市へと往き来させ、身近なことをモチーフに、そのデザインをテキスタイルに落とし込む。
http://asendada.com