2019年7月からスタートしたアニメ『ONE PIECE』ワノ国編。放映開始以降、視聴者から高い評価を獲得し続けている人気シリーズとUTのコラボレーションが実現した。独特のセリフ回しや色づかいなど、原作の「ワノ国編」の魅力を存分に生かしながら、アニメーションという表現に落とし込む製作の現場を訪れ、シリーズディレクターを務める長峯達也さんに話を聞いた。
麦わらの一味のごとく、チーム一丸となって。
――まず長峯監督が考える『ONE PIECE』ワノ国編とこれまでのシリーズとの違いとは何だと思いますか?同作品ならではの魅力とは何でしょう。
『ONE PIECE』はそれぞれの島の世界観がしっかりとしていて、その島によって全く異なる世界観を味わえるのが魅力だと思います。これまでほとんど西洋的な世界観で描かれてきた『ONE PIECE』を、どのように和のテイストに落とし込むのかはすごく興味深いところではありましたが、そこはさすが尾田(栄一郎)さんとしかいいようがないくらい、しっかり『ONE PIECE』として描かれているんですよね。最初はワノ国編も江戸時代の時代劇のような世界を想像していましたが、ワノ国は日本というわけではない。日本をモチーフにはしているけれど、美術にしても街並みにしてもとにかくカラフルだし、着物にも奇抜な色合いが見られます。金髪の日本髪という登場人物も(笑)。まったく新しい発想で描かれているから知らないはずの場所なのに、なぜか馴染みがあるような感覚にもさせられてしまう。そこは尾田さんの知識量や微細な部分までへのものすごいこだわりが凝縮されているからだと思います。
――漫画原作をアニメに落とし込む際に意識していることとは何でしょうか?
漫画にはない、動きや音楽、そして役者の演技など、様々な力を合わせて一つの作品に仕上げていくことに尽きると思います。特に「間」に関しては、読んでいる人それぞれの間があります。それぞれの読者の間に合わせることは物理的に不可能なので、自分たちがかっこいい、気持ちいいと思う間を意識しています。見てくれている人たちがそれに共感してくれたら最高ですね。もともとストーリーもキャラクターも原作がしっかりしているぶん、アニメに翻訳するときに最初に考えたのは優秀なスタッフたちがいっぱいいるので、彼らが十分に力を発揮できる体制を整えることでした。
――『ONE PIECE』ワノ国編の制作に携わるチームのメンバーは何人くらいですか?
『ONE PIECE』のスタッフルームというのがあって、専任でやっている演出家と作画監督が十数人ずつ、それから1つの話数に対して原画マンが10〜20人。美術監督として設定担当と美術担当がいたりと、1ヶ月単位にすると専任以外も含め、約2,000人が動く計算になります。1話に対して5,000枚以上の画を描いていて、それを毎週続けるため、かなりの人数に携わってもらっていますね。
――毎週話、高いクオリティの作品を作り出す秘訣とは何でしょう?作画に関しても今シリーズは非常に評価が高いですよね。
作画に関しては、キャラクターデザイナーと総作画監督がとにかく頑張ってくれている。キャラクターデザイナーが個人的にもゾロが特に大好きで、かっこいいゾロを描きたいという「好き」がモチベーションになっている。『ONE PIECE』は20年以上続いているので、この作品が好きな人って本当にたくさんいるんです。皆それぞれの「好き」があるけれど、バラバラだったらもったいない。好きな人の力をまとめて、「好き」のベクトルを揃えることを意識しました。若い人たちにも好きな人が多いので、そういう人たちにどんどん作品作りに参加させてあげたい。最近だと海外からの人も増えていて、中国や南米、フランスなどから参加してくれてチームのグローバル化も進んでいます。製作側が楽しんで作っていると、世界のどこからでも人が集まってきてくれるということを実感しています。
なんと今回、UT magazine のための特別イラストをONE PIECEチームが描き下ろしてくれた。線画だけでも躍動感が伝わってくる。
なかなか見ることのできない貴重なラフ。
これがスペシャルイラスト完成版だ!
――長峯監督のお仕事はその2,000人の皆さんをまとめるということですよね?
とはいえ、僕が実際関わるのは50人くらい。特に演出さんとのやり取りになります。原作をアニメ化する表現する方法があるのですが、クオリティを保つためになるべくコンテの難易度を高くしすぎないよう演出家と話して、最初はコンテを結構直したりして、難しくて楽しくないカットは削るようにしました。クオリティ面でできることは、まずはギアセカンドくらいで全体のスタッフの力量やチーム力を高めたところで、ギアをあげていくのが大切だと思います。僕の経験上、いきなりトップギアで進めてしまうと、人がついてこない。2,000人いるわけで、それぞれにいろんな考えがある。「『ONE PIECE』にこれくらい力を貸してくれないか」という感じで、チームを作っています。理想としては新しい表現方法にどんどん挑戦していって、トップギアでいきたいところですが、やっぱり仲間がいないとダメなんですよ。『ONE PIECE』と同じでルフィだって、ナミがいないと死んじゃいますから
長嶺監督のデスクでの作業風景。作業が立て込む時は「自分のデスクに住んでいる」という。
――アニメならではの表現としては声優さんの演技も重要ですよね。
声優さん達の演技によって命が吹き込まれるわけですが、みなさん『ONE PIECE』を深く理解してくれている。その上でワノ国編でのディレクションとして、ひとつの台詞の尺を長くしているんです。役者さんの力量がすごいから、彼らのスペックをフルに表現するには、ある程度台詞に尺が必要。ベテランの人は気持ちを込めるとある程度の長さになるんです。最初はやりすぎて「長い」ってクレームを言われましたけれど(笑)。少し歌舞伎を意識したイメージでディレクションしているんです。
長峯監督が考えるルフィたちの魅力
――今回のUTのデザインとなったキャラクターについてもお聞きします。まずルフィについては?
ルフィとはなんぞやとずっと考えていたんです。とにかく自分のやりたいことを全力でやろうとする。今の時代だとなんかやろうとすると先に情報が入ってきて、転ばぬ先の杖ってことわざじゃないですが、ルフィはその杖をぶち折って、「まだ見ぬ世界が見たいんだ」って、全力で壁に突っ込んでいく。そういう姿勢に見ている人は快感を覚えるんじゃないかと思います。ルフィは目の前に敵が現れたらぶっとばすし、正義でも悪でもなく、ただ自分がやりたいようにやって、壁にぶつかって、その壁をつきやぶれなかったら死ぬだけという思いで生きている。それは真実だなって思いますけどね。アニメで気をつけているのは、この人たちは、世界の上澄みだから、ふざけたりしていてもただの間抜けみたいに見えないよう、余裕があるように台詞を作ってもらうようにしています。
――トラファルガー・ローや小紫については?
トラファルガー・ローはかっこいいんだけれど、ルフィたちと関わるうちに世話焼き人のようになっている。必死な表情も印象的だし、苦労人なのですごく人間味を感じます。小紫は色んな経験をしてきたけれど、苦労を表に出さない人。そこがいい。難しいキャラクターで、強さと弱さの両面を持っている人だと思います。
――今回、ジンベエは麦わらの一味の1人として描かれ、またチョッパーのソロのデザインも登場します。
ジンベエは、麦わら一味にとって縁の下の力持ちで、サポートしてくれている。フランキーブルック、前の海賊団がある。フランキー、ジンベエトップはっていたからリーダーの苦しみを知っていて、ルフィを支えている。麦わらの一味にいることに誇りを持っていて、ちょうどこのデザインの構図のように、ジンベエが入ると麦わらの一味にすごく安定感が出ますよね。チョッパーに関しては、不動の人気を誇りますが、最近は苦労人。ルフィの目的を理解していて、可愛いだけでなく、信念を持っているところがいいなと思っています。
――さらに、今回のTシャツのデザインには、ルフィ達がワノ国編で纏う衣装の柄をモチーフにしたものも加わります。
これはアニメで描くのがすごく大変なんです(笑)。細かい柄まで描くと膨大な時間がかかるのですが、ワノ国編はそこを忠実に再現しないと始まらない。やらせるほうも胃が痛いくらい、ワノ国編のアニメーターの何が大変かというのが、この柄の数々に詰まっています(笑)。色鮮やかな衣装の表現もデジタルになったアニメの時代だからできること。昔は100色ぐらいだったので、この柄はデジタル時代だからこそアニメで表現できるようになったのです。
――ありがとうございます。それぞれのキャラクターをあたかも実在する人物のように表現、分析されるのは長峯監督ならではの感性なのだと感じました。最後に、アニメ制作における長峯監督が常に意識していること、信念とは何でしょうか。
アニメって子どもを喜ばせてなんぼ。そういう思いで作っています。僕自身も精神年齢が小学生なので、結局給食の時間に牛乳を飲んでいる友達を笑わせて、鼻から牛乳を出させるみたいなことをいまだにやっているんですよ(笑)。それだけのメンタルでやり続けているといってもいいかな。ただ、大人なので「日本の文化のために」というきれいなコメントももちろん用意していますけれどね。
ONE PIECEに関する情報はこちらから。
ONE PIECE.com(ワンピースドットコム)
https://one-piece.com/
TVアニメ「ONE PIECE」
フジテレビほかにて毎週日曜あさ9:30放送中
まいにちONE PIECE :
https://one-piece-everyday.com/
PROFILE
長嶺達也|ながみねたつや 1995年東映アニメーション入社。『ワンピースフィルムZ』監督、『劇場版ドラゴンボール超ブロリー』監督
©尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション
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