2018.09 発刊 (服のチカラ 20号より)
サステナブルなジーンズって何だろう?
イノベーションでジーンズの価値を変える。
ジーンズイノベーションセンター
ディレクター
松原正明
ジーンズイノベーションセンター(JIC)がロサンゼルスに設立されたのは、2016年11月のことでした。「ユニクロがジーンズの価値観を変える」──その目的を実現させるための、ジーンズの研究・開発施設なんですね。ジーンズの歴史はアメリカ西海岸から始まりました。その伝統もあって、ジーンズのプレミアムブランドも、トップデザイナーも、最新の情報も、ロサンゼルスに集まっています。いまも昔もここが最先端、デニムの本拠地なんです。ここで考えているのは「いま求められているジーンズとは何か」です。デザインはもちろんですが、デザインには当然のことながら、サステナビリティ(持続可能性)の課題が含まれます。水資源に負荷を与えず、しかもデザインがすばらしい、そういうジーンズはどうすればできるのか。ジーンズのウォッシュ加工は、いったん出来あがったものを、わざわざ大量の水を使って洗うわけです。大量の排水もされる。ジーンズはもともとアメリカの合理主義で生まれたものなのに、これはとても不合理なことですよね。
サステナビリティはジーンズの価値
ロサンゼルスで暮らしていると、自分にとって一番快適な服を選ぶことになるんです。つまり、合理的であること。暑かったらジャケットは脱げばいい。デザイナーのエゴイズムから生まれたような過度な表現の服を、わかったような顔をして着るのも好きじゃない。ジーンズも快適であってほしいわけです。硬くてごわごわしていなければジーンズじゃないなんて、誰も決めつけていません。伸縮自在のデニムも、軽いデニムも、快適なら受け入れる。ジーンズのデザインや価値観は、合理的に変わっていけばいい。そういう土地柄だと思います。快適であることは、環境に対しても同じ感覚が働きます。カリフォルニアは雨が少なくて乾いた土地なので、水がとても貴重です。ジーンズで水を大量に使うなんて、それは快適な事態ではない。なんとかしよう。そう考えるわけです。水資源の問題だけではありません。工場で働く人の問題もあります。ジーンズにヒゲ(太ももの上部などにできる、猫のヒゲにも見える白い筋状の皺)をつけるために、薬品を吹きつけたり、こすったりする。わざわざ穴を開けるヴィンテージ加工は手作業でした。これを知恵とテクノロジーで解決し、サステナブルなジーンズを実現させたい。ジーンズは合理主義が生んだものです。百年以上前にジーンズを進化させた金属のリベットのようなイノベーションはまだあるはず、と思います。そのための知恵も情報もロサンゼルスには集まっている。そこから導きだすイノベーションを探って、実現化すること。それがJICの仕事です。