南塚真史
2020.02.27

渋谷のアートギャラリー『NANZUKA』と13人のアーティスト

南塚真史

2005年、東京にアンダーグラウンドシーンが残っていた頃に渋谷で産声をあげたギャラリー『NANZUKA』。流行が次々と入れ替わる東京の中心から、世界へと自分たちの現代アートを送り出すその視点とは。

ギャラリストになるまでの道のり。

2005年、東京にアンダーグラウンドシーンが残っていた頃に渋谷で産声をあげたギャラリー『NANZUKA』。流行が次々と入れ替わる東京の中心から、世界へと自分たちの現代アートを送り出すその視点とは。

「このビルはオリンピックのあとに取り壊しになるので、引っ越さなくちゃいけないんです。まだ場所が決まってなくて、作家たちから怒られてます(笑)」 そう話すオーナーの南塚真史さんの背後には、スペインのアーティスト、ハビア・カジェハの大きな瞳の彫刻作品や、空山基のロボットレディのスカルプチャーが並んでいる。パッと見れば“ああ、『NANZUKA』らしいな”と思える作品群は、地道な活動の積み重ねが生んだ賜物だ。南塚さんは早稲田大学で美術史を学び、卒業後にギャラリーを立ち上げた。

「学生時代はアートヒストリーを専攻していました。日本の美術がどうやって制度化されてきたのか、どうやって歴史に位置づけられてきたのかに興味があって、アカデミックなアートの文脈に則っていない独学によるアートの研究をしてきたんです。もともと僕の研究テーマの受け皿になる美術館もなかったし、博士課程に進もうかなと思っていたんですけど、提出する書類を出し忘れて退学になってしまって(苦笑)。担当の教授のアドバイスもあって、ギャラリーでもやろうかなと」
右も左もわからなかったが、好きな作家を集め、作品を売ればなんとかなるんじゃないかと考えた。近くに、クラブで知り合った映像クリエイターの宇川直宏さんがいたことも大きかった。

展示のあとは朝までパーティ。始まりは無茶苦茶だった。

「アーティストのスタジオ、展覧会を開催できるギャラリー、そしてクラブの三位一体でやろうっていうのが宇川さんの発案でした。展覧会のオープニングなんて朝までずっとお客さんがいるなかでパーティをやっていたので、宇川さんの展示のときもリッチー・ホウティンがお忍びでプレイして、とんでもない人だかりになってしまい、自分の作品を落っことして壊したりして(笑)。良き時代ですね」
当時のアート業界の空気感を南塚さんは「保守的だったと思う」と振り返る。
「ギャラリストが日本のアーティストを扱って世界に出ていくことを戦略的にやった時期があって、いわゆるデパートがやってきたような美術ショーと距離を置く必要があったんですね。それによって、現代美術はある種の権威的な存在になってもいて。僕はそれに対してアンチというか、コマーシャルなクリエイティブをやっている作家たちをフックアップして、“これがアートじゃなきゃいけない”という価値観を破壊する方向でスタートしました」

設立当時は、所属するアーティストの多くが20代半ば。雑誌でイラストを描き、アパレルブランドのTシャツにグラフィックを卸しながら創作活動を続けていた。佃弘樹さんも、森雅人さんも、今や現代アーティストとして異彩を放つ『NANZUKA』の作家の多くが、南塚さんと共に時代を乗り越えてきた。大きかったのは、意外にも「リーマンショック」と、南塚さんは言う。

「どういう因果関係なのかはわからないですけど、ムーブメントのアンダーグラウンドシーンがリーマンショック後に消えたんですよ。クラブにもぱったり人が来なくなった。多分、遊んでいた連中の多くが僕たちの世代で、『これはいかん』っていろいろと諦めたんじゃないかなと思います。あれから、いまだに大きな括りでいうところの『アンダーグラウンドシーン』って出てこないですよね。シーンがないから、それにまつわる音楽もグラフィックも生まれない。若い子たちはより細分化されて、昔でいうオタク化していっているというか。震災もありましたし、日本のアート業界はこの10年ほど、とても大変だったと思うんです」
時代の波を読みながら、ギャラリーオーナーは必死に舵を切る。この数年はSNSのうねりがやってきて、再びアートを翻弄している。

南塚真史

攻めないと生き残れない。常にギリギリを追いかける。

「昔ながらのアートビジネスというのは、まずはここのアーティストの作品を観て、文脈を紐解いてから、ようやくお金が動く、というのが王道の世界です。ヨーロッパは今もその傾向が強いと思います。でも、今やインスタグラムみたいなSNSで作品を観て、良かったら即購入、という世代が増えてきた。世界中にいる若くてお金を持っている人たちによるマーケットみたいなものが、この2〜3年で急に出現したんです。その中で、『NANZUKA』はトレンドに乗っていると見られがちなんですが、個々のアーティストにとっては、やっていることは昔から変わらないので、このムーブメントやギャラリーの在り方が少しずつ変化してきているという実感はあります。変化にリスクは付き物ですから、僕はこうした変化に肯定的です」

ユニクロとのコラボレーションも新しいうねりだ。作品をTシャツにプリントし、世界各地で販売することで、今の現代アートと消費がどんな化学反応を起こすのか。「アートもファッションも、これまでにない新しく攻めたことをやらないと生き残れない」。南塚さんは最後にそう語った。
「ユニクロさんの企業解釈の中で、どれくらい好きにやらせてくれるのかなと試行錯誤しました。まだまだやりたいこともありましたけど、作家たちの協力でいいコレクションができたと思います。どれだけクリエイティブが出せるか、常にギリギリを追いかけていきたいですよね」

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©Erik Parker ©Haroshi ©Harumi Yamaguchi ©Hiroki Tsukuda ©Hajime Sorayama ©Javier Calleja ©Julia Chiang ©Katherine Bernhardt ©Keiichi Tanaami ©Oliver Payne ©TOKYO-SKYTREE ©TOKYO TOWER ©YOSHIROTTEN ©Yuichi Yokoyama Courtesy of Nanzuka

PROFILE

なんづか・しんじ|1978年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部美術史学専修を卒業後、2005年に渋谷の地下スペースに『NANZUKA UNDERGROUND』を立ち上げる。移転を経て、2012年に『NANZUKA』として再び元の場所へ。香港でも『AISHONANZUKA』を運営。