例年、UTとのコラボレーションが話題になる、長場雄さんと河村康輔さん。同世代の2人のアーティストが語り合う、お互いの作風から、今回のTシャツのモチーフになったアンディ・ウォーホルや『ピーナッツ』の話まで。
現在の東京を代表するアーティスト、長場雄さんと河村康輔さん。かたや映画や絵画をモチーフにしたシンプルな描線によるやさしいイラストレーション、かたやシュレッダーなどを巧みに用いた複雑精緻でハードコアなコラージュと、正反対の世界観を追求しているように見える2人だが、実は10年近く前から面識があったそう。これまでしっかり話をする機会に恵まれなかったという2人に、長場さんのアトリエで心ゆくまで語り合ってもらった。
長場雄(以下、長) 初めて会ったのは、何かの作品展に足を運んだとき、知人を介して紹介されたんだと思います。当時の河村さんの肩書はコラージ ュアーティストというより、グラフィックデザイナーだった気がします。
河村康輔(以下、河) 確かにグラフィックの仕事をメインにしていた時期か もしれません。コラージュもやってはいたけど、かろうじて食えていると いう感じだったので。でも、長場さんも今のスタイルにはなっていません でしたよね。「かえる先生*1」っていうキャラクターに力を入れていて、周り のみんなも長場さんのことを「かえる先生」と呼んでいました。その印象が 強すぎたので、長場雄という名前で今の作風になったときは、両者が結びつきませんでしたもん。どういう経緯で今のスタイルに行き着いたんですか?
1. かえる先生|長場さん2004年頃に生み出したカエルのキャラクター。「えっとねー、でもねー、だよねー」が口ぐせの34歳という設定。
長 いろいろ試した結果ですね。もともとは写実的なものを描いていたんです。だけど、僕よりもリアルに描ける人はたくさんいる。それでもうちょっと面白いことができないかなと思って、それこそコラージュっぽいもの に手を出したこともあるんです。とは言え、僕の場合、自分の描いた絵を パソコンに取り込んで、コンピュータ上でバグが起こったみたいにするという感じでしたが。でも、僕にはその先をうまく展開するアイデアがなくて、そこから本当にいろいろな実験をしました。カラフルなものに挑戦したり、先ほど話にもあがった「かえる先生」のようなキャラクターを作ってみたり。 中途半端に器用だから、いろいろできてしまうんだけど、それじゃ本当に 強い表現には勝てないわけですよ。だから、自分の弱い部分を強化するよ りも、面白いと思っている部分を伸ばしていこうと考えて、自分を見極めていく作業をさらに進めた結果、出てきたのが今の作風なんです。
河 そうだったんですか。今のスタイルの絵を初めて見たとき、僕はうらやましかったんですよね。「長場さん、完全に確立したな。一生これでいけるじゃん」って(笑)。実際、あんまりないですよね。ここまで抜けがあるのに、ぱっと見で誰が描いたのかわかるイラストって。もしあったとしても、続けるのは難しい。時代の流れとかに合わせて、2年くらいで変えざるをえない人も多いですから。それを今も変わらず続けられているのがすごい。
長 でも、河村さんだってシュレッダーのコラージュという、確立した作風があるじゃないですか。シュレッダーはいつ頃使い始めたんですか?
河 手法自体を発見したのは、10年くらい前なんです。そのとき初めて自分の作品集を作っていたんですが、ページ数に対して作品の数が足りなかったんですよ。どうしようかなって考えていたときに、当時間借りしていた事務所にシュレッダーがあるのを思い出して。これで作品を粉々にして、段ボールに糊を塗ってふりかければ、砂絵みたいに柄ができるんじゃないかと思ったんです。だけど、シュレッダーにかけたら粉々ではなくなんと縦切りで(笑)。とは言え、もう入稿ギリギリで事務所に印刷所の人も来ていたので、しょうがないから縦切りのまま貼っていったら、なんとなく柄っぽくなっていったという。ちょうど遊びに来ていたコラージュアーティストの先輩である伊藤桂司*2さんは、隣で見ながら「それ発見じゃん!」と興奮してくれてましたが、印刷所の人もいたので「ですよね~」と軽く受け答えながら、なんとか入稿したというのが、シュレッダーを使った最初です。
長 すごい。じゃあ、その場しのぎだったんですね(笑)。
河 はい(笑)。その日の夜、大友克洋*3さんと一緒にご飯を食べることになって、たまたまその作品を持っていたので見てもらったら、大友さんも褒めてくれましたね。「これを進化させたら面白そうだね」って。だけど、進化のさせ方がわからないから、2年くらいはやってなかったんです。ただ、その間に大友さんの原画展のビジュアルをはじめ、アナログでデジタル以上の細かい表現をするという、それまでの自分のスタイルは追求しきったという気持ちがあって、今度は引き算をしてみようと考えたんです。絵画ならキャンバスに黒い点を描いただけでも、コンセプトさえしっかりしていれば作品として成立する。だけど、僕のコラージュは他人のものを素材に使うというルールがあるので、1枚をそのまま貼っただけでは僕の作品にはならないわけです。なので、コラージュはどれだけ引き算しても、少なくとも2つの素材を使う必要があるけど、1枚の素材をシュレッダーにかけて、それをズラしながら再構築すれば、作品として成立するんじゃないかと思って、また始めたという感じです。
2. 伊藤桂司|1958年生まれ。広告、書籍のアートディレクション、グラフィックワークを中心に活動。コラージュ作品も多く手掛ける。
3. 大友克洋|1954年生まれ。『AKIRA』『童夢』などで知られる、日本を代表する漫画家。『スチームボーイ』をはじめ映画監督としての顔も。
2人が愛してやまない、ウォーホルと『ピーナッツ』。
河 今回のUTで、僕はアンディ・ウォーホル*4の作品とコラボレーションしたんですが、これは本当に嬉しかったです。なんせウォーホルは、僕がアートに目覚めるきっかけになったアーティストなので。中学生の頃、たまたま図書館で広げた美術書の中に発見したんだと思うんですけど、その鮮烈な色彩に衝撃を受けたのはもちろん、シルクスクリーンの版ずれとかが、僕の原体験であるところのパンクロックのフライヤーなんかと近かったというのも、大きかった。だけど、調べるうちに作品以上にその方法論に興味を抱くようになって。実際、今の僕は、ウォーホルの方法論を自分なりに分解して実践している気がします。
長 ウォーホルはイラストレーターからアーティストに転身したばかりの頃、アメリカ紙幣をモチーフにしているんですよね。なぜお札だったかというと、誰でも知っているから。つまり、自分が面白いと思っている表現を他人にも伝えるためには、その間を繋ぎとめるモチーフが必要だということですよね。僕もその発想にはすごく影響を受けて、最初の頃は映画やミュージシャンを描いていたんです。でも、そんなに好きなウォーホル作品をコラージュするのは難しかったんじゃないですか?
河 最初はおっかなびっくりでしたけど、好きすぎてやっていくうちに止まらなくなりました(笑)。今回Tシャツになったものの3倍くらいの数を作ったんじゃないですかね。特に気に入っているのは、バナナのやつ。オリジナルのあのバナナの抜け感ってすごいですよね。長場さんにも言えることですが、ビビってない。なので、僕もあの抜け感を意識して取り組みました。
4. アンディ・ウォーホル|1928年生まれ。花や著名人など、身近な題材をモチーフにしたシルクスクリーン作品で知られるポップアートの旗手。
河 だから、「この作品とあの作品を組み合わせたらとんでもないことなる!」みたいなアイデアもありましたが、それをしたのはひとつだけで、ほかはすべてシュレッダーコラージュです。結果、中学生の頃の僕が欲しいと思えるTシャツに仕上がったんじゃないかと思います。長場さんは今回、『ピーナッツ*5』がモチーフなんですよね? 実は僕、子供の頃からスヌーピーグッズを集めているくらい大好きなんですよ。
5. ピーナッツ|少年チャーリー・ブラウンやその愛犬スヌーピーの日常を描いた漫画。チャールズ・M・シュルツが1950年から描き始めた。
長 僕も子供の頃から『ピーナッツ』は大好きでしたが、ちゃんと向き合うようになったのは、今の作風になってから。モチーフにしたら、スヌーピーの線の強さのヒントが得られるんじゃないかと思って、よく描いていたんです。UTでは前回も『ピーナッツ』をやっていて、そのときはテーマが「インドア」だったんだけど、今回は「アウトドア」。だから、サングラスがトレードマークのジョー・クール*6なんかを描きました。これを着て散歩でもしてくれたらと思っていたけど、それも難しい時期なので、せめて部屋着として着て家の中でもアウトドア感を味わっていただければ。ちなみに、イラストと一緒にプリントされている言葉は、『ピーナッツ』から引用しています。
河 言葉もいいですよね。谷川俊太郎*7さんが翻訳した『ピーナッツ』の言葉の本は全部持っていて、辛くなると読んで、心を癒やしています(笑)。
6. ジョー・クール|『ピーナッツ』に登場する、サングラスがトレードマークの大学生。いつもキャンパス内でガールハントをしている。
7. 谷川俊太郎|1931年生まれ。『二十億光年の孤独』などで知られる詩人。『ピーナッツ』『スイミー』など、翻訳も数多く手掛けている。
PROFILE
ながば・ゆう|1976年、東京都生まれ。個展での作品発表のほか、アパレルブランド、広告、雑誌や書籍などにも積極的に作品を提供している。作品集に『I DRAW』。また、共著に『みんなの映画100選』『みんなの恋愛映画100選』がある。
かわむら・こうすけ|1979年、広島県生まれ。国内外で個展を開催すると同時に企業ともコラボレーションするなど、その活動は多岐にわたる。作品集に『KOSUKE KAWAMURA ARCHIVES』『MIX-UPKosuke KAWAMURA collage works』など。
©2021 Peanuts Worldwide LLC ©2021 Yu Nagaba
©/®/™ The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. Andy Warhol artwork Design by Kosuke Kawamura
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